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04 くっ、この歳で正座とは・・・・・

「廊下まで声が聞こえたと思ったら、貴方達はいったい何をしているのですか?」


 呆れたと言わんばかりな声と共にため息を吐くフィーリアム。その前には正座をしたエルとルルイエが項垂れていた。


「ルルイエ先生」


「はい・・・・・」


「教師が生徒に手を上げてどうするのです」


「・・・・・・・すみません」


 フィーリアムの苦言にただただ項垂れるしかないルルイエ。


「エルちゃん」


「う、うむ・・・・・・・」


「気に入らない事があったからと言って、暴力に訴えるのは間違っているとは思いませんか?」


「・・・・・・・・すまん」


 ルルイエと同じくエルも項垂れる。


「二人共、この学園の教師と生徒として、もっと誇りを持った行動をしてください。いいですね?」


『分かりました・・・・・・・』


 二人揃ってフィーリアムに頭を下げたことで、フィーリアムもこれで話は終わりと言う様に手の平をパンッと打つ。


「それで、エルちゃん達はどうして学園に?」


「それなんですが―――――――」


 フィーリアムの疑問にアイリがここに来た理由を説明すると、フィーリアムは納得したように一つ頷く。


「なるほど、そう言う事ですか。分かりました、私の方で手配しておきましょう」


「ありがとうございます!」


「しかし、どうして急に冒険者登録を?」


 フィーリアムのもっともな疑問に対し、エルはビクリと肩を震わせて視線を全力で逸らす。エルのそのあからさまな態度に、フィーリアムは漠然とした疑惑が胸の中に広がる。


「・・・・・・・・エルちゃん?」


 声が若干低い様な気がするが、それはきっと聞き間違えであろう。


「い、いや・・・・・・・冒険者というものに興味があってな、それで登録をしてみようかと・・・・・・」


 額に冷や汗を浮かべながら答えるエルに、ますますフィーリアムの目が疑わし気に細められる。


「・・・・・・・・本当に?」


「う、うむ」


 氷の様な眼差しに、エルはビクビクしつつも首を縦に振る。


 と、何かを諦めたのか、フィーリアムはため息を吐いて何時もの眼差しに戻る。


「エルちゃんがそう言うのなら、そう言う事にしておきましょう」


 かなり含みがある言い方だが、フィーリアムはこの件に関して追及することを止めた。代わりにと言う様に一つ指を一本立てる。


「ただし、無茶な事はしない事。これが条件です」


「ああ、分かった。約束する」


 エルの回答に、ならばよしと頷いて承諾する。


「それでは学園長室まで来てください。そこで書類を渡します」


 こうしてフィーリアムはエル達四人を引き連れて学園長室まで赴くことになった。


 因みに・・・・・・・


「ああ、そうだ。ルルイエ先生」


「はい、何か?」


 若干放置気味になっていたルルイエに、職員室を出る前にフィーリアムが声を掛ける。


「提出期限がもう間もなくですので、忘れずにお願いしますね?もし期限に間に合わない場合は・・・・・・」


「・・・・・・間に合わない場合は?」


 緊張のせいか、ゴクリとルルイエの喉が鳴る。


「前回の期限も間に合わなかったことも合わせて、減給も視野に入れることになりますので・・・・・そのつもりで、お願いしますね?」


 極上の笑みを浮かべながら(目は全く笑っていない)ルルイエに釘を刺す。


「は、はい!全力で事に当たらせてもらいますッ!!」


 今月化粧品やブランド物の服などを購入して懐が割と本気でピンチなルルイエは、フィーリアムのその圧に押されるように頷いてすぐさま椅子に座り直して作業に取り掛かるのであった。



