40 戦い終わった後は・・・・
「さて、貴方達には聞きたいことがあります」
エルとフィーリアムの下に駈け寄ったオリビエ達に、開口一番そう言ったフィーリアムは笑顔でそう言った。
ただし眼は笑っていない。
「詳しい話が聞きたいので、この後学園長室まで来てくださいね?」
『は、はい・・・・・・・』
死の宣告にとも言える学園長室への案内の知らせに、オリビエ達は項垂れる。
「それでは、一番の当事者に話を聞きたいので私達は一足先に学園に戻ります。貴方達は後から来てください」
そう言ってフィーリアムはエルを伴って歩き出そうとするが、オリビエがそれを慌てて止める。
「ちょ、ちょっと待ってください!これはどうするんですか!?」
オリビエが指さした先には、未だ意識が戻らず倒れたままのオルゲルの姿があった。
「既に警邏省には連絡がいっています。しばらくすれば衛兵が駆けつけてくるので、身柄を引き渡しておいてください。その後の事は私達の方で処理しておくので」
「わ、分かりました」
「では、後ほど」
そう言い残し、フィーリアムとエルは魔導車に乗って学園へと戻って行った。
* * *
残された六人は衛兵が来るまでの間、先程まであった事を話し合っていた。
「それにしても、エルがあんなにも強かったなんて思わなかった」
「確かに。空まで走ってたしな」
「最後のあの魔術、ファイアランスの様に見えたけど・・・・・」
「ファイアランスにしては威力が桁違いよ。もっと別の魔術に見えたけど・・・・・」
などと、先程からエルの戦いっぷりについて話がされていた。
「あの・・・・・・エルちゃんの事、学園長は『エル様』って言っていませんでしたか?」
フィオナのこの発言で、今までエルのアレが凄かったとか、あの動きは真似できないなどと騒いでいた場が静まった。
「確かに、言ってたな」
同意を示す様にベルフェルも頷く。屋敷からではエルとオルゲルが話していた内容は聞き取ることは出来なかったが、フィーリアムが走りながら叫んだ声はオリビエ達にも聞こえていた。
「・・・・・・ねえ、前から思ってたんだけどさ」
「なに?」
どこか腑に落ちないと言う様に、オリビエが疑問の声を上げる。
「学園長って、なんであんなにチビ助の事を気に掛けると思う?」
「それは・・・・・学園長は、確か『将来有望な魔術師を放置するのは勿体ない』みたいなこと言ってたけど」
学園に入学させると言い出した時の事を思い出しながらライアンが答えると、そこが疑問だと言いたいようにそれを指摘する。
「けど、おかしいと思わない?仮に学園長の言う通り、あのチビ助の魔術の才能を買ったって事なら納得するけど、問題なのは二人の仲よ」
「えっと、どういう事なんですか?」
これまで聞いていただけのアルフォードの疑問に、しまった!と言う様な顔でオリビエが後悔する。
「・・・・・・・・ここだけの話にしてほしんだが」
そう言いながらライアンがエルの事情を知らないフィオナとアルフォード、ベルフェルに、エルとの出会いについて話をした。
「賢者の隠れ里・・・・・本当にあったのか」
「そんなところからエルちゃんが来たなんて・・・・・」
三人はそれぞれ驚きを隠せぬままライアンの話を聞き、そして最終的に納得した。
「隠れ里から来てるなら、あの強さは納得できるな」
「変に常識が欠けているような気がしていたんですが、そう言う事だったんですね」
「エルちゃん、たまにおかしなこと聞いてくる時があったから変だなって思ってたけど、今までそれを知らなかったんですね」
と、二人は普段エルがたまに常識外の行動や言動をすることに少なからず疑問を持っていたようで、ライアンの説明でそれがハッキリした。
「それで、二人の仲と言うのは一体どういう事ですか?」
話を戻す様にアルフォードがそう訊ねる。
「それが、二人の仲が良すぎるのよ」
「良すぎる?」
別にいい事では?と言いたげな様に二人は首を傾げるが、オリビエはそれが不可解だと言い始める。
「仲がいいのは別にいいのよ。ただ、それがまるで古くからの友人と話しているような仲のよさなのよ」
オリビエ達がそう思うのは、偶然にも学園で仲良さそうに二人が話している姿を遠目から見かけたことがあったからだ。
その時の二人はまるで友達同士のじゃれ合いの様に話をしていた。その姿を見ていたからこその疑問だった。
仲が良すぎると。
「もしかして、二人って最初から知り合いだったんじゃないの?」
「けど、それなら秘密にする必要なんてないんじゃないか?」
ベルフェルの言ってる事は至極当たり前の話だ。が、やはりどこか引っかかるのか、一番初めにエルと出会っている三人はどうにも納得がいかない様子だった。
「実はエルちゃんはああ見えて、学園長よりも年上だったり。それで昔から知り合いだとか?なんちゃって、ははっ」
「馬鹿ね、そんなことあるはずないでしょ?」
「エルちゃんはどう見ても人族ですし、それはないんじゃないかと」
