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未来図書館

作者: 髙見青磁

ログをたどってきて、たどり着いた先は図書館だった。

テスト前なら勉強する生徒で混みあっているが、今は時季外れで人気はない。

ドアの脇の壁にIDカードを押し当てる。

ピッという音とともにロックが解除された。

ゆっくりとドアに力を込めると音もなくドアが開いた。

見える範囲には誰もいない。

広いロビーを横切って階段を下った。

ここは電動書架が設置されている書庫だ。

角の端末で教員用のファイルに無理やりアクセスして彼女の名前で検索した。

思えば私にハッキングを教えたのも彼女だった。


春の大型連休も終わりクラスの連中はだいたいどこかのグループに属していた。

私はどこにも属さずにただ何気なく外を眺めていた。

「ねえ君、君も大変そうだけどさ、女の子も色々と大変だよね」

その日、はじめて彼女に話しかけられた。

言っていることは大抵意味不明だったが、不思議と悪い気はしなかった。

「君は本とか読むの? それとも書くの?」

彼女は私のことを君と呼んだ。

一応、自己紹介したのだが、私の名前を聞いて「その顔でぇー」と言っていた。

私も自分の名前は妙にかわいらしくて嫌いだ。

だからどう呼ばれてもあまり気には留めなかった。

その代り私も彼女のことを遠慮なくミキミキと呼ぶことにした。

ミキミキとは色々なことを話した。

好きな本のこと、好きな音楽のこと、そして好きな人のこと。

繊細とか細やかとかいう性格とは違うけど不思議と悪いやつという感じはしなかった。

ミキミキと出会ったおかげでこれからは退屈せずに済みそうだと思っていた。


あれは、突然夏が狂ってしまったかのように肌寒い日だった。

ミキミキは死んだ。

びっくりした。

どうして死んだのかはよく分からない。

呼ばれたお葬式では確かにミキミキは棺桶の中でやさしそうに冷たくなっていた。

どうして死んでしまったのだろうと私はそればかり考えていた。

色々なことがクラスで噂になったようだが、すぐに夏休みになってしまい、後は忘れられるのを待つばかりであった。


あった。

ミキミキが借りた本のリストだ。

亡くなったちょうど二週間前に本を借りている。

ミキミキは亡くなる直前に何かを調べていたらしいのだ。

私もそれが気になって調べていた。

そしたらここにたどり着いた。

スイッチを押すと電動書架が移動する。

目的の本はこの先だ。

こうしてみるとお掃除プログラムが働いているため設備自体は清潔を保っているが本の方はどれも歴史を感じさせるような雰囲気があった。

そもそも、こうして紙に印刷して作られた本はもう古いものしかありえないのである。

F列の043はこの本だ。

手に取ってみると埃がかぶっているとかそういうことはなく清潔そのものである。

しかし、紙の方は明らかに古いものであるということがよく分かった。

夏休みの図書館の勉強スペースは誰も使うものがいないのか、どの机も照明が消えていた。

椅子に座り本を前にしてしばらく考えた。

いったい何の目的でミキミキはこの本を借りたのだろうか。

本の表紙には古い言葉で題名が書いてあるようだった。

考えてもよく分からないので照明のスイッチを触って明かりをつけた。

中をのぞいてみると何やら書かれている。

かろうじて自分の国の言葉であることは分かった。

しかし、内容を読むことはできなかった。

わけも分からずパラパラとページをめくっていった。

本の真ん中ぐらいのページになって何かが挟まっていることが分かった。

それは紙の袋に紙片が入っているものだった。

すぐに端末を使って検索した。

ALFエア・レーザー・フィールドに映し出されたものは今目の前にあるものとそっくりな形をしていた。

これは手紙というものらしい。

昔の通信手段だ。

紙でできた封筒にこれまた紙でできた便箋を入れて使うらしい。

この本に挟まっていた手紙にも便箋が入っていた。

何やらまた古語のような言葉で書かれていて内容はよく分からない。


私は本の貸し出し手続きをとって、すぐに国語科の準備室に行って先生に質問してみた。

先生が言うには、この本は昔の言霊と言われる現象について書かれた本であるということだった。

手紙の方は辞書にも載っていない単語がたくさん使われていて内容はよく分からないが、やっぱり本の内容に関するものなのではないかということだった。

「先生、だえまおはぎつ……というのはどういう意味ですか」

「違う、昔の文章は縦に読むのが正しいんだ。ほら、ここは『こんにちは』って書いてあるだろ」

やはりこの手紙が鍵になっているようだった。

私はこれを調べることがミキミキの弔い合戦のような気分になっていた。

夏休みが終わるまであと二週間。

それまでにこの謎を解いてみせるつもりだ。

ミキミキもきっと天国で応援してくれているだろう。

ひょっとしたらミキミキが亡くなった理由も分かるかもしれない。

最後にこの文章を読んだ人にも謎を解く手助けをしてもらえればと思って、意味不明な手紙の内容を書いておきます。



こんにちは わたしは ことだまつかいです

ろよんり しうょこ この てみがを よんで みな

しでんから きいづても おいそがな

てばんつ だと おっもて くさだい

やるめなら いまの うちだ

るいは とをもよぶ とういだろ

つぎに おえまが てんに めれさるまで にしゅうかんだ

ぎわく だけが のこる わけだ

はやく やたりい ことを やてっおいた ほがういい

おわりは まなもく やてっくる

まかえら おれは にげんんが きいらだ

えんまさまの まえで ひまざずけ

だかれが たけすて くるれと おうもなよ


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