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13 光はどちらに向くか

 魔導車に揺られながら窓の外をぼんやりとフィーリアムは眺めていた。冒険者ギルドを後にして帰路に着く途中の事だ。


 思い出すのは先ほどまで一緒にいたエルの事。いや、正確にはエルフィアナの事だ。


「あれから・・・・・もうずいぶんと時が経ってしまったのですね」


 そのつぶやきに、ハンドルを握るギムダスが反応する。


「確か、エルフィアナ様とは師弟の関係でしたか?」


「正確には違うわ。私の師は賢者アーレイン、エル様の直弟子よ」


「アーレイン様の?」


「ええ。エル様が唯一弟子と認めた方がアーレイン様。私も弟子にしてほしいと頼んだことがあるのだけれど、断られてしまったわ・・・・・フフッ」


 何かを思い出したのか、フィーリアムは笑い声を上げる。


「エル様(いわ)く『余りにもあの馬鹿がしつこいから弟子にしてやっただけだ。本来なら私は弟子は取らない。どうしてもと言うなら、あの馬鹿から教われ』と」


「それはまた、何と申しますか・・・・・」


 ギムダスの脳裏にあの小さな少女がそっぽを向きながら不遜(ふそん)な態度でフィーリアムの頼みを断っている姿を想像してしまった。


(・・・・・・あまり違和感はないですね)


 今日初めて会い、会話もろくにしていないが、確かにあの少女なら言いそうだと思ってしまった。


「まあ、アーレイン様からエル様に教えてもらった事を私にも教えてもらっていたから、『兄妹弟子』、とも言えるわね」


「なるほど」


「エル様、さりげなく私にも魔術を教えてくれていた辺り、きっとあれは照れ隠しだと私は睨んでいるわ。ふふっ、ああ見えて、エル様はとても面倒見がいいのよ?」


 それからしばらくフィーリアムは、エル様はこんなことをしていた、あの時は大変だったと、かつての思い出を語った。


 思い出を語るフィーリアムは実に楽しそうで、聞いているギムダスも年甲斐もなく気分が高揚していくのを感じた。


「・・・・・・楽しそうですね、フィーリアム様」


 そんな楽し気に語るフィーリアムに、ギムダスは微笑ましい表情で聞くと、フィーリアムは首を縦に振る。


「ええ、とても楽しいわ。そして・・・・・とても嬉しいの」


「フィーリアム様?」


 流れゆく窓の外の景色を横目に、フィーリアムはそっと微笑んだ。


「もう二度と会う事は決して叶わないと思っていたあの方に、こうして再び会えた・・・・私は、それだけも奇跡だと思うわ」


「フィーリアム様・・・・・・」


「そして―――――――」


 街灯に照らされる街の中であっても、なお輝く月を見上げる。


()()()()()()()()()に代わって、この世界の希望の光になってくれる・・・・・私は、そう信じてる」



       *      *      *



 早いものでエルがアイリ達の世話になってから二日が経った。


 そう、今日はミズガルズ魔導学園の編入試験が行われる日なのだ。


 ミズガルズ魔導学園では編入試験が年に一回行われている。これを逃すと次の機会は一年後の入試試験まで待たなくてはいけないことになる。


 つまり、これを逃せば宿無し一文無しと、かなり切羽詰まった状況に追い込まれることになるのだが、試験を受ける当の本人はと言うと・・・・・・・・


「ふぁ~・・・・・・・眠い」


 盛大な欠伸などしていた。


「ちょっとアンタっ、試験当日なのよ?!」


「うるさいぞ。そんな事、言われなくても分かって・・・・・ふあぁ~・・・・・・zzzz」


「寝るなっ!バカなの?ねえ、バカなのッ!?」


「・・・・・本当にこんな状態で大丈夫なんだろうか」


「は、はは・・・・・どうだろうね」


 立ったまま眠ろうとするエル。それを起こそうとするオリビエ。そんな二人を乾いた笑みを浮かべながら見守るアイリとライアン。


 四人がいる場所は会場となる学園敷地内にある大講堂(だいこうどう)の前だ。まだ眠いと駄々をこねるエルを叩き起こしてここまで連れてきた三人は、試験を受ける訳でもないのに疲労困憊状態だ。


 因みに三人は学園の制服。エルは黒いシャツの上に白のパーカーを羽織り、下はショートパンツと動きやすい服装となっている。


 試験は午前が筆記、午後が実技試験となっている。なので実技に合わせて動きやすい服をオリビエが選んで着せたのだ。それと同時にアイリがエルの長い黒髪を頭の後ろで一括りに纏めている。


 大講堂前の入り口には既に試験を受けるであろう者達が受付に並んでいる。試験開始までまだ時間がある為、余裕はあるが――――――


「ねえアイリ、こいつ本当に大丈夫なの?試験対策なんて何にもしてないんでしょ?」


「うん・・・・・・私も何度も調べものしたり勉強しないの?って聞いてはみたんだけど、『そんなもの必要ない』の一点張りで・・・・・・」


 それどころかエルはアイリの部屋にあった民衆向けの娯楽小説にのめり込んでしまい、この二日間でアイリの部屋にあった本を全て読破してしまっていた。


 その間当然勉学など一切していない。それどころか夜明け間際まで本を読んでいたほどだった。


「そんな状態で本当に大丈夫なの?」


「まあ、一応学園長が大丈夫だろうと言っていたし・・・・・」


 ギルドでの事をライアンは思い出すが、今のエルの姿を見ると不安でしょうがない。


「はい、エルちゃん。これ飲んで」


「ううん?」


 眼がほとんど閉じかけているエルに、アイリが持ってきた鞄の中から携帯ポットを取り出してエルに渡す。中に入っているのは出かける間際に念のためにと持ってきた眠気覚ましのお茶だ。