「少しは空気読めよ」
皆から何を馬鹿な事を言ってるんだこいつはと、白い眼を向けられて凹むベルフェル。
「・・・・・・・お前ら、もう少し優しい言葉は出ないのか?」
と、項垂れるベルフェルに思わず皆が笑い出すと、そのタイミングでフィーリアムが手配した衛兵が駈け寄ってきた。
六人は衛兵にオルゲル達を任せると、その足を学園に向ける。
* * *
学園に戻ってきたエルとフィーリアムは学園長室のソファーに座り、ギムダスが淹れたお茶で喉を潤していた。
「それで、カードは無事だったんですね?」
「ああ、問題ない」
一通り事の経緯を聞いたフィーリアムは、エルの応えに安堵の息を吐いた。
「そうですか、良かったです」
「・・・・・・迷惑をかけたな、すまん」
フィーリアムが胸を撫で下す姿を見て、エルは謝罪の言葉を口にする。
「気にしないでください。それよりも、エル様を出し抜くなんて、ある意味偉業を成し遂げたようなものですね」
くすくすと笑いながら、カードを盗まれた時の話を指摘して笑い出す。
「うるさいなっ、まさかあんな子供の悪戯を仕掛けてくるとは思わなかったんだよ!」
流石に恥ずかしいのか、エルの顔が若干赤くなる。ごめんなさいと言いながら笑っていたフィーリアムだったが、急に真面目な顔になり、それに釣られるようにエルも居住まいを正す。
「あの子たちの事なんですが・・・・・」
「あの子たち、と言うとオリビエ達の事か?」
「はい」
神妙に頷くフィーリアムに、先を話せと言う様に目で促す。
「カードの事だけではないですが、色々とエル様の事に関して、踏み込み過ぎている様に思うのです」
「・・・・・・・知り過ぎる前に対処した方が良いと?」
はい、と頷くフィーリアムは真剣な目をしていた。
「ふむ・・・・・・言いたいことは分かるが、かといってどうするつもりだ?まさか口封じをしたいわけではあるまい?」
「流石にそんなつもりはありませんよ」
ではどうするのか、と言う答えを聞く前に、部屋の扉をノックする音で話が中断した。
「フィーリアム様、生徒の方々がいらっしゃいました」
「入ってきてもらってください」
どうやらオリビエ達が到着したようだ。扉が開くと案の定オリビエ達で、六人は揃って中に入る。
「話は先ほど全て聞きました。それで早速ですが、貴方達に罰を与えます」
罰と言う一言で六人は青ざめる。何を言われるのか想像がつかないだけに恐怖心が先立ってしまう。特にオリビエ、ライアン、アイリの三人はしばしばこうして学園長室に呼ばれたりしているので(当然何かしろやらかした結果なのだが)他の四人よりも恐怖心が強い。
「・・・・・・・六人には、今から一週間以内に課題のレポート提出をしてもらいます。課題の内容は私自ら出しますのでそのつもりで」
『ええ~・・・・・』
最悪だとか地獄だとか、そんな怨嗟の声を上げる六人をフィーリアムはキッと睨んで黙らせる。
「いいですか?これでも譲歩したのです。本来なら授業のボイコット、それに危険行為で謹慎処分は免れないのですよ?それをこの程度ですませたのですから、むしろ感謝してもらいたいぐらいです」
そう言われては何も言い返すことが出来ず、六人は甘んじて罰を受けるしかない。
「あれ?」
そんな中で一人だけこの罰を免れている人物に思い至り、首を傾げたアイリがフィーリアムに尋ねる。
「あの、学園長、エルちゃんには何もないんですか?」
「あ」
「そ、そうですよっ、俺達には課題を出して、エルには何もないなんて不公平です!!」
そうだそうだと騒ぐ六人を手で制し、フィーリアムは疲れた様なため息を吐いて応えた。
「この人に私が考えた課題など、なんの意味もありませんから・・・・・・」
意味がないという発言に、六人の頭上に疑問符が浮かぶ。
「あの、それはどういった事ですか?」
代表するようにアイリがおずおずと尋ねると、フィーリアムは正面のソファーに座るエルを数秒見つめる。
「・・・・・・・まあ、ここまできたら話してもいいだろう」
フィーリアムが何を考えているのか、それに先程オリビエ達をどうするのかと言う話も、この短いやり取りで理解したエルは、仕方がないと言う様に頷いた。
エルが頷くのを確認したフィーリアムはソファーから立ち上がると、六人に向かい合い、真剣な目を向けながら口を開いた。
「今から話す内容は、他言無用でお願いします」
余りにも真剣なフィーリアムの態度に、六人は神妙な顔をして頷く。
それを確認したフィーリアムはエルの背後に回り、居住まいを正して真実を口にした。
「この方の『エル』と言う名は仮の名です。本当の名を、『エルフィアナ』。貴方方もよく知る七英雄が一人、黒月の魔女エルフィアナ様です」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?』
フィーリアムが告げた言葉に、六人の学生たちは全員口を開けてポカーンとなった。