17 現実は残酷な様です
「くしゅんっ!」
可愛らしいくしゃみがエルの口から出てくる。
「ズズッ!・・・・・なあ、今何か聞こえなかったか?」
「んん?気のせいじゃない?」
「そうか」
「あっ、そろそろ時間じゃないか?」
ライアンに釣られて食堂入り口の壁に掛けられた時計を見ると、午後の試験が始まる15分前だった。
「確か、次の試験の前にマナ測定があるんでしたよね」
「ええ、そうよ」
「なあ、気になっていたのだが、そのマナ測定と言うやつは何だ?」
エルの何気ない一言にその場にいた全員が沈黙する。フィオナは目を丸くして、オリビエ達は「しまったっ!」っと言う顔をして。
「・・・・・・エルちゃん、知らないの?」
「あ、あはははっ!このチビ助ド田舎で暮らしていたものだからマナ測定って一回もやったことないのよ!だから知らないのよね!ねッ!?」
フィオナに疑問を挟みこませないような勢いで、オリビエが額に脂汗を流しながらエルに詰め寄る。
「お、おおう・・・・・」
その迫力に思わずエルも頷いてしまう。
「そうなんだ。マナ測定って言うのは、文字通り自身の内にある潜在マナを特殊な装置で数値化する事だよ」
「ほう、そんなことが出来るようになったのか」
潜在マナとは、自然界に存在する力の源とも呼ばれるマナとは違い、生まれた時からその者に宿るマナの事を指す。このマナを魔術などを使用する際の力、魔力に変換することによって術が発動する。
エルは感心したように頷くのを他所に、フィオナが席を立つ。
「行こう、エルちゃん」
「ああ」
それに釣られるようにエルも席を立つと、オリビエがフィオナに聞こえない様に小声で話しかけてくる。
「アンタ、あんまり不用意な事は言わない方が良いわよ?」
「ん?私が何か失言でもしたか?」
何も悪い事などしていないぞ、と言った感じでキョトンとするエルに、オリビエはため息を一つ吐く。
「あのね?自分がどうしてここにいるのかを考えなさいよ。アンタがここにいるのは面倒な事情があるからでしょ?」
オリビエはエルの今の境遇を他者に知られるのはマズいのではないのか?と言っているのだ。
「おお、そうだな。その通りだ」
指摘されたことにあっけらかんと答えるエルに、またもやオリビエはため息を吐く。
「ホント、勘弁してよね?学園長からアンタの事頼まれてるこっちの身にもなりなさいよ?」
「分かっている分かっている」
適当に手を振るエルに一抹の不安を覚えながら、五人はマナ測定が行われる行動へと移動を開始した。
講堂に五人が到着すると、様々な機材が講堂に並べられていた。
「ほう、これがマナ測定か」
「そうだよ。この装置を使って潜在マナを測定するの」
しげしげと装置を観察するエルに、どこか子供が新しい玩具に興味を示しているかのような姿に、アイリは思わずクスっと笑みが零れる。
「ただいまよりマナ測定を始めます。受験番号が奇数の方は右に、偶数の方は左に並んでください」
係りの人間んが装置の前に並ぶようにと指示が飛ぶ。それに従ってエルとフィオナも列に並ぶ。エルの番号は56、フィオナは28番なので左の列に並んだ。
その様子を少し離れたところからオリビエ達含む保護者の面々が見守る。その中には様子を見に来たフィーリアムもちゃっかりその中に加わっていた。
「では次、16番の方」
「はいっ!」
番号を呼ばれた男の子が装置の前、二メートルほどあるモノリスの前に歩み出る。
「では、測定を開始します。手を台の上に」
「はい」
モノリスの前におかれた台の上に手を置く。手を置いた場所から淡い光が漏れ出すと同時に、台に繋がっている太いケーブルから光が走る。その光がケーブルを伝い、係員の前におかれた装置に到達、低い駆動音を響かせながら、今度は装置からモノリスに繋がれたケーブルが光る。
「おお・・・・・」
その様子を前の子供の横からひょっこりと顔を出しながら窺うエル。
エルの目の前でモノリスの鏡のような表面に光の文字が浮かび上がる。
『MP・・・・・・160000』
「よしっ!」
その文字を確認した男の子は拳を握って喜ぶ。どうやらいい数値らしい。因みにモノリスに表示されたMPとはマナポイントの略称である。
(十万六千・・・・・他の者のを見るに、十万前後が平均と言ったところか?)
先ほどから観察していると、大体の子供達の数値は八万から十二万と言ったあたりだ。
(お、フィオナの番か)
緊張しているのか、番号を呼ばれたフィオナはガチガチに体を強張らせながら台の前に歩み寄る。
「では、装置に手を置いてください」
「は、はいっ!」
震える手を装置の上に置くと、変化は直ぐに訪れる。モノリスの表面に先程と同じように文字が浮かぶ。
『MP・・・・・・・483000』
『おお~~!!』
その数値を見た保護者組達から驚嘆の声が上がる。
「凄いじゃないか君っ!これほどのマナを保有しているなんて!」
「い、いえ、そんな・・・・・」
計測器を見ていた係員が賞賛の言葉をフィオナに贈ると、フィオナは顔を赤くしながら俯いてしまう。
「ほほう・・・・・やるなフィオナ」
なぜか上から目線なエル。
(先程から見ていた数値の中でも断トツじゃないか)
フィオナの前に測定していた子供達の中でも二十万を少し超えたぐらいの数値が最高だった。その数値の約二倍。
(ふふっ、まあ私ならあんな数値、軽く超えるだろうがなっ!)
ここにいる者達よりも圧倒的強者だと自負しているエルは、自信満々にその時を待つ。
そして――――――
「受験番号56番の方、前へ」
「うむっ!」
遂にエルの番となった。
エルは自信満々に胸を張って装置の前に移動して、先程から見ていた子供達と同じように装置の上に手を乗せる。
「それでは、測定を開始します」
係員の合図と共に装置が稼働する。
(さあさあ、私の圧倒的な数値に恐れおののくがいいっ!!)
不敵な笑みを浮かべるエルの目の前に、モノリスの表面に光が浮かぶ。そこには―――――
『MP・・・・・・12000』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」