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43 切っ掛けは偶然

「あれ?ちょっと待てよ・・・・・」


「ん?どうした?」


 六人のマナ値が自分よりも圧倒的に上と言う現実に打ちのめされていると、エルの耳にライアンの疑問の声が届いた。


「カードに術式を刻んだって言ってたけど、それって刻印魔術だよな?」


「あ、そうっか!」


 ライアンのこの台詞に、いち早く何かに気が付いたオリビエが声を上げる。


「七英雄が活躍していた時代には、まだ刻印魔術は開発されていなかったはず。それなのにどうやってカードに術式を刻印できたの?」


 それを聞いた残りの四人も「ああ、確かに!」と期待を込めてエルを見ると、当の本人はなんてことのない様に答えを提示する。


「ああ、それは私が最初に刻印魔術を()()()()()()()


「刻印魔術を、見つけた?」


 妙な言い回しに首を傾げるオリビエ。その答えも直ぐにエルの口から告げられる。


「魔術の実験中に偶然アーティファクトに術式が刻まれてな、それならば他のアーティファクトにも出来るのではないかと考えてやってみたのだ。その結果がこのカードと言うわけだ」


「偶然で刻印術式が出来るのかよ・・・・・」


 エルの話に若干引き気味になるベルフェルに、フィーリアムは捕捉するように話に加わる。


「あの時は驚きましたよ。何日も部屋から出てこないから心配して部屋に入ってみれば、床に倒れたエル様を見つけたんですから」


「倒れてたって、一体何をしてたの?」


「いや・・・・・・つい熱中しすぎて、何日も寝ないで実験をしていたら倒れてな、はは・・・・・」


 それは全くの偶然だった。


 ある時、エルが新しい魔術を開発する為に実験室に籠って研究をしていた時、寝不足と疲労で意識が途切れそうな状態だったエルは、自分が何をしているのかあやふやな状態だった。


 そんなあやふやな状態で実験を続けていた結果、エルは倒れた。


 寝不足と疲労で意識が途切れる寸前、エルが発動させていた術式が偶然にも近くにあったアーティファクトに刻まれた。


 眼を覚ました後に自分が最後に何をやっていたのかいまいち覚えていなかったエルは、実験室に戻って確認してみると、確かに術式が刻まれたアーティファクトがあった。


 エルはそれをどうやったのかいまいち覚えていないが、確かに術式が刻まれている事を認めると、直ぐに原因を探した。


 七英雄が活躍していた時代には刻印魔術は存在せず、術式は物体に定着させる方法は確立されていなかった。


 物体に術を施すことは出来たが、それは術を施した本人のマナが尽きると自然に術も消えてしまう。だから物体に魔術を施すのは付与(エンチャント)としてだけだった。


 今まで物体に魔術を永続的に効果が発揮される魔術を開発、研究する者もいたが、どれも失敗に終わっていた。


 それを今回エルが発見したこの結果により、エルは今まで研究されていた方向とは別の方向で研究することで、アーティファクトに術式を施すことが出来ると分かった。


 そうして出来たのがエルの持つカードだ。


 仲間達のために考え、仲間達のために作り上げられたカードは、七人の絆とも言える物になった。


 そのカードを偶々(たまたま)エルの知り合い(後に刻印魔術を開発した)錬金術師にこの事を雑談感覚で話すと、その錬金術師はエルの見つけた新発見に嫉妬して研究をすることになるのだが、それはまた別の話。


(まさかアレが切っ掛けで刻印魔術が完成するとは思わなかったが・・・・・・)


 乾いた笑いを浮かべるエルに、フィーリアムは冷たい眼を向ける。


「エル様は昔から一つの事に集中すると周りが見えなくなってしまうのです。それこそ実験中に疲労で倒れるほど」


 うっ!と指摘を受けたエルはバツの悪い顔をしながらフィーリアムから眼を逸らす。


「あの時だって本当に大変だったんですよ?口から泡を噴いているエル様を担いで医務室まで運ぶ羽目になった私の気持ちも考えてください」


「うぐっ、す、すまん・・・・・・・」


 フィーリアムの叱責に項垂れるエル。その姿は傍目から見ると姉に叱られている妹の様で、六人は暖かい眼でその光景を見ていた。


「だ、だがおかげで刻印魔術の切っ掛けになったのだ。後はあの錬金バカが正式な魔術として昇華させたのだから、私の発見は後の魔術界にとってとても有意義なもので―――――」


「それでも倒れるまでやり続けるのはやり過ぎです!」


「・・・・・・・・すまん」


 流石にフィーリアムの正論には反論することも出来ず、エルは素直に頭を下げる。


「まったく、エル様は・・・・・」


 溜息を吐くフィーリアムに、場の空気を変えるためにあえて明るい声を上げながらベルフェルが二人の間に割って入る。


「要は、エルちゃんのお陰で刻印魔術の切っ掛けが出来て、それが今の時代に役立ったって事だよな?」


「ま、まあなっ!」


 ベルフェルのよいしょでエルの低下したテンションが再び浮上する。


「ねえねえエルちゃん、他の人達の話とか聞いても良いかな!?」


「あ、俺も聞きたい!バルドス様の話とかすっげぇ興味ある!」


 フィオナに続きベルフェルまでもが話に食いつくようにエルに期待の眼を向ける。それは他の四人も同じようで、エルに期待の眼を向けている。


「まあ、別にいいが」


「やった!じゃあ精霊使いの―――――」


 エルが快く頷くと、フィオナが待ってましたと言わんばかりにエルに質問をしようとするが、それを遮る様に部屋の中に扉を叩く音が響く。


「どうぞ」


 フィーリアムの返事に反応して扉が開かる。姿を見せたのは執事のギムダスだった。


「失礼します。皆さま、あと少しで下校時刻になりますが、いかがしますか?」


 ギムダスに言われて思い出す様に部屋に置かれている時計へと目を向けると、学園長室を訪れてそれなりの時間が経っていたのか、もう下校時まで十分もない時間となっていた。


「そうですね、流石に今日はここまでにしましょう」


 フィーリアムのこの言葉に今からエルに色々聞きたがっていた六人が不満の声を上げるが、フィーリアムは教師の顔となって六人を諭す様に言う。


「ダメです。私の前で規則を破るつもりですか?」


 それを言われては何も言えないのか、六人は渋々と言った感じで頷く。それを見たフィーリアムは満足そうに頷くと、先程浮かべていた教師の顔を辞め、優しい笑顔を浮かべる。


「今日が駄目でも、別の日に聞けばいいですよ。何せ、エル様は今ここにいるのですから」


 そう言ってエルに目を向けるフィーリアムの顔には、今がとても幸せな事だと言う様な笑みを浮かべていた。


 その笑顔を見たエルは頬を赤らめながら、フィーリアムから顔を背けてポツリと呟く。


「・・・・・・・まあ、時間はあるんだ。別の機会にでも話を聞かせてやる」


 そんなエルの呟きは、果たして六人に向けたものか、それとも、フィーリアムに向けた言葉なのか、この場に来たばかりのギムダスには分からなかったが、フィーリアムの嬉しそうな顔を見て、暖かな気持ちが胸の奥を満たしていった。

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