05 再び立ちふさがるかっ!?
冒険者登録をする為に学園で許可書を手に入れた翌日、エル達は冒険者組合の扉を開いた。
「ほお、随分と賑わっているな」
扉を開けば人の賑わう声がエルの耳に入る。そこには数多くの冒険者と思われる人間で賑わっていた。
「さ、こっちが受付よ」
一緒に組合についてきたオリビエ、アイリ、ライアンのお馴染みの三人を先頭に、エル達は組合の受付と思しきカウンターに足を向ける。
受付に行くと、そこには厳つい顔をした男性職員が何かの書類を整理している最中だった。
「こんにちは、グレゴルさん」
「ああ?」
名前を呼ばれた男性職員、グレゴルは書類に向けていた眼をライアン達に向ける。
「何だ、ライアン達か」
「グレゴルさん、名前呼ばれただけで凄むの止めた方が良いですよ?」
ライアンの指摘通り、グレゴルの眼は細められ、威圧している様に見える。
「馬鹿野郎、何度も言ってるだろうがっ、これは視力が悪いから凄んでるように見えるんだよ!気にしてるんだから一々言うなッ!!」
「ははっ、冗談ですよ」
人間が遠くのものを観ようと目を細めたり、太陽の光が眩しくて目を細めたりすると、なぜか睨んでいるように見えるのと一緒で、グレゴルは元の顔が厳ついおかげでその効果が他の人間よりも謙虚に表れてしまうというだけだ。
「ったく・・・・・それで、今日は何の用だ?」
何時もの事なのか、グレゴルは早々にこの話を終われせて用件を尋ねる。
「今日はこの子の冒険者登録をお願いしたいんですよ。ほら、エル」
ライアン達の背中で隠れてしまっていたエルをライアンが背中を押す様にして受付の前に立たせる。
「・・・・・・・このちっこいのが、登録したいと?」
「っ!誰が―――――むぐッ!!」
チビ呼ばわりに対して文句を言おうとしたエルの口を素早くオリビエが押さえて黙らせる。
「はいはい、大人しくする」
「むぐーーーー!!」
オリビエに口と、ついでに肩を押さえられながら暴れるエル。そんなエルを白い眼でグレゴルは見て、隣で愛想笑いをしているライアンとアイリに尋ねる。
「・・・・・・・大丈夫なのか?」
グレゴルの目にはどう見てもチビッ子呼ばわりされて怒る子供にしか見えない。そんな子供が本当に冒険者登録をするのかと疑う。
「はい、大丈夫です」
自信がある様に頷くライアン。そんなライアンを見て、半信半疑だが一応頷くことにした。
「まあいい。こっちは登録基準さえ満たしていれば問題ないわけだからな。それで、お前達が連れてきたってことは学園の生徒か何かって事か?」
「はい、俺達の後輩になります」
「なるほど。じゃあ学園からの許可書も持ってきているな?」
「これです」
アイリが持ってきているカバンの中から昨日フィーリアムが作成した許可書を取り出してグレゴルに渡す。
「・・・・・・・確かに。それじゃあ、この登録用紙に必要事項を記入してくれ」
渡された許可書にざっと目を走らせたグレゴルは、そう言って登録用紙をエルに差し出す。未だにオリビエに口を押えられて暴れていたエルが、登録用紙を差し出されるのと同時にオリビエの手から強引に抜け出す。
「ぷはっ!後で覚えておけよっ」
「はいはい、いいからさっさと書く」
チッと存外な扱いをするオリビエに向けて舌打ちをしたエルは、差し出された登録用紙を受け取って受付に備え付きのペンを取る。
「どれ・・・・・名前、『エル』っと――――――」
小さな左手にペンを持って登録用紙に記入していくエル。そんなエルを静かに見守る四人の目の中、最後の項目に記入を終えたエルは、記入したばかりの登録用紙をグレゴルに渡す。
「・・・・・・・・問題ないな。お嬢ちゃんは魔術師、魔導士タイプで登録でいいな?」
「ああ、それで問題ない」
「よし、なら最後に―――――」
そう言ってグレゴルはカウンターの下に手を伸ばしてある物を引っ張り出す。
「こいつで測定してくれ」
「そ、それはっ!?」
グレゴルが目の前に置いたものを見て、エルは目を見開く。
「何だ、マナ測定が珍しいか?」
そう、グレゴルが取り出したのは、入試でさんざんエルに屈辱を与えたあの忌まわしきマナ測定器だった。
「い、いや・・・・・・」
冷や汗を流しながら測定器を見つめるエルを怪訝に思いながらも、一応職員の務めとして説明を始める。
「測定することにそこまでの意味はないんだが、登録時のマナ量を調べる規則なんだ。これを絶対の基準とするわけじゃないが、依頼を斡旋する時の判断基準としても使うから、その為の測定だと思ってくれ」
学園で使用したモノリス型の測定器と比べ、簡略化され小型化された測定器をずいっとエルの前に押す。
「・・・・・・・・・・」
しかし、エルは測定器を前にして微動だにしない。
「どうした嬢ちゃん?」
事情を知っている三人はエルがなぜ黙っているのかを理解している。だが、だからと言ってこれだけは避けることが出来ないため、ここは見守ることしかできない。
「早くしてくれると助かるんだが?」
若干イラついているような声をグレゴルが出すと、エルは観念したように項垂れながら測定機に手を伸ばす。
「そこに手を置いてジッとしていてくれ」
言われた通りに測定機に手を置いてしばらく待つと、電子的な機械音が鳴ると、モノリスに数字が表示される。
『MP・・・・・・12000』
「・・・・・・・・は?」
モノリスに表示された数字を見て、グレゴルは間抜けな顔を晒してしまう・・・・・・・それを見たエルが俯いてプルプルと震えているのはご愛敬。
「一万二千って何だこの数値は!?嬢ちゃん魔導学園の生徒なんだろ?これでどうやって入学できたんだ!?」
「ぐっ!」
余りにもストレートなグレゴルのこの発言にエルは胸を押さえてよろめく。
「ちょっと、グレゴルさん!!」
「え、あ、いや、すまん、つい・・・・・・」
オリビエが怒りを露にしてグレゴルに怒鳴るが、既に遅い。
グレゴルが驚きのあまり大声で言うものだから、組合にいた他の人間が今の発言を聞いてエル達に目を向ける。
「一万二千って・・・・・・」
「それって、一般人と同じくらいだったか?」
「魔導学園の生徒なのに一万二千って・・・・・・」
と、ヒソヒソと話す声が組合の中に囁かれる。
「ちょ、ちょっと不味いんじゃない?」
「ああ・・・・・・・」
登録したてでこんな騒がれてしまっては、今後の冒険者活動に支障が出るかもしれない。何よりも――――――
「~~~~~~~~ッ!!」
「あわわわわっ!」
エルの体から怒気が具現化しているのではないかと言うほどに怒りで身体を震わせている姿を見て、ライアン達は慌てふためいた。このままでは組合が吹き飛ぶかもしれないと。
と、そんな時――――――
「あっはははははは!!」
エル達から少し離れた場所で大きな笑い声が上がった。