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24 絡むな鬱陶しい

「ふあ~・・・・・・」


「―――――――ですので、このキャンバスをどこまで生かせるかと言う事が重要となるわけですが」


 階段状になったその一番上の席、そこに座るエルは頬杖をしながら教壇に立つ魔術教師の授業を聞いていた。と言っても、その話の内容は右から左に流れているのだが。


(まさかここまで退屈だとは思わなかったなぁ・・・・・・)


 一応教科書とノートを開いてペンを握っていはいるものの、エルは手を動かすどころか欠伸までしている始末。


(今更こんな当たり前の事を聞かされてもなぁ・・・・)


 エルが学園に入学して十日が経過していた。その間あった事と言えば、こうした退屈な授業ばかり。


 当初、編入組と言う事で授業内容がついて行けるかと言う危惧がクラスの中であったのだが、初日からエルが()()()()()事でその危惧も今はない。


 それどころか、教師はエルがあからさまに授業を真面目に聞いていないのを分かっているにもかかわらず注意しない、どころか見ないフリをしている。


 他のクラスメイトもその事は分かっているが、それを(とが)めることはしない。むしろエルの存在を無いものとしている。


 そんな奇妙な授業が続き、校舎内に授業終了の鐘の音が響いた。


「それでは、本日はここまでです」


 そう言って早足に教室を出て行く教師は、一瞬エルの姿をチラリと見ると、忌々しそうな顔をして出て行った。


「んん~・・・・・やっと終わったか」


「エルちゃん」


 授業が終わって伸びをするエルに、隣に座っていたフィオナが声を掛ける。


「せめてノートくらい書いておかないと、先生に叱られるよ?それに制服もちゃんと着ないと」


「んん?ああ、そうだな。気が向いたらな」


 そう言って手をヒラヒラとさせる。それと一緒にだらしなく来ていたローブが(そで)を揺らす。


 エルが着ているのは当然この学園の制服だ。白く清潔感のあるシャツに、黒のスカート。膝上まである黒の靴下。そしてこの学園のエンブレムが胸に刻まれた黒のローブ。男子は(当たり前だが)ズボンスタイルになっている。


 少しアレンジしている者もいるが、基本はこれが学園の制服となっている。


 因みに洞窟でエルと初めてあった時にライアン達が着ていたのは実習用の制服だ。


 エルも最初はキッチリと制服を着こんでいたのだが、三日たつ頃にはシャツはスカートから出ており、胸元も少しはだけてもいる。首元に巻いてある赤いループタイも、掛けているというよりも、首からぶら下げていると言った方が正しい。


 更にローブは両肩が剥き出しの状態でだらしない。中途半端に肘までしか袖を通さないか、肩にマントの様に引っかけるかしかしない。


「もうっ、エルちゃんたらっ!」


 気のない返事をするエルに、頬を膨らませながらぷりぷりと怒るフィオナ。ここ最近の二人のやり取りが始まる。


「君、やる気がないのなら学園を辞めたらどうだい?」


「・・・・・・何だ、アル坊か」


「アルフォードだっ!何度言えば分かるんだ君はっ!!大体、『坊』とは何だっ、君だって同じ年だろうが!?」


 二人に、と言うよりエルに絡んできたのは、編入試験で何かとエルを敵視(本人は気付いていない)していた眼鏡の少年、アルフォード・ガルドルドだった。


「分かった分かった。それで、何の用だアル坊」


「だからっ・・・・・はあ~、もうういい。それより、さっき言った通り真面目に授業を受ける気が無いのなら学園を去るべきではないのかい?」


 毎回行われるこのやり取りにいい加減疲れたのか、アルフォードは疲れたため息をつきつつ話を元に戻す。


「君は一体この学園に何しに来たと言うんだい?」


「何、と言われてもなぁ・・・・・・」


(フィーに誘われたから、とは流石に言えんし)


