42 確認しました、ご本人様ですね?
「あれ、ここは・・・・・・」
気が付けばアイリ達は学園長室の中にいた。
「どうだ、これで分かったか?私が本物のエルフィアナだと言うことが」
『・・・・・・・・・・・』
エルの問いに、しかし六人は答えない。どこか呆然としているようにただ黙ったままエルを見つめている。
「なんだ、まだ疑っているのか?」
「エル様、皆まだ理解が追い付いていないだけだと思いますよ?少し考える時間をあげた方がいいのではないですか?」
「・・・・・・・まあ、そうか」
フィーリアムの言う通り、六人は先ほどの過去の出来事を見て、呆然としてしまっている。いきなりあのようなものを見せられては無理もないのだが。
「・・・・・・・あれが、エルちゃんが過去に体験した事なんだよね?」
六人が先ほどのことを頭の中で整理している中、一番に声をあげたのはアイリだった。
「ああ、そうだ」
「それじゃあ、あれは本当にあった事なんだね?」
「そうだ」
アイリの問いに、エルは淡々と答えを返す。それを受け、アイリは何かを考え込むようにしばらく口を紡ぐと、再びエルに問いかける。
「魔王は、今どうしてるの?エルちゃんがエルフィアナ様なら、魔王は復活してしまっているの?」
『っ⁉』
アイリのその問いに、残りの五人は息を飲む。それは五人も気になっていたことだ。もしも先ほどのエルが見せた過去の体験が本当なら、五百年の封印はどうなっているのかと。
「それについては私が説明しましょう」
エルの代わりにフィーリアムが現状の説明を六人にする。
五百年間の封印のはずが、なぜかエルだけが先に封印から目覚め、いまだに魔王は封印から目覚めていないこと。その原因は未だにわかっていないこと。今現在はその原因を探っていること。そして、完全に魔王を消滅させる方法を探っていること。その全てを包み隠さず語った。
フィーリアムの話に、六人は時折質問を交えながら話を聞き、話を聞き終えた後は全員黙り込んでしまった。
「・・・・・・・つまり、後十一年以内に魔王を消滅させる方法を考えないと、世界が滅んでしまう。そういうことですか?」
状況を整理するかのようにライアンが問うと、エルとフィーリアムは重々しく頷いた。
「そうだ。私たちが、いや、私が取った選択はあくまでも人類に猶予を与える為のものだった・・・・・・・不甲斐ない話だがな」
「・・・・・・・もし、エルちゃんが死んでしまったりしたら、封印はどうなるの?」
「私が死んだ場合、封印を維持することはできず、魔王は復活する。そうなれば世界は滅ぶことになるな」
『・・・・・・・・・』
淡々としたエルの答えに、六人は何とも言えない表情で黙り込んでしまう。その空気を払うように、エルは努めて明るい声を意識しながら声をあげた。
「まあ、そうそう簡単に死ぬつもりもないがな。心配するな、必ず魔王を倒す術を見つけて、お前たちの未来を守ると約束しよう。最後に残った七英雄の名に懸けてな」
そう言って不敵に笑うエルに、その場の空気が少しだけ弛緩する。そして、エルは再度六人に問うた。
「それで、話を信じる気になったか?」
エルの問いに、六人は顔を見合わせて頷くと、代表してアイリが前に歩み出る。
「信じます。エルちゃんがエルフィアナ様だということを」
真剣な眼差しを向ける六人に満足したようにエルは頷いてからフィーリアムに目を向けると、フィーリアムも承知したように頷きを返す。
「それでは、初めに言った通りこのことは他言無用です。決して外部にこの話が漏れないように注意してください」
『はいっ!』
フィーリアムの最終確認に、六人は力強く答えを返した。
* * *
「そう言えば、エルちゃ、エルフィアナ様が持っていたカードは一体なんですか?」
「そうだな、じゃなかった、そうですね。あのカードは言ったどういう意味があるんですか?俺たちが聞いている伝承なんかではカードの存在は伝わっていなかったはずですけど」
話が一区切りついたことで緊張の糸が切れたフィオナとライアンがそんな事をエルに聞くと、エルは苦虫を嚙んだように顔を歪める。
「ああ~・・・・・・説明するのはいいが、その前にその口調はやめろ」
「え、でもエルフィアナ様に対して無礼なことは・・・・・」
「そうですね、かの英雄に対して礼儀を欠く真似はできませんし」
エルの苦言にライアンとアルフォードがそれはできないと言うが、肝心の本人はかなり嫌そうな顔で言葉を返す。
「その、なんだ・・・・・今更お前たちに敬語なんぞ使われても気持ちが悪いというか、よそよそしいというか・・・・・ああもうっ、とにかく敬語はやめろ‼」
そう言って今度は怒るように抗議の声を上げると、フィーリアムがそれを聞いて思わず笑い声を上げてしまう。
「おいこらフィーっ、笑うな‼」
「くすくすっ、ご、ごめんなさい、つい・・・・・」
二人の会話に六人が首を傾げていると、フィーリアムがその顔に笑みを浮かべたまま六人に説明した。
「エル様は貴方達にこれまで通りに接してほしいと言ってるんですよ。もっと言えば・・・・・・・今まで通り親しい間柄でいたいと言っているんですよ」
「お、おいっ、私はそこまで言っとらんぞッ‼」
若干頬を赤らめながら講義するが、そんな微笑ましい姿を見せられては説得力などない。
しかしそれが良かったのか、今まで一歩引いて黙っていたオリビエが安堵の息を吐いた。
(よかった・・・・・これからどう接していけばいいかわからなくなってたから助かったわ)
