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19 実技試験開始

 第二訓練場、二千メートル四方のだだっ広い広場には、現在受講生たちと、その保護者、それに加えてもう一塊の集団が紛れ込んでいた。


「あれは・・・・・お前達と同じ制服だな。ここの学生か?」


 フィーリアムに連れられて遅れて合流したエルは、そこに集まる中に今までいなかった者たちの姿を確認する。


「ああ、そうだよ。多分部活か何かで学園に来てたんだろう。皆今日の事は知ってるから、多分冷やかしが目的だろうね」


 ライアンの言った通り、その集団はまるで下見をする様な目でミラたち受講生を観察している。


「まあ、気にしなくてもいいよ。今度入ってくる新入生の品定めの様なものだからね」


「ふんっ、見世物にされるのは癪っだが、気にしていても仕方ないな」


 そうしてしばらくライアン達と話をしていると、「受講生はこちらに集まってください」と言う試験官の声に従って試験官の前に集合した。


「それではこれより、実技試験を始めます。試験にはこちらを使用します」


 そう言って試験官が後ろに振り返ると、そこには大柄な鎧姿の人形が二体立っていた。


「試験内容は至って簡単です。ここに用意した人形に向けて魔術を行使してもらいます。行使してもらう魔術の系統は問いません。人形に対し、明白な変化を促すもの、例えば攻撃を加える、もしくは干渉系の魔術で人形を変化させるなどです。ここまでで何か質問は?」


「はいっ!」


 確認の為の質問に、ビシッと手を上げる者が一人だけいた。


「何でしょう?」


(あいつか・・・・・)


 手を上げた相手を見て見ると、食堂で絡んできたあの気難しい顔をした眼鏡の少年だった。


「攻撃、もしくは変化を促した結果、人形を破壊してしまっても問題ありませんか?」


『!』


 その言葉に受講生の間にざわつきが生まれる。


 少年は安易にこう言いたいのだ、『自分がやれば破壊してしまうが、構わないか?』と。つまり、それだけの自信が彼にはあると言う事だ。


(えらく自信満々だな。それほどとは思えないが)


 エルの見立てでは人形に着せられている鎧は、対魔付与(アンチマジック)の術式が付与(ふよ)されているであろうからだ。ひな鳥である受講生たちの魔術では破壊は難しいだろうとはエルの見立てだ。


「・・・・・・問題ありません。破壊しても代わりはあるので、全力でやってもらってかまいません」


「分かりました」


「では、他に質問は?・・・・・・・ありませんね。それでは実技試験を開始します。呼ばれた方から前に出てきてください。受験番号一番の方から前に」


 こうして実技試験が開始される。初めに呼ばれたのはどこにでもいそうな少年だ。少年は開始地点、人形から二十メートル離れた位置に立ち、開始の合図を待つ。


「それでは始めてください」


「はいっ!」


 緊張した様子の少年は、何の魔術を使うかを一瞬悩むそぶりを見せた後、おもむろに右手を前に突き出す。


「『集え!』」


 力ある言葉が少年の口から発せられる。瞬間、変化が起きる。少年の突き出した手の平から光の球体が渦を巻くように形作られる。


 魔力で作られた攻勢魔術、『魔力弾』だ。


「『穿て!』」


 少年の声と共に魔力弾は弾かれるように少年の手を離れ、真っ直ぐ人形に突き進み着弾。一瞬の爆発音が広場に響き、人形に着せられた鎧に小さなくぼみが生まれる。


「『集え、穿て!』」


 少年は再び魔力弾を形成すると、間髪入れず発射。二発、三発と続けて魔力弾を撃ち込んでいく。


「そこまで!」


「はあ、はあ・・・・・・」


 汗を流しながら肩で息をする少年は、終了の合図と共に手を下ろす。少年の視線の先には、所々に小さなくぼみを作った鎧人形が悠然と佇んでいた。


 試験官がその結果を手持つボードに書き込んでいく。恐らく少年の記録を取っているのだろう。その表情は淡々としていて、少年はその試験官の顔に悔しそうな表情を浮かべる。


 どうやら自信があったのだろう、試験官が驚く姿でも想像していたのか、期待通りの結果が得られず、少年は試験官に促されてその場から離れる。


「次は三番の方、前へ」


「二番の方、こちらの準備が出来たので前に」


 どうやらマナ測定と同じように、奇数と偶数で分かれて試験を行っていくようだ。初めに一番の少年が一人でやらされたのはデモンストレーションのつもりだろう。


(可哀想に・・・・・だが、これくらいでダメになる様では、最初から魔術師など目指さない方があの少年のためだろう)


 肩を落として他の受講生の後ろに下がる少年を見送りながらそんな事を思う。


 それから順調に試験は進んでいく。受講生たちはここで実際に自分の今の実力を知ってもらうために色々な術を披露(ひろう)していく。


 炎を使って鎧人形を火炙りにしたり、土を操って下から掬い上げるような術を使ったり、中には鎧に付与された対魔付与(アンチマジック)の術式を解こうとしたり、実に様々だ。


(やはりまだまだ若いな。術の構成が甘い、もっと魔力の出力を絞らないと無駄なマナが消費されるだけだぞ)


 一人一人そんな評価を勝手につけていると、次の挑戦者が入れ替わりで鎧人形の前にたった。


(お、あれは)


 今度の挑戦者は、あの自信満々な眼鏡の少年だった。


(あれだけ自信があったんだ、それなりにはやってくれるだろうが、さてさて・・・・・・)


 お手並み拝見(はいけん)だと、まるで観客気分で見守る中、眼鏡の少年が動きを見せる。


「『舞え、風精(ふうせい)』」


(ほう、あの魔術は・・・・・)