 どう返すべきかと思って口を(つぐ)んでいたら、何を勘違いしたのか、アルフォードは意地の悪い笑みを浮かべる。


「ふんっ、答えられないと言う事は、どうせ適当な理由だろう?」


 まあ、当たらずとも遠からずではある。


「やはりさっさとこの学園から―――――」


「お~いチビッ子、何時まで待たせるの?早くしないと昼休み終わっちゃうわよ?」


 アルフォードが何か言いかけるが、教室の扉を開けて入ってきた第三者の声で中断する。


「誰がチビッ子だっ!」


 入ってきたのはオリビエだった。オリビエは三人がいる場所まで行くと、エルの頭をポンポン叩く。


「はいはい、悪かったわよ」


「やめんかっ」


 オリビエの手を鬱陶(うっとう)しそうに払い除ける。


「オリビエ先輩だ」


「そう言えば、前にも一緒にいるところを見たけど知り合いなのかな?」


 と、オリビエの登場に教室内がざわつく。


「ごめんね騒がせて、この子と約束があるから借りてくわね?フィオナも一緒に行きましょ?」


「は、はい、オリビエさ、先輩っ」


 フィオナの言い直しに苦笑を浮かべながら身を屈めてフィオナと目線を合わす。


「無理に先輩なんて呼ばなくても良いわよ?」


「いえ、学園の中ですから、ちゃんと先輩って呼ばないと」


「別に気にしなくてもいいのに・・・・・まあ、いいわ。行きましょう」


 律儀に年長者に対して礼儀を守ろうという姿勢を見せるフィオナに苦笑を深くしつつ、二人を伴い教室を後にしようとする。


 と――――――


「あ、あのっ、オリビエ先輩!」


「え?」


 教室を出ようとしたオリビエに声を掛けたのはアルフォードだった。アルフォードは緊張なのか、顔を赤くしながら何かを言おうと口をパクパクさせている。


「あ、えっと、その、あ~・・・・・」


「何?アルフォード、だっけ?どうしたの、もしかして一緒に行く?」


 フィオナにした様に身を屈めてアルフォードと目線を合わせてアルフォードの顔を覗きこむ。


 傍目から見たら十分魅力的なオリビエだ。今もクラス内にいる男子はチラチラとオリビエに視線を向けている。


 そんなオリビエが(わざとではない)顔を近づけたのなら、大抵の男子は顔を赤らめるだろう。だからアルフォードのこの反応も、ある意味仕方がないものである。


「あ、い、いえっ!な、何でもないですっ!!」


「そう?それじゃあね」


 先に出てしまった二人を追いかける様にオリビエも教室を出て行く。


 後に残されたアルフォードはがっくりと肩を落とした。



           *       *      *



 そんなことがあったものの、特に問題などもなく三人はアイリとライアンが待つ食堂までやってきた。


「お待たせ」


 先に人数分の席を確保していた二人のテーブルに行くと、二人は談笑するのを一旦止め、三人を歓迎する。


「やっと来たか」


「じゃあ、注文しにいこう?ライアンはAランチで良いんだよね?」


「ああ、頼む」


 ライアンを残してアイリと一緒に四人はカンターに向かい、ライアンの分の食事も一緒に注文して、料理を受け取ってからライアンの待つテーブルに戻る。


 五人で食事をしながら、早速エル達の教室であったことをオリビエが話す。


「―――――って事があってさ。あの眼鏡の子、なんでチビッ子の事目の敵にしてるわけ?」


「知らん。そんなの私に聞くな」


 エルもどうしてアルフォードが絡んでくるのか分からいから、この質問には答えようがない。


「それより、オリビエ先輩はやっぱり凄いですよね」


「え?なにが?」


 フィオナのこの言葉に何を言われているの意図が読めず首を傾げる。


「だって、教室に入ってきたオリビエ先輩に、クラスの皆釘づけになっていましたよ?」


 フィオナの言っている事は、突然上級生が下級生の教室に来たことに対するものではなく、もっと別の意味を指している。


「やっぱり、学年上位の成績のオリビエ先輩は凄いですよ」


「そうかしら?」


 そう、オリビエはこの学園の学年成績の上位に名を連ねている。


「それに今だって・・・・・」


 チラッとフィオナが視線を食堂内に向けると、そこにはオリビエに目を向ける生徒が何人かいた。しかし、その中にはオリビエではなく、他の者に目を向けている者いた。


 その視線の先には―――――


「ライアン先輩もアイリ先輩も皆から注目されていますし」


 そうなのだ。食堂にいる人間の視線の先にはオリビエだけでなく、ライアンとアイリにもその目が向けられていた。


 理由はオリビエと同じく、二人も上位成績者なのだ。


 三人はこの学園に入学してから、必ず十位内に入るはどの成績上位者だった。因みにこの学園は中等部と高等部に分かれている。(初等部が無いのは、魔術の基本中の基本は入学前に習うからだ)


 中等部、高等部共に三年間、計六年間学園で学び、軍や官僚、学者などの役職になる。オリビエ達はまだ高等部一年なのだが、その中で十位以内に入る優等生なのだ。


 因みに中等部の生徒数は147名。高等部161名。全校生徒合わせて308名が在籍している。この中で上位に入るのだから三人の優等さは相当なものである。


「まあ、私達はやりたいことがあるから頑張ってるだけなんだけどね」


 オリビエはそう言って適当に笑って流すが、フィオナは尊敬の眼差しで三人を見やる。


(初めてあった時には、そんな風には見えなかったがな)


 と、心の中でツッコミも、ここは大人しく黙っておいてやろうと考えながら、残りの料理を平らげたのだった。

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