        *    *    *



 ところ変わって学園長室。


 エル達と共に学園長室まで来たフィーリアムは、早速冒険者登録用の書類にペンを走らせる。


 書類の作成はそれほど時間も掛かることなく、直ぐに出来上がり出来立ての書類をエルに手渡す。


「これが登録用の書類か」


「はい。これをもって冒険者組合に行って、登録時にこの書類を一緒に出してください。そうすれば問題なく登録が出来ます」


「分かった。すまんな、手間をかけさせて」


「これくらい、どうと言う事はありませんよ」


 エルの役に立てたのが嬉しいのか、フィーリアムは笑って答える。


「しかし、私が冒険者か・・・・・・何だかおかしな感じだな」


「確かに、そうですね」


 何かを感じ入る様に呟いたエルに、フィーリアムもどこか懐かしむように相槌を交わす。


「それってどういう事?」


 二人のやり取りに疑問を持ったのか、ソファーでギムダスが淹れてくれた紅茶に舌鼓を打っていたオリビエが質問すると、二人は顔を見合わせて苦笑をする。


「私が、と言うか、私達七英雄は各地で暴れ回る魔族共を倒しながら旅をしていたのだが、その過程で街や村を襲う魔物や、時には遺跡の調査もしていたんだ」


「冒険者ではなかったのですが、やっていることは大して変わらなかったのですよ」


『へえ~!』


 七英雄時代の話に三人は声を弾ませる。が、エルは逆に苦い顔となる。


「そのせい、と言うわけではないのだが、ある遺跡で魔族に関する情報を掴んでな、調査をしていたのだが、そこで厄介な連中に絡まれてな・・・・・・」


 疲れて様にため息を吐くエルに、オリビエ達は首を傾げると、フィーリアムが捕捉するように話を引き継ぐ。


「私達とは違い、本物の冒険者グループと鉢合わせしたのです。当時はまだ私達も名が広まっていなかったせいもあって、そのグループに難癖をつけられたのですよ」


「難癖?」


「『お前達、盗掘者だな?』と、出合頭に言ってきよったのだ」


 ああ~・・・・・・と何かを察したように三人も苦笑を浮かべる。


「これがまた話の分からん連中で、いくら盗掘者ではないと言って話を聞きもせんっ!挙句『正義の鉄槌だ!』とか抜かして喧嘩を吹っかけてくる始末だ!ま、返り討ちにしてやったがな」


 その時の光景がイメージできたのか、三人はエルの話を聞いて「無謀な奴らもいるのだな」と哀れみの情が込み上げてきた。


「しかも厄介なのが、その一回だけではなかったのだ」


「って言うと?」


「それからも何度かその冒険者グループと鉢合わせる機会がありまして、その度に私達と、その、何と言うか・・・・・・」


 それだけでフィーリアムが言わんとしていることが理解できたのか、三人は苦笑を浮かべる。


「だから当時、私は冒険者と言う者に良いイメージが無かったのだ。それが巡り巡って私自身が冒険者になるとは、世も末だな」


 やれやれと言わんばかりにため息を吐くエル。当時を知っているフィーリアムも同じなのか、エルのため息に苦笑が洩れる。


「昔の冒険者かぁ・・・・・なあ、その冒険者グループって強かったのか?」


 ライアンが興味津々と言った様に聞くと、同じく興味があるのか、オリビエとアイリもエルに興味がある様な視線を投げかける。


「んん~、そうだな・・・・・・私が見てきた中では上位に入るぐらいには強いとは思うぞ」


「上位って事は、Aランク、もしくはSランクだったって事か」


「そこまでは知らんがな」


「ねえねえ、当時の旅って―――――――」


「ああ、それはだな―――――――」


 ライアンから始まり、オリビエが、アイリが次々に質問を投げかけ、それを一つ一つ当時の事を思い出しながら答えていくエル。


 こうしてちょっとした、聞く者が聞けば実に貴重な話をライアン達はエルから聞くことが出来たのだが、当の三人はまるでおとぎ話を聞く子供の様で、エルの語る話の内容の凄さを真の意味で理解することは無い。


 それを分かった上で、フィーリアムはあえて口出しはせず、四人の語らいを優しく見守るのだった。

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