待ち合わせ場所にて
少し暗くなってきた空の色を見て人々は黙々と足早に家路を急ぐ。街中のモニターでは今流行のアーティストが鮮やかな服を着て元気にライブをしている。そんな静かな喧騒の中を僕は走っていた。このままでは遅刻してしまう。走ることを諦めた僕は近くでタクシーを呼び待ち合わせ付近の場所を伝え向かった。そこからさらに走ってぎりぎりの時間で到着した僕を、彼女は静かにそこで待っていた。目が合うとお互いに示し合わせたように手近なところに座る。
「待たせたよね、申し訳ない」
「いいえ、大丈夫です。お気になさらず」
彼女がそう答えるとまた静寂が訪れた。あまりの静けさに耐え切れず僕はいそいそとパソコンを取り出してメモの準備をする。彼女と実際に会うのは初めてだが思っていたより静かな人物だ。もっといろいろ話しかけてくるのではと予想していたのだが外れた。オンラインでやり取りをしていた時はもう少し話しやすい雰囲気だったと感じたのだが。まあインターネット上と現実の性格に差があるというのはよくある話だ。しかし仕事のためにも彼女のためにも、彼女の話から少しでもネタになるものを引き出さねばなるまい。彼女とはそういう約束をしているのだから。準備を終えた僕は彼女に問うた。
「もう始めてもいいですか?」
「……ええ」
少し間をおいて彼女は話しだした。こうして僕は長い長い彼女の色の独白を聞くことになるのである。