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02 エル、熱弁する

 エルの金がない宣言により凍り付いた室内の沈黙を破ったのはオリビエだった。


「・・・・・・・・え?何、カツアゲ?」


「違うわッ!!」


 割と本気のこのオリビエの発言にエルは怒鳴り返す。


「じゃあ何?いきなりお金が無いとか、意味わかんないんだけど?」


 至極もっともなオリビエの質問に神妙な顔をしながらエルが頷くと、重苦しい空気を纏いながらその理由を口にした。


「実は―――――――」


 エルの悲壮感が漂うような口調で説明がなされた。


 それを聞いた二人の反応は以下の通り。


「それはちょっと・・・・・・・」


「・・・・・・・・・馬鹿なの?」


「馬鹿言うなッ!!」


 二人共呆れ顔で冷たい眼をエルに向ける。


「だって、お金が無いのはアンタが考えなしに使うから悪いだけだし」


「それにお金がいる理由も『マンガが買いたい」っていうのはちょっとどうかなって・・・・・・」


 そう、エルが金を欲しがっているのはマンガを買いたいからなのだ。


 何故にマンガなのかと言うと、それはエルが封印から目覚めてからエルが目にした現代の文化による影響だ。


 エルが目覚めて以降、寮に来たエルはアイリの部屋で一時お世話になっていた。その時にアイリが所持していた民衆向けの娯楽小説を読みふけ、更に数冊だがそこにマンガも含まれていた。


 最初は「何だ?このやたら目が大きい人間は?」などとマンガに描かれている人間の描き方などにケチをつけていた。


 それには当然理由がある。


 エルが七英雄として活躍していた時代には娯楽などはほとんどなく、あるとしたら楽器を使った演奏、吟遊詩人の話、舞台劇場などしかなく、特に舞台劇場などは一部の有力貴族などの一定の富を持つ者でしか楽しむことが出来ない。


 一般庶民がやれることなど、精々盤上遊戯か、子供のごっこ遊び、読みまわされて擦り切れた本を読むぐらいだ。


 そんな中にも芸術関係も含まれてはいるが、当時は絵を描くにも何かと道具を揃えるのに金もかかるもので、早々簡単にできる物ではない。


 それでもごく一部の人間が絵画などを描いて生計を立てている芸術家もいるのだが、どれも人物画や風景画などの、一枚の紙に世界を表現する物ばかりだ。


 エルも絵画などは見たことはあるが、どれも完成された美しいものばかりで、マンガの様にコミカルに描かれているものなど一切なかった。


 だからエルはこの時代に新たに出来た文化、『マンガ』の事を馬鹿にした。


 曰く、こんな絵の何所に芸術的美があるのだ?と。


 しかし、特にやることも無かったエルはマンガを手に取り、一ページ一ページ馬鹿にしながら読み進めていくうちに――――――――――沼にハマった。


 それはもうどっぷりと。


 気が付けばエルはアイリの部屋にあったマンガを全て読破し、更に自分の寮部屋が与えられて以降、ちょくちょく街に行ってマンガを買い漁っていた。


 今ではエルの部屋にある本棚にはマンガが大量に収められている。中には学術書や魔術関連の本も当然あるのだが、マンガの割合の方が圧倒的に多い。


 そして今日、エルはベイガリー食堂の帰りに偶々見つけた場所でそれを見つけた。


 そう、エルが寄った店とは本屋で、エルが見つけたのは現在エルが今もっともハマっているマンガの新刊だった。


「一枚の紙の上、そこにある小さな枠組み(コマの事)描かれた絵が一つ一つ意味を持ち、そして一つの壮大な物語になっていく・・・・・・・・分かるか?一冊を読み終えた時の感慨を。そして次の巻に向ける期待感をっ!」


「うわっ、めんどくさぁ・・・・・・・」


 立ち上がり拳を振り上げて演説を繰り広げるエルを、あきれ果てた眼を向けながらオリビエがツッコむ。


「そ、それで、エルちゃんは結局どうしたいの?」


 エルの熱い話に若干引き気味になりながらも、アイリは話の内容を元の軌道に戻すべく話を振ると、エルはハッと我に返ってバツの悪そうな顔をしながら再び椅子に座り直す。


「ごほんっ・・・・・・つまり私が言いたいのは、どうにかして金を稼ぎたいから、何か金を稼ぐ方法を知らないかと思ってな、それでここに来たのだ」


「お金を稼ぐ方法ね~・・・・・・・・」


 んん~とアイリとオリビエは考え込むと、何かを思い出したのか、アイリがエルに質問する。


「そう言えば、エルちゃんどうやってお金を手に入れてたの?」


「そう言えばそうよね。アンタ、どっからお金を調達してたのよ。やっぱりカツアゲ?」


「だから違うわッ!!」


 エルの現在の身の回りにある物は、学園の入学に合わせてフィーリアムが手配したものだ。流石に何もない状態では生活は出来ないから、と言う理由だ。


「じゃあどうやって?」


「フィーが『お小遣いです』とか言って渡してきたのだ」


「ぷっ、お小遣い・・・・・・」


「何だ?」


 ジロっと噴き出すオリビエを睨むと、オリビエは「べっつに~」と言ってそっぽを向く。


「それってどれくらい?」


「これくらいだ」


 そう言って指を立てて金額を示す。


「結構貰ったんだね」


「子供に渡すお小遣いにしては多い方ね」


 わざわざ『子供』と言う部分にアクセントをつけるオリビエ。


「お前、さっきからうるさいぞっ」


「まあまあ・・・・・・・けど、マンガも買えないぐらい使ったって言うのはやり過ぎだよ?」


「うっ、そ、それは、その・・・・・・・いや、これは私が悪いのではなく、あのような文化が出来ている今の世の中が―――――」


 などとゴニャゴニャと小さい声で言い訳を述べるエルに、アイリはため息をつく。


(何だか、学園長の苦労が少しわかった気がする)


 と、フィーリアムの苦労をそっと(しの)びながらどうしたものかと考える。


 しばらく二人はどうするべきかあれこれ考えた結果―――――


「ねえ、いっそアレに登録させたら?」


「そうだね、その方が早いかも。エルちゃんなら直ぐに稼げるだろうし」


「それに、いざとなったらわたし達の手伝いもしてもらえるし、フフッ」


「悪い顔になってるよ?・・・・・・・でも、それは魅力的かも」


 二人は何やらわかり合った様に会話を進めるが、当然エルには何のことだかさっぱり分からない。


「何だ、アレとは?」


 首を傾げるエルに、二人は悪だくみを考えていそうな顔をエルに向ける。


「アンタ、冒険者登録をしなさいよ」


 そんな提案を持ち掛けた。

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