 お茶を受け取ったエルは言われるがままお茶に口をつけて一口飲む。


「・・・・・・苦い」


「文句言うな」


 渋みと苦みがある眠気覚ましのお茶に眉を潜めるエル。オリビエに促されて何とか半分を飲み切るころにようやくエルの頭がすっきりし始めた。


「んん~・・・・・はあ、少しは目が覚めたか」


 伸びをしながら体の調子を確かめる。まだ若干の眠気はあるものの問題はなかった。


「ほら、目が覚めたなら受付済ませるわよ」


 オリビエを先頭に、四人は受付をしている大講堂入り口に向かう。そこには教職員と思しき女性が受付を担当していた。


「この子の編入試験に来ました。お願いします」


 そう言ってエルを受付の前に立たせる。


「はい。では、こちらの必要事項に記入をお願いします」


 渡された紙にエルが記入していく。名前から生年月日、得意な魔術の系統等々を記入していく。


(とりあえず、フィーの言っていた通りに記入していけば問題はあるまい)


 この二日間の間にフィーリアムからエルに手紙が届いていた。その内容は試験を受けるにあたって、受付用紙に記入する内容に関して書かれていた。


 名前以外はほぼフィーリアムが考えた仮の設定を記入するようにと手紙には書かれていた。


 記入した紙を受付に渡すと、内容を確認、問題なしと判断された。実はエルの後ろにいた三人は受付が通るかどうかドキドキしながら見守っていたのだが、エルはその事に気付くことはない。


「はい、確認しました。では最後に、試験費用をいただきます」


「・・・・・はい、どうぞ」


 アイリがゴソゴソと鞄を漁り、硬貨が入った袋を取り出し受付に渡す。因みにこのお金もフィーリアムが事前に渡しておいたものだ。


「はい、確かに。それとこちら受験票となっていますので、なくさないでください」


 受付から一枚の番号が書かれた札を渡される。札には『56番』と書かれていた。


「では、中に進んでください。それと、付き添いの方は別室が用意されていますので、試験の説明が終わりましたらそちらで待機してもらう事になりますが、よろしいですか?」


「はい」


「それでは、頑張ってください」


 四人が大講堂内に入ると、そこには50人前後の少年少女が今か今かと試験開始を待っていた。集まった子供達は皆エルと同じぐらいの年齢(エルの外見年齢)に見える。


「結構集まってるな」


「そうだね。去年より少し多いかな?」


「ほら、アンタはあの中。私達は壁の方に行ってるから」


 そう言って三人は早々に講堂の壁際に向けて移動していく。後に残されたエルは仕方がないと同じ年齢に見える少年少女達の集まる中に入って行く。


 すると――――


「っ!」


「おっと!」


 丁度横から出てきた一人の少女の肩とぶつかってしまう。


「ああ、すまない」


「い、いえ、こちらこそ、ご、ごめんなさいッ!」


 (ゆる)くウェーブの掛かった金髪の少女がオドオドしながらエルに頭を下げる。


「す、すみません、すみませんっ!け、怪我とかしていませんか!?」


「落ち着け、大丈夫だ。怪我などしていない、だから落ち着け」


 慌てふためく少女を落ち着かせようと、エルは出来るだけ優しく大丈夫だと声を掛ける。


 それがよかったのか、少女はほっと息を吐いて胸を撫で下した。


「怪我がなくてよかったです。すみません、緊張していたせいで周りが見えてなくて・・・・・」


「怪我も無かったんだ、気にする必要はない」


「・・・・・・ほぇ~」


「ん?何だ?」


 まじまじと少女がエルを見つめる。その視線は何所か熱に浮かされているようなものにエルは感じた。


「い、いえ!緊張とかしていないみたいだから、その、凄いなぁ~って」


「そうか?この程度の事で緊張などする必要もないだろ?」


「ふわぁ~凄いですね・・・・・あ、わ、私、フィオナって言います。あ、貴方は?」


「エルだ」


「エルさん、ですね」


「さんは必要ない」


「じゃあ・・・・エルちゃん」


 いや、ちゃんも止めろ、と言いかけるが、少女、フィオナの何所か緩い雰囲気のお陰か、エルはもうそれでいいと頷いてしまう。


「あ、説明、始まるみたいですよ」


 フィオナに釣られて見ると、丁度この試験を務める試験官と思しき男性がエル達の前に立とうとしていた。


「ようやっと始まるか・・・・・やれやれ、さっさと終わらせたいものだな」


 エルにとって試験などままごとの様なものだと思っていた。だから、面倒ごとだと切って捨てている。


「エルちゃん」


「うん?」


 隣りに立つフィオナに顔を向けると、エルとは対照的に真剣な目をしたフィオナがエルに視線を向けていた。


「頑張りましょうッ!」


「・・・・・・・・ああ」


 思いのほか真剣なフィオナの目に、意外感を感じながら、いよいよ試験が始まろうとしていた。

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