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22 覗き、ダメ、絶対

 試験を終えたエル達は講堂の前まで出て来ていた。


「さて、試験も終わったし、これからどうする?飯にするか?」


 ライアンが肩の荷が下りたと言う様に伸びをしながら四人に振り返る。


「良いんじゃない?もう夕方だし、晩御飯にするには少し早いけど、合格祝いって事で」


「うん、いいと思うよ。エルちゃんとフィオナちゃんもそれでいいかな?」


「私は構わないぞ」


「えっと、私も一緒に良いんですか?」


 エルは了承と頷き、フィオナは自分の名前も含まれたことに驚いた。


「もちろん。せっかくこうして知り合えたんだよ?それに今度からは一緒に学園に通う生徒なんだから」


 アイリの言葉にフィオナの顔がパッと花咲く。


「はい!」


「それじゃあ決まりね。場所は・・・・・ベイガリー食堂で良いわよね?」


 オリビエの提案に四人は『異議なし』と答え、五人は揃って歩き出す。と、学園の校門が目の前に見えてきた時、一羽の鳥がスッとエル達の前を横切る。


「ん?アレは・・・・・・」


 それが何かすぐに気が付いたエルはその場で立ち止まる。


「どうしたの?」


 アイリの声を他所に、エルは軽く腕を水平に持ち上げると、その腕に一羽の鳥が降り立った。


「その鳥って・・・・・」


 鳥は口に一通の手紙を咥えていた。それをエルが受け取ると、鳥はエルの腕から離れて飛び立っていく。


「何その手紙?」


 手紙を裏返しても差出人の名前は書かれていない。


「さあな、見れば分かるだろう」


 そう言って手紙の封を開けて中を取り出すと、一枚の便箋(びんせん)が入っていた。中に目を通すとエルは軽く息を吐いた。


「ふむ、フィーリアムからだ」


「学園長から?」


「『渡したい物があるから、今から少し時間をくれ』との事だ」


 手紙の内容を簡素に伝えると、四人は首を傾げた。


「渡したい物って何だろう?」


「さてな、とりあえず行ってくる。すまないが先に行っていてくれ」


「それは良いけど、場所は分かるの?」


「問題ない。ではな」


 軽く手を振りながらエルは四人の下を離れていく。残された四人は仕方ないと先に行くことにした。



          *        *         *



 四人と別れたエルは、そのまま正門とは逆の道、学園の玄関口に向かって歩いて行く。しばらく歩くと、玄関口前に一人の影が立っていた。


「お待ちしておりましてた、エルフィアナ様」


 (うやうや)しく頭を下げた人物はフィーリアムの執事であるギムダスであった。


「うむ。それと、外ではエルと呼べ。誰に聞かれるとも分からぬからな」


「承知しました。それでは、ご案内します」


 そう言ってエルを先導するように校舎に入って行くギムダスに、エルも続いて校舎の中に足を踏み入れる。


 二人は階段を上り、夕日に染まる長い廊下を歩きながら目的地に向かっていく。


「とこれで、フィーが渡したい物と言っていたが、お前はそれが何か知っているか?」


「さて、私は何も。ただ、『預かっていた大切なものを、エル様にお返しする』とだけ聞いておりますが」


「預かっていた?はて、何かフィーに預けていたか?」


 心当たりがないエルは首を傾げていたが、まあ合えば判るだろうと早々に考えるのを止めた。


「・・・・・・エル様、少しお待ちを」


 そう言って急に先を行くギムダスが立ち止まり、何やら周りを警戒し始めた。


「どうした?お前が張っている探索魔術に何か引っかかったか?」


「っ!お気づきでしたか?」


 エルの指摘に驚きを隠せずにエルに振り返ると、エルは当然だと言わんばかりにニヤリと笑う。


「中々大した術だ。隠蔽(いんぺい)の術式も組み込んでいるお陰で、相手に気付かせていないな」


「そこまで・・・・・流石です」


 ギムダスは普段フィーリアムの執事を務めると同時に、警護も務めている。その一環でギムダスは常に刺客などに奇襲をさせない為にこうして探知系の魔術を張っている。


 それも相手に気取られない様に、術を発動しているとは思わせないために、術の発動を隠蔽する術式も組み込んでいる。その隠蔽はそこらの魔術師では感知できないほどのものだ。


 それをあっさりとエルは見破った。こんなに簡単に自分の術が見破られるのは初めてのことで、ギムダスも内心自信があった為に、その驚き様は一押しだ。


「いや、お前の術は見事だ。封印される前の時代でも、ここまで出来る奴はそうはいない。自信を持っていいぞ」


「そう言っていただけると、(わたくし)も嬉しい限りでございます」


「うむ・・・・・・それで、相手は?」


 エルに賞賛されたことに顔を綻ばせるギムダスは、エルの鋭い声で気を引き締める。


「どうやら、相手は遠くからこちらを窺っている様です」


「ふん、盗み見か。趣味が悪い奴だな。どれ・・・・・・・」


 エルが軽く左手を無造作に振るうと、二人の足元に魔術陣が浮かび上がる。


「これはっ」


「なに、ただの遮断(しゃだん)結界だ。相手は遠見の魔術でこちらを(うかが)っているのだろう?この術であれば、向こうは肉眼でこちらを見ない限り、私達を認識できん」


 つまり、遠くから魔術を使ってエル達を見ている限り、二人の事は認識できなくなった、と言う事だ。


「・・・・・お見事です」


 相手の魔術が何か、そして、その対策を瞬時に立ててそれを実行する。普通の魔術師ではこうはいかない。その事にギムダスは戦慄する。


 何より―――――


(詠唱無しで、これほどの術を、これほど早く発動させたっ!?)


