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28 天使よりも悪魔です

「終わりだ、クソ雑魚が」


 そう言ってエルは勝利宣言をする。


 その言葉がフィールド上にいる二人以外に伝播するまで、少しばかり時間を要した。


「・・・・・・・・・そ、そこまでっ!」


 最初に意識が追いついたのはガーロンだった。ガーロンは直ぐに模擬戦終了を告げ、フィールド上にあがって二人の下に急ぐ。


「おいオズシュタン、大丈夫か?」


 ガーロンの呼びかけに、しかしオズシュタンは答えない。否、答えられない。


「・・・・・・・・」


「気を失っているか」


 オズシュタンは既に意識を手放した後だった。ガーロンは簡単にオズシュタンの容態を確認すると、安堵の息を吐く。


「見た目ほど大したことは無いみたいだな」


「当たり前だ。それ位の分別ぐらいできる」


 やれやれと言った様子で肩を(すく)めるエルにガーロンは立ち上がって向き直る。


「それにしても驚いた。君、誰かに戦い方でも教わったのか?」


「まあ、そんなところだ」


 実際は少し違うのだが、とは心の中だけにして、エルは別の事を口にする。


「それより、こいつは何時もこうなのか?」


 こう、とは何時もオズシュタンはあのような危険行動をするのかとエルは言いたいのだ。


 その事を正確に理解したガーロンは苦虫を噛みつぶしたような顔で答える。


「まあ何だ、何時もこうと言う訳ではないのだが・・・・・・」


 どうも歯切れの悪い言い方に疑問を覚えるも、それ以上興味がないエルはため息と共に(きびす)を返す。


「まあ、どうでもいい。それより、早く治療してやったらどうだ?」


 そう言いながらフィールドから降りようと歩き出す。その後ろ姿にガーロンは思わず聞いてしまう。


「君は、一体何者なんだ?」


 その問いに、エルは一度だけ立ち止まって応えた。


「ただの魔術師だ」


 それだけ言うと、エルは振り返ることなく今度こそフィールドから降りていく。その後ろ姿を見つめながら、ガーロンは物思う。


(『ただの』魔術師が、こんな事簡単にできる訳ないだろうに・・・・・)


 エルと同じことが自分にできるかと問われれば、出来なくはないとガーロンは答えるだろう。ただ、エルはど鮮やかに出来るかと問われると、かなり怪しい。


(あの動きから見て、並みの使い手ではないはずだ。それなのに、マナ値が一万二千?何の冗談だ?)


 測定器が故障していたのではないのかと疑いたくなるほど、ガーロンは衝撃を覚えたのだった。



          *     *     *



「はあ~・・・・まったく、ルールも守れんとは」


 まさかオズシュタンがキレてあのような行動に出るとまでは予想していなかったエルは、自分が()()()()()()()()()を行使していたことなど棚上げして、実に勝手な事を呟いた。


「エルっ」


「エルちゃんっ」


 そんな身勝手な事を愚痴っているエルの下に、フィオナとベルフェルを引き連れたライアンが駆け足でエルの下に来る。


「大丈夫か!?」


「怪我とかしてない!?」


 ライアンは肩を揺さぶりながら、フィオナはべたべたとエルの身体をあっちこっち触りながら心配顔で声を掛ける。


「ああ~鬱陶しいっ!」


 二人に纏わりつかれてうんざりしたエルは、鬱陶しそうに二人を払い除ける。


「怪我などしていない。試合を見ていたのなら知ってるだろうに」


「それはそうだけど・・・・・」


 決まりが悪そうな顔で二人はエルを見るが、エルからしたら何をそんな大げさにすることがあるのだ?と首を傾げたくなる。


「エルちゃん、とんでもなく強いんだな」


 そんな三人を他所に、ライアン達に付いてきたベルフェルが、羨望の眼差しをエルに向けながら話しかけてきた。


「まあな。私の手にかかれば、これくらい朝飯前と言うやつだ。あははっ」


 ベルフェルの手放しの賛辞に気分をよくしたのか、エルはふんぞり返る様に高笑いした。


 その光景は褒められて鼻を伸ばす子供のように見えて、威厳など微塵もない。実際ベルフェルは微笑ましいものを見る眼をエルに向けていた。


「ところでエル」


「ん?何だ?」


 ライアンが何やら神妙な顔つきでエルに話しかける。


「エルは、魔導戦士だったのか?」


 洞窟では確かに魔導士タイプに見えた。少なくともライアンはそう思っていた。しかし、先程の模擬戦を観る限り、どうもそう言う風には見えない。


(あんな動きが出来るんだ、隠れ里でとんでもない訓練を積んでいたに違いない!)


 出来ればその内容も聞いてみたとライアンは考えての問いだった。横で聞いているフィオナとベルフェル、聞き耳を立てている他の生徒もエルの回答に耳を傾けていた。


 果たしてエルの回答は―――――




「いや?私はどちらかと言うと魔導士タイプだぞ?」




『え?』


 答えはライアン達の望む答えではなかった。


「い、いやいやっ!あれだけの動きを見せておいて、魔導士タイプって―――――」


「そう言われてもな~・・・・・・事実、私は武術関連はそこまで得意ではないぞ?」


(力を行使しなければ、今のライアンと互角か少し下、と言ったところか)


 ここに来た時のライアンの模擬戦の様子からそう判断するエル。実際戦ってみなければ分からないが、いい勝負が出来そうだとエルは思っていた。


(魔術を使わない純粋な武術だけなら、の話だが)


 つまりは模擬戦レベルならの話だ。本気で実戦となればエルは勝つ自信しかない。


「いや、でも―――――」


 と、まだ何か言いたいのか、ライアンが尚もエルに問いかけようとしたタイミングで、授業終了の鐘の音が学園内に響いた。


「今日の授業はここまでだ。誰か、オズシュタンを医務室まで連れて行くのを手伝ってくれ」


「皆さんも、一旦教室に戻ってから解散にしましょう」


 ガーロンと中等部の教師が揃って授業終了を言い渡し、片付けなどの指示を出す。


「もう行かなければな。ほら、フィオナも行くぞ?」


「え?あ、う、うん」


「ではな、ライアン。それとベルフェルも」


「あ、ああ、また」


「エルちゃんも」


 と、エルは何も気にすることなく、他の三人はどこか呆けた様に別れを告げる。


 エルとフィオナが去って行く後姿を見ながら、未だに呆けているライアンに、ベルフェルが同じく呆けたように聞く。


「なあ、ライアン・・・・・」


「・・・・・何だ?」


「エルちゃんって、何者?」


「・・・・・・・俺が聞きたいよ」


 二人はしばらくそうして立ち尽くす羽目になった。


 一方、別の場所ではライアン達とは別の視線をエルに向けている者がいた。


「・・・・・・・良い」


「え?何が?」


 オズシュタンの取り巻きの一人は、脳裏に焼き付いたエルの姿を回想する。回想内容は模擬試合で偶然にも目撃したエルのスカートの中身。


 そう、偶然にも男子生徒は天から舞い降りた瞬間(フィールドに着地した時の事)天使の(この場合悪魔のとも言う)秘密の領域を偶然目撃していたのだ。


「・・・・・・・・・惚れた」


「はあッ!?」


 黒だった・・・・・・などと呟きながら、どこか陶酔(とうすい)した顔でエルが訓練場を去る姿を見送ったのだった。

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