 エル達受講生が見守る中、眼鏡の少年の身体を風が渦を巻いて集まってく。


「『刃と成りて、彼のものを引き裂けっ!』」


 風属性魔術『エアリアルエッジ』


 眼鏡の少年が掲げた右腕が振り下ろされた瞬間、取り巻く風が刃と成って、鎧人形に殺到する。


『おお~!!』


 風の刃を見事、鎧人形をズタズタに引き裂いた。今までここまで派手に人形を傷つけた受講生はいなかったためか、見守っていた保護者と在学生たちから歓声の声が上がる。


(ふむ、やるではないか)


 そこまで強力ではないにしろ、対魔付与(アンチマジック)を施された鎧をどうにかできるとは思っていなかったエルは、この結果に目を見張る。


(まさかエアリアルエッジを使うとはな)


 眼鏡の少年が使った魔術はそこまで難しいものではない。と言っても、それはこの学園に席を置くものならば、の話だ。年端も行かぬ子どもが使うには破格ともいえる魔術。それを涼しい顔でやってのけ、()つ、見事に鎧人形を破壊してみせた。


(少しは見込みがありそうだ)


 歓声を浴びながら眼鏡の少年は堂々とした足取りでその場を離れ、受講生たちの後ろに下がる。


「ふんっ」


 エルの横を通り過ぎようとしたその時、少年はエルの方を見て『どうだ!』と言った感じに鼻を鳴らした。


「・・・・・・・感じの悪い奴だな、あのガキは」


 若干イラっとしたが、所詮子供と思って寛大(かんだい)な心で許してやろうと少年の態度をスルーすることにして、次の挑戦者に目を向ける。


「おお、次はフィオナか」


 今度の挑戦者はフィオナだった。


 緊張からか、オドオドしながら開始位置につくフィオナ。その表情は後ろから見守るエルには窺いようがないが、その足は震えていた。


「フィオナ~、頑張れよ~」


 それを見たエルは、お節介だとは分かっていたが、ついついそんな声をフィオナに贈る。


「エルちゃん・・・・・うんっ!」


 エルの声に振り向いたフィオナの顔は、最初驚いたように目を見開いていたが、やがて嬉しそうに破顔すると、大きく頷いて再び前を向く。


「それでは、始めてください」


「スゥ~・・・・・・はいっ!」


 一度大きく深呼吸したフィオナは、開始と同時に両手を組んで、まるで祈りを捧げる様に膝を着く。


 突然の行動に見ていた人間がざわつく、一体彼女は何をしようとしているのか?と。


「『風の精霊よ、どうか、この声を聞き届けて』」


 小さな祈りの声がフィオナの口から紡がれる。すると、フィオナの目の前に風が巻き起こる。


「おお、あれはっ!」


 その術が何であるのか、エルは直ぐに理解した。


(フィオナの奴、まさか精霊使い(エレメンタラー)だったのかっ!?)


 魔術と一括りにしているが、その分野は多岐(たき)にわたる。例えば攻勢魔術、例えば錬金術、等々例を上げればキリがない。


 そんな中に限られた者だけが使える特殊な術がある。その一つが精霊術。それも精霊術はかなり希少性が高い術で、使い手はそう多くない。


 その貴重な使い手が、今目の前にいるフィオナだった。


 フィオナの目の前に集まる風が、やがて羽の生えた小さな人の形を成す。風が止み、姿を見せたのは手のひらサイズの小さな風の精霊。


「精霊さん、お願いっ!」


 フィオナの願いに、精霊は小さく頷く。フィオナの手から飛び立った精霊は、その小さな両手を鎧人形に向ける。


「『エアハンマー』っ!!」


 フィオナの声と同時に、精霊の手から風の戦槌が鎧人形に向けて放たれる。


 ドンッ!!と今日一番の轟音と共に、直撃した鎧人形が後方に吹き飛ぶ。派手に地面と激突しながら停止した鎧人形は、見るも無残な姿を晒す。もしも生身の人間が着ていたら、ひき肉になっていたであろう事が想像できそうなほどの壊れっぷりである。


『おおーーーーー!!』


 その光景に、観衆から今日一番の歓声が爆発する。


「あ、ありがとうございますっ」


 歓声を送られた本人は、顔を赤くしながらぺこぺこと頭を下げる。


 やがて歓声が鳴りやむと、フィオナはそそくさとその場を離れてエルの方に小走りにやってくる。


「はあ~・・・・・緊張したぁ」


「ご苦労だったな。それにしてもフィオナ、お前精霊使い(エレメンタラー)だったんだな」


「う、うん」


「凄いじゃないか!精霊使い(エレメンタラー)は滅多にいない貴重な術だ。しかも先程見せた術の威力も素晴らしい!」


「え、えへへ・・・・そ、そうかな?」


「ああ、お前は凄いぞ!」


 手放しで褒めるエル。そんなエルの絶賛に赤い顔を更に赤くしながらもじもじとしてしまうフィオナ。


「チッ・・・・・・・・」


 そんな姿を面白くなさそうに陰から窺う眼鏡の少年。しかし、二人はそんな少年の視線に気づくことは無く、和気藹々とおしゃべりに興じていた。


「人形の交換が出来たので、試験を再開します。次の人、前に」


 破壊された人形が係員の手で交換され、試験が再開される。


「後もう少しでエルちゃんの番だね」


「そうだな」


「頑張ってね、エルちゃんっ」


 小さな拳を握りしめてエールを送るフィオナに、エルは不敵な笑みをもって応える。


「ああ、任せておけ」

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