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41 証明しよう

 フィーリアムが告げた、エルが七英雄のエルフィアナだと言う事実に、六人は口をあんぐりと開けたまま固まった。そんな中でいち早く再起動したライアンが、どこか呆然とした様子でフィーリアムに尋ねる。


「あ、あの・・・・・エルが七英雄のエルフィアナっていうのは、冗談か何かですか?」


「いえ、事実です」


 戸惑いを隠せないライアンの問いは、フィーリアムのきっぱりとした言葉によって否定される。


「ち、ちょっと待ってください!このチビ助がエルフィアナ様とか、冗談にしてもタチが悪いですよ‼」


「ムっ」


 オリビエの悲鳴じみた言葉に、当の本人が不服そうに顔を歪める。しかしそれも当然のことで、今や伝説といわれるほどの英雄が目の前にいるなどと言われても、誰も信じることはない。


 加えて伝わっている話の中では、エルフィアナは妖艶な魔女と呼ばれており、今のエルとは容姿からしてかけ離れている。


「確かにエルちゃんは黒髪で瞳の色は赤ですけど、それだけでエルフィアナだとは、その、いくら学園長でも信じるのはちょっと・・・・・・」


 アイリの言葉に残りの五人も大きく頷く。


「確かに言葉だけでは信じられないでしょうが、しかし、本当のことなのです」


 フィーリアムもどう証明したものかと頭を悩ませる。


 フィーリアムの場合は過去に自分しか知らないことをエルが知っていること、それとカードの存在があったから確信を得られた。


 だが、今目の前にいる子供たちはエルフィアナと会話したこともないから、思い出などというものはない。


 カードについても、過去の記録にはカードの存在は知られていない。それというのも、カードの存在は仲間内だけの話なので、今の時代まで伝わることはない。


 これは困ったなとフィーリアムが唸っていいると、エルが不満顔で六人に向けて口を開いた。


「お前ら、そんなに信じられないのか?」


「いやそうでしょ!アンタみたいなチビ助がエルフィアナ様とか、エルフィアナ様に対する侮辱でしょ‼」


「おいっ、本人を目の前にして侮辱とはなんだ⁉」


「だからアンタはエルフィアナ様じゃないでしょ!」


「だから私がエルフィアナ本人だ!」


『がるるるる!』


 否定するオリビエと本人だと主張するオリビエが睨み合いながら唸っていると、それをアイリが間に割って入って仲裁する。


「お、落ち着いて二人とも!」


 アイリに宥められて二人がいったん落ち着くも、すぐに元の話題に戻ってしまう。


「大体証拠はあるの?証拠もないのにそんなこと言われても、到底信じられないわね」


 オリビエの言っていることは他の五人も一緒のようで、渋い顔になっていた。


「オリビエの言う通り、何か証拠でもないと俺も信じるのはちょっと・・・・・・」


「わ、私も学園長の話を信じたいけど・・・・・・」


「確かにエルの魔術の腕前はそうとうなものだけど、それだけで信じるのは・・・・・」


「私もちょっと・・・・・・」


「僕も同じです」


 五人がそれぞれの意見を述べながらフィーリアムに目を向けるが、向けられた本人も六人にどう説明したものか悩んでいるおかげで、上手く言葉が出てこない。


「ほら、やっぱり冗談なんじゃない」


 どこか勝ち誇ったように胸を張るオリビエに、エルは奥歯を噛んで唸る。


「お前、そこまで信じたくないのか?」


「当たり前でしょ!エルフィアナ様は私が目標にしている偉大な魔術師なのよ⁉」


 実はオリビエは七英雄のファンで、その中でも同じ魔術師としてエルフィアナのことを崇拝しているぐらいのファンだった。


 なので、当然エルがエルフィアナなのだということは受け入れられるわけもなかった。


「困ったわね・・・・・何か証明できるものはないかしら?」


 フィーリアムは困った顔をしながらエルに助けを求めると、エルはため息をつきながらソファーから立ち上がった。


「しょうがない、本当はこの手を使うのは気が引けるのだが・・・・・」


 そう言いながらエルは未だに疑いの目を向ける六人の前まで歩み寄ると、スカートのポケットから一枚のカードを取り出した。


 それは輝く太陽と女神が描かれたカードだった。


「何よこれ?アンタが持ってたカード?」


「これがどうしたの?」


 取り出したカードに、六人はそれが一体何の証明になるのかと首をかしげる。


「私がエルフィアナだと証明できればいいのだろ?なら、手っ取り早くそれを見せてやる」


「エル様、まさか・・・・・・」


 何かに気付いたフィーリアムが心配そうな目でエルを見ると、エルはフンっと鼻を鳴らした。


「少々刺激が強いが、これでどうにかなったらそれはこいつ等がその程度だったと諦めろ」


「な、何よそれ・・・・・いったい何をさせようってのよ?」


 エルの言葉に不穏な気配を感じ取ったオリビエは顔を引きつらせた。が、そんなことエルにはどうでもいいことだった。


「お前たち、このカードに触れ」


 突然のことに困惑するも、六人は言われた通りカードに触れる。


「その状態で魔力のパスを開放しておけ。下手にレジストしたりしないようにしろ」


 これまた言われた通りにエルの指示に従う。


「ね、ねえ、これ、危険な目にあったりしないわよね?」


「お前たちの要望通り、私がエルフィアナだと言う証拠を見せてやる・・・・・・まあ心配するな。失敗したら廃人になるだけだ」


『はあ⁉』


「いくぞ」


 六人の悲鳴を無視して、エルは魔術を起動させた。その瞬間、カードを中心にして魔術陣が床に描かれ、それと一緒に六人の意識が遠のいていく。



