見送り場所にて
話し終えた彼女は疲れたような、それでいてなんだかホッとしているようなそんな気がした。こういった話を人にしたことは初めてだと言っていたから、今まで話せなかったことを話したことに対する疲労と、話したいことを話せた安堵といったところか。僕はメモしていたパソコンの手を止め、彼女に話しかけた。
「ありがとうございます。他に何か言い残したことはありませんか」
話を聞いていた僕は不思議な気持ちになっていた。彼女という人間を理解したとは思えないが、なんだか誰よりも人間らしい人のようだとは思う。結局のところ、彼女も自身の存在意義が欲しいだけなのだ。自分という空っぽな器に何かを詰め込んで、ちゃんと人間であったという証拠が欲しいのだ。それゆえ今回取材の許可をくれたのだろう。自分の考えを具現化して世に残すために。確実に届かせる手段として。
「いえ、何も。それにもし何か言い忘れていたとしてもきっと気にすることはないと思います。私も、あなたも。私はそれくらいの人間ですから。むしろ変な話ばかりですみません。こんなので大丈夫ですかね?」
不安げに問われた。まあ話すジャンルは自由でいいと言ったら内容が色に固執していたので最初は確かに驚いた。しかしそれもきっと彼女を表しているのだろう。常々彼女が彼女自身に対して感じる不安感が、色となっただけの事。いうなれば様々な色を溢れかえす人々を見て彼女は自分は無色だと感じた、というわけだ。
「とんでもない。なかなかに興味深いお話でした。そろそろ約束のお時間ですね。良い旅路を」
僕が笑ってそう言うと、彼女はふわりと笑いスッと一歩を踏み出した。彼女の旅立ちを見送ると僕はメモをある程度まとめ、家路につく。さあ、ここからが腕の見せ所だ。彼女の生涯最後の言葉、しっかりと本にしてやらねば。