 エルの術の発動速度に驚愕する。


 大前提として、魔術を発動するにはいくつかの工程がある。


 まず初めに、脳にマナで作った空白の仮想領域(魔術用語でキャンバスと呼ぶ)を作る。そのキャンバスに必要な力ある文字、ルーン文字を配列させていく。これを術式と呼ぶ。


 そこに詠唱を唱えることで自身が描く魔術のイメージを投影させ、術式を確固たるものに固定する。


 そして、術式を書きこんだキャンバス全体に魔力を通すことにより、世界の法則に介入、改変する力、魔術が発動する。


 ギムダスが驚いたエルの発動速度、そして詠唱無しの発動は、この発動工程に、ある工夫をしたことで出来る技術だ。


 それは、キャンバスの広さ、そして、ルーン文字の配列だ。


 キャンバスが大きければ、そこに配列させるルーン文字の量は増える。同じように完成した術式を起動させる為の消費魔力も必然的に増える。


 エルの場合、このキャンバスの広さが一般の魔術師と違い、小さくキャンバスを作っている。その小さなキャンバスに、必要なルーン文字を配列させるのだが、そこにもエルだからこそできる技術がある。


 それは、魔術に関する莫大な知識を使い、余分なルーン文字を削り、効率的な配列に組み替えているのだ。


 これがもしエルと同じ広さのキャンバスに、一般の魔術師が普段自分が使う時の様に術式を構築してしまうと、ルーン文字がキャンバス内から漏れ出し、魔術は不発、最悪暴発してしまう。


 加えて、エルが詠唱無しで魔術を発動できたのは、膨大な魔術知識が、そのまま魔術の完成イメージとして作用している。したがって、詠唱しなくてもルーン文字の配列が術式として固定できるのだ。


 つまり、腕の良い魔術師とは、このキャンバスの広さ、そしてルーン文字の配列の仕方、術式として固定できる魔術知識で魔術の腕が左右される。


 因みに、実技試験でエルが魔力弾の使用MPを最小限に収めてた絡繰(からく)りは、キャンバスを小さくしているお陰で、キャンバスに送り込む消費魔力を押さえているからだ。


 余談になるが、洞窟内でエルが意識を失ったのは殆どマナが底をついていたからだ。(これはエルの確認不足と言える)


(一体どれ程の知識を身に付ければ、このような事が・・・・・!)


 驚愕するギムダスに、エルは上目遣いで見上げる。


「では、案内を頼む」


「は、はい。こちらです」


 何事も無かったかのように振舞うエルに、ギムダスも頷き再びエルを先導するように歩みを再開する。


(・・・・・・・恐ろしいお方だ)


 内心に滲む僅かな恐怖を押し殺すように、ギムダスは前を歩いた。




          *        *        *




「なにっ!?」


 魔術を通して見ていた景色から、突如エル達の姿が忽然(こつぜん)と姿を消した。


「馬鹿な、見破られたのか!?」


 場所からして約五百メートルほど離れた建物の陰から遠見の魔術を使って監視していたその影は、いきなりの事態に混乱する。


「ちっ、あの執事かっ!」


 どうやらギムダスがこちらの監視に感づいて妨害してきたのだろうと考え、忌々しそうに舌打ちをする。


 実際はエルが妨害したのだが、気付くことは無い。


「・・・・・・仕方がない、引き時だな」


 そうポツリと呟くと、誰にも見られない様に建物の陰へと消える様に身を引いて行った。



          *        *        *



「こちらでございます」


「うむ、案内ご苦労」


 案内された部屋の扉の上には『学園長室』とプレートが飾られていた。


 ギムダスが扉を開けてエルを中へと促す。扉を抜けた先の部屋は広々としており、学園の頂点に立つ者の為に用意された部屋に相応しい豪華な部屋だった。


「ようこそエル様。お待ちしていました」


 大きな窓を背に、執務机を挟んで椅子に座っていたフィーリアムがこちらに微笑を浮かべていた。


「フィー、急にどうしたのだ?何やら手紙には渡したい物があると書いてあったが」


「ええ、その事で及びたてしたのです」


 そう言って机の引き出しを開けて何かを取り出す。それは両手に納まる程度の小さな箱だった。


「何だそれは?えらく厳重に封をしているようだが」


 エルはフィーリアムが取り出した箱に、勝手に開けられない様に封印の術が施されているのを見て取った。しかもそれはかなり厳重な術式だった。


 フィーリアムは箱の蓋に手をかざし、何かの呪文を紡ぐ。すると、箱が一瞬光を帯び、カチリと錠が外れるような音が部屋に響く。


 その箱を持ったままフィーリアムは椅子から立ち上がると、様子を見守っているエルの下に箱を持って行く。


「こちらを、どうか受け取ってください」


「これは?」


「・・・・・・絆の、証です」


 フィーリアムの言葉に、そして、エルを見つめる瞳に、エルは小さく喉を鳴らす。そして、ゆっくりと蓋に手を掛け、開ける。


「これ、はっ!!」


 そこに収められていたのは、二枚のカード。


 (つるぎ)を掲げた騎士のカード。


 血塗られた闘士のカード。


「ジルベルト様、バルドス様のカードです」


「・・・・・・どう、して?」


 それは、かつてエルフィアナと共に魔王と戦た仲間達が持っていた、アルカナのカードだった。

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