        *     *     *



 ぼんやりとした意識が徐々に目覚め、オリビエが目を開ける。


「ん・・・・・・んん・・・・・・・え?」


 気が付けばオリビエは知らない景色の中にいた。


「ちょっ!な、なにこれ、浮いてる⁉」


 オリビエは知らない景色の中、空に浮かんでいた。オリビエの近くには同じく空に浮かんだ五人の姿もある。皆、同じように今の状況に混乱していた。


「慌てるな」


「エル⁉」


 混乱する六人の前に、同じように空に浮かぶエルが姿を見せる。ただ六人と違ってエルは腕組みをしながら余裕の表情を浮かべている。


「アンタ、これどういうことよ⁉」


「一体ここはどこなんだ?それに俺たちなんで浮いてるんだ?」


「落ち着け。ここは私が体験した記憶の中だ」


 六人を落ち着かせるようにゆっくりとした口調で説明するエル。


「正確にはカードの中に記憶された情報を読み取って、お前たちに追体験させているんだ」


「カードの中の記憶って・・・・・・」


「見ろ、始まるぞ」


 いまだ戸惑う六人をしり目に、エルは地上へと指をさす。つられてそちらに目を向けると、六人は驚愕に目を見開く。


「なんなのよ、アレは⁉」


 そこには黒く禍々しい瘴気を纏った巨大な影があった。そして、それに対峙するかのように七人の人影があった。


「エル、これは一体・・・・・」


 混乱するライアンの問いに、エルは地上に目を向けたまま答える。


「これは私が封印される前、すなわち、お前たちの言う七英雄の最後の戦いの記憶だ」


「それじゃ、あの七人が・・・・・・」


 信じられないというかのように、六人の目が巨大な瘴気と対峙する七人に向く。


「じゃあ、あの黒い塊は・・・・・・」


 アイリのつぶやきに、エルは忌々しいと言いたげなようにその名を口にする。


「不滅の魔王、ベストラーテだ」


 その瞬間、瘴気の塊からとてつもない魔力の波動が放たれ、六人を襲う。


『ッ‼』


 今まで感じたことのない気配に、ここが記憶の中だと言うことも忘れて震え上がる。


「怯えるな。所詮ここは記憶の中、過去の出来事だ」


 どこか悲しい光を宿したエルの目が、地上で戦う七人の姿を追う。


「エルちゃん・・・・・・」


「見ろ!」


 アイリがそんなエルに声をかけようとすると、それを遮るかのようにベルフェルの声が耳に届く。地上を見ると、七人の英雄たちが果敢に魔王に向けて攻撃を開始していた。


 輝く聖剣を携えた青年が魔王へ切り込み、後を追うように鋼の肉体を持った男が追撃を仕掛ける。


「あれって、剣聖と傭兵王じゃないか⁉」


 ベルフェルの言う通り、その二人は剣聖と呼ばれたジルベルト、傭兵王と呼ばれたバルドスだった。


「肖像画と同じ姿・・・・・じゃあやっぱり、これって七英雄の最後の戦い?」


「ああ」


 フィオナの声にエルが答えている間にも戦いは続き、その激しさは増していく。


「凄い・・・・・・これが七英雄の力!」


 その戦いっぷりにライアンとベルフェルは子供のように目を輝かせた。


「あんな高度な魔術を一瞬で構築するなんて!」


 アルフォードとオリビエはその高度な魔術の技量に魅了された。


「あんなにも深く精霊と心を通わせてる・・・・・・あれが精霊姫」


 フィオナは同じ精霊使いの少女に憧れを抱いた。


「本当に凄い・・・・・これが七英雄、世界を救った人達」


 英雄たちの戦いに万感の思いを込めてつぶやくアイリ。しかし、その言葉をエルは否定した。


「馬鹿を言うな。これは記憶、過去の出来事だ。そして、お前たちは知っているはずだ、この後何が起きるのかを」


『っ‼』


 そう、これは過去の出来事。今を生きるアイリ達は当然知っている。この戦いの結末を。


 そして、それはやがて訪れる-------


「くっ、ここまでやっても魔王を倒せないなんて・・・・・」


 アイリ達が見守る中、ジルベルトが片膝を地につけた。それを見たアイリ達は悲壮感で顔を歪ませる。


「そんな・・・・・・」


「あんなに強い七英雄が、負けるなんて・・・・・」


 六人がこれから訪れる未来を知っていても、やはり目の前で見せつけられるとのでは話が違う。


「そうだな、私たちは強かった。だが、それでも魔王を滅ぼすには足りなかった」


 エルのこの言葉に、六人は悔しそうに唇を噛む。


「そろそろ、終わりの時だ」


 エルの言葉に六人は地上へ目を向けると、ジルベルトの隣に長い黒髪に赤い瞳の妖艶な魔女が立っていた。


「エルフィアナ様・・・・・・・」


 オリビエのつぶやきに反応するように、記憶の中のエルフィアナは薄く笑うと、懐から一枚のカードを取り出した。


「あのカード、エルちゃんが持ってた!」


 フィオナがいう通り、過去のエルフィアナが持っていたカードと、エルが持っていたカードは同じだった。


 過去のエルフィアナが持つカードが光ると仲間の体が光り、その光が手に持つカードに吸い込まれていった。


 そして、エルフィアナはジルベルトを魔術で身動きできないようにすると、その足を魔王に向けて歩き出す。


 その後ろから倒れた仲間たちが行くなと叫ぶが、止まらない。


 そして、魔王の前に立ったエルフィアナは頭上に手を掲げると、強い光が放たれあたりを包む。


 それと同時にアイリ達の意識が遠のき始める。


「エルフィアナっ!!!!」


 遠のいていく意識の中、アイリはエルフィアナの名を呼ぶ声を、確かに聴いた。

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