エルがエルフィアナと言うことはオリビエも認めたが、それはそれで問題があった。忘れているかもしれないが、オリビエは大のエルフィアナファンなのだ。それが本人を目の前にして、しかもこんな少女になっていることを考えると、どう接していこうか悩んでいたのだ。
(今まで生意気なチビ助呼ばわりしてたから、嫌われてたらどうしようかと思ったけど・・・・・・)
この様子なら大丈夫だと胸を撫でおろす。結局オリビエはなんだかんだと言いながら、エルのことを気に入っていたのだ。
「はあ~・・・・・もういい。それで、カードのことだったな?これは屋敷でも言ったと思うが、これはアーティファクトだ」
気を取り直したエルは、六人に見えるようにカードを掲げた。
「アーティファクト・・・・・・けど、屋敷では大したものじゃないみたいなこと言ってなかったか?」
ベルフェルの疑問に、エルは頷きながら詳細を説明していく。
「確かに、これにはそこまでの機能はない。これは思念伝達の、平たく言えば連絡用のアーティファクトだ・・・・・・元々は、な」
「元々?」
「ああ、これには思念伝達以外にも、私が手を加えて改良してあるんだ」
「それって一体どんなものなんだ?」
興味津々というように六人はエルの話に耳を傾ける。六人のその様子に気をよくしながら、エルは得意げに話を続ける。
「これには思念伝達のほか、所有者の戦闘記録を読み取って自身に反映させる術と、私の持つマナをカードを通じて貸し与える術式が刻まれているんだ」
「戦闘記録を読み取るって、それじゃあもしかして」
何かに気が付いたのか、ライアンが納得したかのようにエルに目を向けると、エルも肯定するように頷いて答える。
「ライアンの考えている通り、これに刻まれたバルドスの戦闘の記憶を読み取って私に反映させたんだ」
「なるほど、だからあんな動きができたのか」
エルの説明を聞いてベルフェルも納得したように頷く。
「それじゃあ、もう一つの機能は?」
アルフォードの問いにもエルは気分よく答える。
「言った通り、私の持っているマナを他のカード所持者に貸してやる術だ。この術でバルドスたちは自身の能力の限界を大幅に強化できるんだ」
「それじゃあ、七英雄があれだけ強いのは・・・・・」
「私の力あってこそというわけだ‼」
どうだと言わんばかりに胸を張るエルに、フィーリアムから突っ込みが入る。
「確かにエル様の力によるところも大きいですが、他の方たちは元々一人一人が一騎当千でしたから。だから、エル様のサポートなしでも相当な強さだったんですよ」
『へえ~‼』
フィーリアムの話に目を輝かせながら六人は感嘆の声を上げる。フィーリアムが七英雄とともに魔王と戦っていたというのはよく知っている。何せ世間からフィーリアムは生きる伝説などと呼ばれているからだ。
そんな文字通り生きる伝説から聞く話は、若い学生たちにとってはかなり興味深い話なのだ。
「あれ?でもエルちゃんのマナを貸してたら肝心のエルちゃんのマナが無くなるんじゃ?」
「それは心配いりません。と言うのもエル様の保有マナは世界でも類を見ないほどのマナを保有していますから」
「まあ、なっ!」
再び調子に乗って胸を張るエル。
「それて、どれくらいなんですか?」
「そうですね・・・・・・・今のマナ測定で置き換えるのなら・・・・・・・・エル様の最大マナ値は、およそ三千万と言ったところですか」
『さ、三千万⁉』
その途方もない数字に六人は驚愕をあらわにする。それもそのはずで、現在学園に在籍する生徒の平均が約五十万前後と言われているからだ。それを大きく上回る数値に、六人は絶句する。
「あ、あの~、ちなみに他の七英雄の方たちのマナは・・・・・・」
恐る恐るといった感じでベルフェルが尋ねると、フィーリアムは少し考えるそぶりを見せてから答えを口にした。
「大体、一千万を少し上回るくらいでしょうか」
『‼』
この数値にさらに驚く六人。自分のことではないのになぜか胸を張るエル。
「ちなみに、参考までに学園長のマナ値って・・・・」
「私ですか?そうですね、ここ最近は測定をしていなかったから・・・・・・・最後に測定した時は、確か九百万を少し超えていた程度でしょうか」
「きゅ、九百万・・・・・・」
聞いてことを後悔するかのように項垂れるベルフェル。
「あれ?でも測定ではエルのマナ一万二千だったはず」
「ああ、それは-----」
ライアンの疑問にフィーリアムが理由を話すと、六人は納得したように頷く。
「なるほど、つまりそれだけその封印術式が複雑な規模の魔術ってことか」
「まあそう言うことだ」
「それでもあれだけの戦闘ができるんだから、やっぱ七英雄は凄いんだな!」
「当然だ、は~ははっ!」
ベルフェルが持ち上げることで更に調子に乗るエル。
「お?そう言えばお前たちのマナ値を聞いたことがなかったな、一体どれくらいなのだ?」
単純な興味で聞いたこの問いだが、聞かなければよかったと後でエルは後悔する羽目になる。
まず初めにライアンが答える。
「俺は七十八万」
「ほ、ほう、なかなかだな」
今の自分のマナ値よりも圧倒的な数値にエルの頬が若干引きつる。
「俺はライアンより少ないけど、俺も七十万と少しある」
ベルフェルも同じく七十万台のマナを保有していた。
「私は九十一万よ」
「そ、そうか・・・・・・ライアンよりもあるのだな」
オリビエの答えにエルの声が若干震えている、ような気がする。
「そ、それで?アイリはどうなんだ?」
このエルの確認は言ってしまえばこれ以上傷を深めないための、他よりも低いことを願っての確認だったが・・・・・・
「ひゃ、百十六万・・・・・・・」
「oh・・・・・・・」
そんなことは無かった。