12 巻きこみ事故
実に481年ぶりの再会を果たしたエルとフィーリアムはアイリ達が待つ冒険者ギルドに向かうために魔導車に乗っていた。
時刻はとっくに陽が沈み夜となっていた。
「おお~早い早いっ、外から見るのとでは随分と違うものだなっ!」
「そうでしょう?他の魔導車に比べて、今乗っている魔導車は少し特別製で、色々な部分をカスタマイズしてあるんです」
「ほう、それはまた興味深い話だな」
初めての魔導車に気分を良くしたエルが先程からはしゃいでいた。それもう見た目通りの子供の様に。
フィーリアムもそんなエルに当てられたのか、普段ギムダスが知るフィーリアムとは別人のように楽しそうにしている姿を、ギムダスはバックミラーから窺いながら上機嫌にハンドルを握る。
そうこうしていると目的地に着いたのか、魔導車はゆっくりとスピードを落とし、やがて一つの建物の前で停車した。
先に降りたギムダスが後部座席のドアを開ける。
「フィーリアム様、エルフィアナ様、到着しました」
「ありがとうギムダス」
「ごくろう」
魔導車から降りた先の建物を見たエルが感嘆の息を吐く。
「ほう、ギルドも随分と立派になったものだな」
見上げた先には総石造りの三階建の建物がそびえ立っていた。正面の入り口の上には冒険者ギルドアルハザート支部と書かれた看板が大きく飾られていた。
「魔王が封印されてから、各国の復興が可能になったおかげです。それに伴ってギルドもそれに見合う形でここまで大きくなったのです・・・・・これも全て、エル様のお陰ですよ」
「そ、そうか?」
素直に賞賛を送られて若干頬を赤らめる。
「さあ、行きましょう」
フィーリアムが先行してギルドの扉を開けて中に入って行く。エルもそれに続いて中に入ると、途端に騒々しくも活気溢れる声がエルの耳に届く。
「えらく繁盛しているな」
周りを見渡せば様々な装備で身を固めた冒険者達がいた。昔から親しまれている革鎧から、エルも見たことのない装備など、それこそ冒険者の数だけ違う装備を身に着けている。
その冒険者たちを興味深げに観察しながら先を行くフィーリアムの背中を追うと、その先の待合スペースと思しき場所にアイリ達が待っていた。
「遅いですよ?待ちくたびれちゃいましたよ」
長椅子に三人腰掛けながら談笑していた三人は、姿を見せたフィーリアムに駈け寄ると、オリビエが開口一番そんなことを言ってきた。
「ごめんなさいね?つい話に熱が入ってしまったもので」
「気にしないでください。俺達も次にどの依頼を受けるか相談しながら待っていたので」
フィーリアムが申し訳なさそうに言うと、すかさずライアンがフォローを入れる。
「そう言ってもらえると助かるわ。それであなた達に話しておきたいことがあるのだけれど、少しいいかしら?」
「いいですが、何ですか話って?」
「実は、エルさ・・・・エルちゃんを学園の編入試験に参加してもらおうかと思っているの」
『編入試験にッ!?』
三人の声が見事に重なった。あまりにも大きな声を出すものだから近くにいた数人の冒険者が何事かと五人に目を向ける。
「余り大声を出すと迷惑ですよ?」
『す、すみません・・・・・』
「エルちゃんの事情は大体聞きました」
エルの事情とは、ライアン達に聞かせた転移魔術の失敗の事だ。ここに来る前に一応フィーリアムにはライアン達にはこう説明してあると話しておいたのだ。
「エルちゃんの今後の事を考えたのですが、元いた場所、賢者の隠れ里は私も場所を知らないの。エルちゃんも場所は分からないと言う事ですし、それならいっそ学生として魔導学園に席を置いてみてはどうかと思ったのです」
「え、でも編入試験は確か・・・・・」
「二日後ですよね?それまでに試験の対策とか出来るんでしょうか?」
「それに入学費とかの問題もありますし・・・・・」
フィーリアムの提案を聞いても三人は直ぐには頷くことが出来なかった。
それは編入試験がどれだけ難しい事なのかを三人は身をもって知っているからだ。三人は勉学に魔術、果てはマナーと言ったものまで必死に勉強をし、やっとの思いで学園の門をくぐったのだ。
理想としてはフィーリアムの言う通り学生として席を置くことが出来ればいいのだが、そう容易いものではない。
が、それはエル、もとい、エルフィアナと言う人物を知らないからこそ出てくる不安である。
なのでエルフィアナをよく知るフィーリアムは三人を安心させるために説明する。
「問題ないわ。エルちゃんの魔術知識は私も確認させてもらったから問題ないと判断したわ。入学費に関しては、私の個人的な財布から出すから、それも問題ないわよ」
「学園長が出すんですか!?いくらんでもそれは・・・・」
「いいのよ。エルちゃんの様な将来有望な魔術師を放っておくなんて勿体ないわ。それに、貴方達も洞窟でエルちゃんの実力を観たのでしょ?」
「それは・・・・まあ・・・・・」
実際洞窟でエルに助けられた三人には二の句を上げることは出来ない。
「と言うわけで、エルちゃんには試験を受けてもらおうと思います」
少々強引だが、フィーリアムは構わず話を押し通していく。三人も反論する要素が皆無な為、フィーリアムの言葉に頷くしかなかった。
「それで、三人にはしばらくエルちゃんの面倒を見てもらいたいの」
「それはまあ、これからアイリ達の所で匿ってもらうつもり―――――」
「ちょっ、ライアンっ!!」
「あっ!」
学生寮は部外者立ち入り禁止。入りたければ学園側から許可を貰わなければいけない。それを学園の頂点に立つ人物の目の前で言えばどうなるかなど言うまでもない。
が――――
「ふふっ、それも承知の上よ。許可は既に取ってあるから、部屋だけ貴方達の所に泊めてあげてほしいの」
既に宿泊許可などを事前にギムダスに手配してもらっているので何ら問題はない。根回しは既にできているのだ。
ここまで来たら三人を巻き込んでしまおうと考えたフィーリアムの独り勝ちである。
(よくもまあ、次から次にと言葉が出てくるものだな・・・・・これも成長したと言っていいのか?)
黙って会話の流れを聞いていたエルは密かにフィーリアムの弁舌に呆れかえっていた。
流石にここまで外堀を埋められたら三人も否やはない。
そうでなくても三人はエルをこのまま放置しようとは考えてなかったのだ。なのでフィーリアの提案は三人にとって願ったりかなったりなのである。
「分かりました。そう言う事なら、エルの面倒は俺達で見ます」
三人を代表してライアンがそう口にする。二人も同じく了承したと頷くのを確認したフィーリアは改めて三人に頭を下げる。
「それじゃあエルちゃんの事、よろしくね?」
『はいっ!』
こうしてしばらくの間、エルは三人の世話になることが正式に決定した。