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彼女の色の独白  作者: 睦月紗江
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彼女の独白:私は何色か

 そんな私でも色を感じられない人物がいます。それは私自身です。鏡を見ても、誰かと会話をしても、何をしても色を感じられません。ひたすらな虚ろを感じるだけです。透明ともまた違う、空っぽといった方がしっくりくるような、そんな感覚に陥るのです。自身が話す言葉も、自分のあり様も、感情も何もかもすべてに色がついていないように思います。それこそ私という存在そのものが上辺だけをなぞっているかのようです。言語やら人やら感情やらに色を感じると言ってきた人間が自分自身には感じないというのも変な話ですが、実際そうなのだから仕方がありません。私に関する色だけはさっぱりなのです。今までもこれからも永遠にわかる気がしません。いっそ人の面を被った何か別の生物のように感じるときがあるくらいです。友人たちは私にはよくピンクや赤などが似合う、と言ってくれますがそれはきっと外見の話だろうし、そもそもその色が見た目として似合っているかどうかの確信も持てません。ようは私は私という存在が全然、まったく、これっぽっちも理解できないのです。前に私が理解できないものに対して色を感じることはできないと言いましたが、それは私自身に対しても当てはまります。では今まで人に感じてきたいわゆる「私が理解できるもの」も自分を理解していないのであれば不可能ではないか、という話になるかもしれませんがそれは違います。ちゃんと理解はしているのです、他人に関しては自分なりに。むしろ私は私すらも他人の一人として捉えている感じがあります。言ってみれば私は私を「理解できない他人」として処理をしています。それゆえの虚ろさであり、空っぽな感覚であるのでしょう。他人を無理やり自分が動かしているようなものなのですから違和感ばかりになるのは当たり前の事です。私が発した言葉さえ自分の物でないように感じることがあります。私の行動がなぜそうしたか自分でも理解できないことだってあります。そして私は何も考えずに生きていることの方が多いです。その方が実感のないまま生きている自分をごまかせたからです。他人を理解できる分どのような人物が好意的に見られるかくらいは、実際に私がそのようになれたかは別として理解はできました。それに近い行動さえしておけばとりあえずやり過ごせたし、周りからの評判も良かったのです。

 そうやって生きていけばどうなるでしょうか、御覧のとおり見事なまでに空っぽな人間の出来上がりです。今までは感覚だけで済んでいたものが実際に空っぽになってしまったのです。当たり前ですね。子供のうちはそれで良くても、自分がないまま成長してしまえば大人になってからのやりたいことなど浮かぶわけもありません。流されるままどうにか就職したとて長続きもしないでしょう、成長意欲があるように意識して動いてもいつかはそれが作りものであることがバレるのですから。なんせ私はやりたいことも食べたいものも欲しいものもありません。私を他人として理解しているから他人に何かしてやろうという情もわかず、私のために何かしようという気も起きません。欲をあまり持ったことがないから何かのためにこれをする、という感覚があまりわかりません。結果普通に働くためには偽物の欲を作り、それをあたかも本当のように振舞ってさもそのために生きてます、という体を取らないといけなくなります。なぜならそれが世界では普通に生きるための必須事項のようになっているからです。そして基本的に感情の起伏の薄い私でもこの行為だけは苦痛で仕方ありませんでした。欲はなくとも偽物になりたかったわけではないので、自分から偽物を作る行為がたまらなくしんどかったのです。しかし私が人の内側に色を見る感覚だって生きていくうえではそんなに有用ではありません。今だって上っ面の言葉を並べてとりあえず生きているような状態です。もしかしたら今話している言葉も偽物かもしれません。本当だと確信できるものなんて今の私は何も持っていないのですから。

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