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08 これからの予定

「ふう~・・・・・満足だ」


 ぷっくり膨らんだ可愛らしいお腹を満足げに撫でるエル。あれからテーブルに並べられた料理を全て平らげ、今は食休みとしてお茶を(すす)っている。


「あの量をよく食べたわね。アンタの腹はどうなってんのよ」


 隣りの席に座っていたオリビエが椅子の背もたれにだらしなく背を預けているエルの腹を突く。


「ええい、触るなっ」


 パチンっとオリビエの手を叩いてふくれっ面を晒す。


「どうぞ」


 そうこうしていると、エルの目の前に皿が置かれた。キョトンとした目で皿を置いた人物を見ると、そこにはディアンヌが笑みを浮かべて立っていた。


「食後のデザートとよ。サービスだからよかったら食べて」


「いいのか?」


「もちろん。さあ、遠慮せずに召し上がれ」


「それでは・・・・・・」


 一緒に置かれたフォークを掴んで改めて皿の上に置かれているデザートを見る。皿に乗っているのはケーキだった。ただ、エルの知るケーキよりもスポンジ部分に色鮮やかな線がいくつか入っている。


(これは、ケーキだな?だが私が知っているケーキとは少し違うな。まあいい、ありがたくいただくとしよう)


 一口大に切り分け口の中に運ぶ。


「ッん!!」


 一口食べた瞬間に口の中が体験したことのない幸福で満たされる。


「うま~」


 口の中でフルーツの甘味が口いっぱいに広がっていく。ここまで濃厚な甘みを体験したことがないエルは思わず顔を緩めてしまった。その顔はまさに幸せ絶頂と言った具合だ。


 それからエルは先ほどあれだけ食べたはずなのに、ケーキを次々と口に入れていく。飲み込むごとに少しほろ苦い柑橘系の味が喉を通り、それがより一層食欲を刺激する。気が付けばケーキはあっという間にエルの胃袋に収めらていた。


「ああ~・・・・・食文化がここまで進化していたとはなぁ」


「いや、だからどんな生活を送ってきたのよ」


 感慨深げにそうつぶやくエルに、オリビエは呆れたため息を吐く。


 あらかた食事を済ませると、四人はディアンヌが持ってきてくれた紅茶を飲みながら一息つきつつ今後の事を話し始める。


「それで、これからの事なんだが・・・・・」


「エルちゃんをどうするか、だよね?」


「ねえアンタ、行く当てとかあるの?」


 三人に話を向けられたエルは少し考える。


(うむ・・・・・・今ここがどこかも分からない。加えてここまで文化が発達しているとなると、当時とはまた状況も色々と変わっているだろうし、何より・・・・)


 この店に来るまでそれほどの時間は掛かっていない。そんな少しの時間だけでも実感してしまう、時間の流れ。


(・・・・・・知っている人間も、もう、居ないだろうな)


 481年。言葉にしてしまえばそれだけだが、実際は人が生まれ、そして死んでいくには十分すぎる時間だ。長命種であるエルフなどはまだ知っている者もいるだろうが、エルにはそこまでエルフの知人はいない。


 実質、エルの事を知っている人間は皆無と言っていい。


(となれば、先に現状を知るためにはしばらくここに留まって情報収集をするべきか)


 そこまで考えたエルは、三人にしばらくここに泊まれるような場所はあるかと尋ねようとして口を開こうとするが、先に口を開いたのはアイリだった。


「ねえエルちゃん。行く当てがないなら、しばらく私の部屋に来ない?」


「・・・・・いいのか?」


 まさか先に住む場所の提案をされるとは思っていなかったエルは目をパチクリとさせる。


「まあ、それが妥当か。私達三人でフォローすれば少しの間くらいなら匿ってやれないことも無いだろうし」


「その間にちゃんと住める場所を探すとしよう。時間は掛かるとは思うが、やってやれないことは無いだろうし」


 オリビエの言葉にうんと頷いて同意するライアン。そしてアイリは二人が賛成だと取ると、エルの瞳を真っ直ぐ見つめる。


「どうかな?」


 その言葉を受け、エルは少しだけ考え、そしてコクリと頷く。


「世話になる」


 その返事にアイリは嬉しそうに、オリビエはやれやれと言った様に、ライアンは楽しそうに、三人はそれぞれの感情をこめてエルに言った。


『こちらこそ』


 こうしてエルはしばらくの間、三人の世話になることが決まった。


「なら、これからエルちゃんに必要な物とか買い揃えないと」


 決まったのなら話は早いとばかりにアイリは手を叩く。


「必要な物?」


「服とか小物とか、生活用品が無いと不便でしょ?」


「アンタ自分がどんな格好でここに来たか忘れたわけ?」


 言われてみればとエルは思い出す。洞窟で目を覚ました自分が何も着ていない裸の状態だったこと。唯一手にしていたのはアルカナのカードが一枚のみ。


 今着ている服も借りものが一着だけ。寮に戻ればあと数着借りてきた服がある程度。それも借りものだから返さなければならない。


 なので今エルの手元に自分の所持品はアルカナのカード以外ない状況だ。これでは生活など出来るはずもない。


「あ」


 女子二人が女の子ならこれを買っておかないと、いやあれも必要だと話していると、ライアンが間の抜けた声を出した。


「うん?どうしたの?」


 見ればライアンは財布の中身を見て固まっていた。


「あ、いや・・・・・お金が・・・・・・・」


『あ』


 そこで二人も気が付き自分の財布の中身を確認する。


「しまった・・・・・ここの支払いは出来るけど、買い物する余裕が・・・・・」


「わ、私も・・・・・・」


「こっちも同じだよ・・・・・・」


『はあ~・・・・・・』


 三人が己の財布の中身を見ながら深々とため息を吐く。あまりにも深刻そうなその様子に、さすがのエルも自分が食い過ぎたのではないかと思って焦りを見せる。


「す、すまん。私が食い過ぎたせいか?」


「え?ああ、いやそんなことは無い。持ち合わせがそんなに無かったんだ」


「ってそうよ!私達まだギルドから報酬貰ってないじゃない!」


『それだっ!』


 思い出したとばかりに声を上げる。どうやら洞窟から帰って以降、エルの介抱でバタバタしていたらしく、依頼達成の報酬を受け取りに行ってないそうだ。


「すっかり忘れてたわ。よし!なら買い物の前に冒険者ギルドに行って報酬を貰いに行きましょう!」


「そうだな。買い物はその後って事で」


「決まりだね」


 三人はそう言うなり席を立った。エルも遅れて席を立つと、会計を済ませるために四人はディアンヌがいるレジへと向かう。


「ご馳走さまでした」


 三人で料金を割り勘する。もちろんエルの分もこれに含まれる。


「ありがとうございました。また来てね。エルちゃんも、いつでも来てね?歓迎するわ」


 そう言って笑顔を浮かべるディアンヌに見送られながら、四人は冒険者ギルドに向けて店を出た。

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