エピローグ
下校時刻を少し過ぎてしまったが、エル達は学園を後にし、学生寮に戻ってきた。丁度その頃にはいい具合に腹も空き、七人は学生寮備え付きの食堂を利用することにした。
流石に人の目もある食堂内でエルに学園長室での話の続きを聞くわけにもいかず、適当な雑談のみでその場を終え、食後は何事もなく七人は別れた。
当然だがこの学生寮は男子と女子で分かれており、正面玄関から向かって右が男子、左が女子となっており、中央ホールがある場所を必ず通らないとお互い行き来できない様になっている。(当然女子寮は男子禁制となっている)
この中央ホールがある場所には食堂が隣接されており、エル達はその出入り口で別れたのだが、しばらくするとエルだけがホールに戻ってくる。
理由はホールに隣接している大浴場をする為だ。
エルは小脇にタオルや着替えを抱えてある入り口をくぐる。扉の先にはいくつものロッカーが並んで脱衣所となっており、エルは適当なロッカーの前に陣取り、着ている服を脱ぎだし裸になる。
髪を適当にまとめ上げて、持ってきたタオルを一枚掴むと、入り口とは真逆の位置にある扉を開けると、途端に湿気の帯びた湯気が視界を覆う。
「誰も居ないのか」
徐々に見える範囲に人の影が無い事を確認し、エルは丁度いいと思った。
この浴場は学生寮で生活する生徒達が多く利用しており、それを見越してかなりの大きさになっている。(当然男子と女子で浴場は分かれている)
普段この時間は数名の生徒が利用しているのだが、今日は偶然にも誰もいない。エルは気持ちよく入れそうだと頬を緩めながら壁際にある蛇口の前の椅子に座って身体を洗い始める。
一通り洗い終わると、湯船に向かい豪快にダイブする。
「ぷはっ、誰もいないと気持ちがいいなぁ」
こんな大きな湯船なら一度はやってみたかったと思っていたエルは、ここぞとばかりにバシャバシャと行儀悪く泳ぎ始める。
「いや~この解放感はたまらんなぁ~」
「アンタ、何してんの?」
鼻歌交じりに泳いでいると、いつの間にやら浴室の扉が開いており、そこには呆れた顔をしたオリビエと、微笑ましいものを見る眼で笑っているアイリが立っていた。
「・・・・・・・・いや、これは違うぞ」
何が違うのかさっぱり分からないが、エルは取り繕うように泳ぐのを止めて湯船の中で正座する。その頬に流れるのは湯か、それとも冷や汗か、それは本人にも分からない。
「はあ~・・・・・・お願いだから他の人に迷惑だけはかけないでよ?」
「わ、分かっている」
どうだか、と言いたげな目を向けながらオリビエとアイリも体を洗うために壁際に移動する。二人が身体を洗っている姿を何となく眺めながら、エルはぼんやりと湯船につかる。
二人が身体を洗い終わって湯船につかる。三人以外誰もいないのに、なぜか自然と三人は肩を並べる様に湯につかった。
「んん~、やっぱお風呂は良いわね。今日あった事なんてどうでもよくなってきたわ」
「ふふっ、そうだね」
「それには同感だ」
三人ともゆったりと身体を浴槽の縁に背中を預けて足を伸ばす。
「まあそれでも、このチビッ子があのエルフィアナ様だったってのは、衝撃的すぎたけど」
「・・・・・・何だ、文句でもあるのか?」
不服そうに頬を膨らますエルを見て、オリビエは心の中で「本当に子供にしか見えない」と思ってしまうが、口には出さなかった。
「別に。ただ不思議だなぁ~って」
「何がだ?」
なんて言えばいいんだろ?と言いながら顎に指を当てながら考えるオリビエ。
「物語の登場人物が目の前にいる事、とか?」
「そうそれ」
アイリが先に疑問を口にし、オリビエがそれに頷く。
「話の中だと凄いカッコイイ大人の女性ってイメージだったのに、蓋を開けたらこんなチビッ子だし」
「チビ言うなっ!」
抗議するエルの頬を突きながら軽く流される。
「それより、エルちゃん」
「ああ?」
不機嫌そうに返事を返すと、アイリは微笑みながら言葉を紡ぐ。
「これからよろしくね」
「よろしく」
アイリに続いて、オリビエまでもが笑みを浮かべながらそんなことを口にする。
「・・・・・・・・・ふん、勝手にしろ」
そっぽを向いてしまうエルの頬は、赤かった。それは風呂のせいか、それとも照れか。
「ねえ、それよりもガノジャック砦の攻防の話を聞かせてよ!わたしあの話好きなのよ!」
「あ、私も聞きたいかも!」
「ええいっ、うるさい!近づくな!!」
そう言いながら詰め寄ってくる二人を押し返しながらエル心の中で呟く。
(まったく、騒がしくなりそうだ)
そう思うエルの口端は、上を向いていた。
ここで一区切りと言う事で、第一章完です。
次からは二章突入と言う事で、読んでもらえたら幸いです。