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15 闖入者

 筆記試験が終わり、休憩が挟まれる。


 エルは終了と共に教室を出ようとすると、その後ろから声を掛けられる。声を掛けてきたのは先程知り合ったばかりのフィオナだった。


「え、エルちゃん。よ、良かったら、これから一緒にお昼とか、ど、どうかな?」


 どこかもじもじしたフィオナが上目遣いで聞いてくる。


「んん~・・・・・とりあえず私はアイリ達の下に行くつもりなんだが」


「アイリ?」


 知らない名前が出たことでフィオナは首を傾げる。


「ああ、私の連れだ・・・・・何だったら一緒に来るか?」


「え?い、いいの?」


「ああ、別に問題ないだろう」


 どうにも放っておけないフィオナの雰囲気に、ついついエルは世話を焼いてしまう。


「そ、それじゃ、一緒に行っていい?」


「私が誘ったんだ、遠慮することは無い」


「うんっ!」


 こうして二人は一緒に教室を出てアイリ達がいる別室に向かう。途中試験官と思しき人間に場所を聞いて歩くことしばらく、ほどなくしてアイリ達がいる部屋へとたどり着いた。


 扉を開けて中に入ると、アイリ達他、何人かの保護者と思われる者達が思い思いに部屋で寛いでいた。


 部屋に入ってきたエルに気付いたアイリが手招きをしてエル達を呼ぶ。


「お疲れ様。あれ?その子は?」


「こいつはフィオナ。会場で知り合った同じ受講生だ」


 エルの紹介にフィオナはちょこんと頭を下げる。


「フィ、フィオナです」


「初めましてフィオナちゃん。私はアイリ。こっちがオリビエで、こっちがライアン」


 初めて会う人間に恐縮してしまっているフィオナを安心させるようにアイリは微笑と共に自己紹介をする。オリビエとライアンも笑いながら揃って挨拶を交わす。


「それで、二人揃ってどうしたの?」


「ああ、今から飯にしようと言う話になってな、それで三人もとな」


「そっか。人数が多い方が美味しいもんねっ」


「そうだな。それじゃあ場所はどうする?」


「確か今日は試験の為に臨時で食堂が開いてたんじゃなかった?」


 三人ともフィオナと一緒に昼食を採ることに異存はないらしく、どこで食べるか相談を始める。


「よし、じゃあ食堂に行こう。案内するよ」


 ライアンを先頭に五人は食堂へと向かう。流石に在校生と言うだけあった迷いなく食堂に到着する。


 食堂は思っていたよりも広く、いくつもの机と椅子が用意されており、テラス席までもが用意されているようだ。


 席には既に何人かの受講生とその保護者と思われる者達がチラホラと窺える。


「とりあえず注文しよう」


 五人はカウンターに並んでそれぞれ注文をする。アイリ達在校生組は慣れた様子で注文をし、エルとフィオナは何があるのか分からないからアイリ達が勧めたオススメAランチを二人分頼み、料理が乗ったトレイを手に窓際の席に移動して座る。


「それじゃあ、いただきます」


『いただきます』


 ライアンの音頭で五人は食事を始める。


「んん~!美味いっ!」


 どうやらエルはオススメランチがお気に召したのか、上機嫌で箸を進めていく。


「アンタは本当に美味しそうに食べるわね」


「美味いものを上手いと言って何が悪い?」


「別に悪くはないけど」


「ふふっ、美味しそうに食べてる姿を見ると、こっちも何だか嬉しくなっちゃうよね」


「いや、これ作ったのアイリじゃないでしょうが」


「あははっ」


 などと、談笑しながら食事を進めていくうちに、最初はぎこちなかったフィオナは自然と笑顔を咲かせていた。


「ところで、二人は筆記の方はどうだった?」


 粗方食事を済ませたエル達は、飲み物を飲みながら食休みをしていた。そんな中でライアンが何気なく筆記の手ごたえを聞いてくる。


「問題ない・・・・・と、言いたいところだが、歴史関係が少し怪しいな」


 少しどころか大分怪しいのだが、そこはエルのプライドが邪魔をして口には出さない。


「だから勉強しろって言ったのに」


「うるさいっ」


 オリビエのジト目に、流石に少しは資料なり何なりに目を通しておけばよかったかと思っていたエルに反論の余地などない。


「フィオナの方はどうなんだ?」


「わ、私ですか?私は、それなりに出来たと・・・・・あ、そうだエルちゃん、魔術関連の問題の最後なんだけど」


「ん?アレか?アレがどうかしたか?」


 魔術関連の最後とは、エルが魔改造したファイアランスの問題だ。


「あれ、何の魔術公式か分かった?」


「ああ、当然だ。分からん方がどうかしている」


 自信満々に胸を張るエルを感嘆の表情を浮かべながらフィオナが口を開く。


「すごいっ!私全然わからなかったよ!」


「問題って?」


「えっと、魔術関連の問題の最後なんですけど――――」


 オリビエの質問にフィオナがどんな問題だったかを説明した。ついでそこに書かれていた術式を覚えている限り内容も説明する。


「何それ?炎属性の魔術なのは分かるけど・・・・・アイリ、分かる?」


「んん~・・・・・・ちょっと私にも分からないかな」


 オリビエとアイリはフィオナの説明を聞いても首を傾げるばかり。因みにライアンは目が点になっていて、もはや空気になっていた。


「お前ら、そんな事も分からないのか?」


 呆れたようにため息を吐くエルに、若干ムッとした表情になったオリビエが喰ってかかる。


「じゃあアンタは分かったって言うのッ!?」


「当然だ。アレは中級魔術、ファイアランスの術式だ」



「嘘をつくなっ!!」



「ッ!!」


 エルが答えるのと同時、突然エルの答えを否定する大きな声が上がった。


 エルが振り返ると、そこには気難しいそうな顔立ちの眼鏡をかけた少年がいた。その傍らには彼の世話役か、若い執事が控えている。


「・・・・・・誰だ?」


「あの術式がファイアランスなわけないっ!!」


 エルの声を無視するように声を荒げる少年は、つり目がちな目を更に吊り上げてエルの座る席にズガズガと歩いてくる。


「失礼な奴だな。では、お前はアレが何か分かったと言うのか?まさか、分からないなどと間抜けな事は言わないよな?」


 どこか見下す様な含みのある言い方でエルが問い返すと、少年は「うっ!」とたじろいでしまう。


「何だ?分からないのに私に難癖をつけに来たのか?」


「う、うるさいっ!お前が合っている保証だってないじゃないかっ!!」


「坊ちゃま、他の方の目もあります。どうか落ち着いて下さい」


 まだ喰ってかかろうとする少年を傍に控えていた若い執事が窘める。流石に大きな声を出し過ぎたせいか、疎らに居た他の人間もエル達に注目している。


「ふ、フンッ!!」


 他の者の視線に晒されることを嫌ってか、少年は負け惜しみの様に鼻を鳴らすと、エル達の前に来たようにズガズガと食堂を出て行った。若い執事もエル達にぺこりと頭を下げてから少年の後を追う。


「一体何だったんだ、あの生意気な小僧は?」


 突然怒鳴り込んできた少年の行動に疑問符を浮かべながら、エルはまあ、どうでもいいかとお茶に口をつける。

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