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角ある人

作者: でんでろ3

 その男の印象はと言えば、そう、一流エリートサラリーマンである。そう、ただ、ある1点を除いて。


「あ、やっぱり、気になりますよね?」

「え? 何が?」

「いや、僕、つのが生えてますから」

「あ~、それって、やっぱり、角な感じですか?」


 私は、若干、頬をひくつかせながら、聞いた。


「『角な感じ』って、やっぱり、疑ってらっしゃいますか?」

「え? 何が?」

「いや、この角が、偽物じゃないか? って」

「あ~、本物、使ってるんですね~。何の角ですか?」

「いや、だから……」


 そういうと、彼は手慣れた手つきで、名刺入れから、1枚の名刺を取り出した。


「わたくし、こういう者です」


 手渡された名刺には、ただ1文字、大きく「鬼」と記されていた。


「え? これ、口で言えば良くないですか?」


 見ると、彼は、声は出さずに、腹を抱えて笑っている。


「いやいや、『鬼ジョーク』です」

「え? それって、ものすごくジョークって意味ですか? 鬼のジョークって意味ですか?」

「いやですねぇ。かけてるんですよ! ダブルミーニングです!」

「あの……、面白くないです」


 それを聞いた彼は、あっけに取られていた。


「え? そうですか?」

「はい」


 彼は、小声で、「へー、そーなんだー」とか、つぶやいていた。


「でも、なし崩し的にですが、私が、鬼ってことは、認めて頂けたという……」

「そこも、どうなのかなぁ? って」

「へ?」

「いや、どうなのかなぁ? って」

「角……、本物ですよ。生えてますよ」

「まぁ、百歩譲って、そこは、認めます」

「はい」

「でも、角の生えた人間って、可能性もありますよね?」

「え?」


 彼は、一瞬、私の言ったことの意味が分からないようだった。


「い、いやいやいやいやいやいやいやいや、いないでしょ? そんな人?」

「いや、今は、多様性の時代ですから」

「いや……、それは、そうですけど」


 彼は、脳内で作戦会議をしているようだった。


「あ、こんな、例えは、いかがでしょう?」

「はい?」

「犬の血も、人間の血も、見た目は赤くて見分けが付きません」

「はぁ」

「ですが、遺伝子的に調べると、まったく違うので、すぐに見分けが付きます」

「なるほど」

「そして、鬼と人間も、遺伝子的にまったく違うのです!」

「今、遺伝子を、調べる道具がありますか?」

「あ゛ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」


 彼は、激しく落ち込んでいた。


「そんなに、間髪入れずに言わなくったって、いいじゃないかーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」

「だぁってぇ」


 彼は、シクシクと泣いていた。


「一生懸命、考えたのに……」

「あの、こうは、考えられませんか?」

「なんですか?」

「鬼でなくても、自分は、自分だと」


 彼は、めちゃくちゃヒイたようだった。


「うーわぁ! うーわぁ! きれいごととか、言わないでもらえますか?」

「きれいごと? って」

「いいですか? 鬼って、そこらへんにいますか?」

「……いませんね」

「いないでしょう?」

「そもそもいるのかって……?」

「でーすーかーらーっ! ですから! 鬼であることは、それだけで、特別だということなんです!」

「まぁ、そうですね」

「ですから! 私は! 私が! 鬼であると、認めて頂きたい!」

「はぁ」


 なんか、彼は、陶酔しているようだった。


「まぁ、じゃあ、そうだとして……、どうやって、鬼だと証明するんですか?」


 すると、彼は、自信に満ちた、不敵な笑みを浮かべた。


「これを、ご覧ください」


 彼は、何かの証明証のようなものを、渡してきた。


「なにこれ?」

「鬼の国の健康保険証です」

「……こういうのって、どんなによく出来ていても、所詮、子供銀行のおさつと一緒じゃあ……?」

「おまっ……、おまっ……、おまっ……、それ……、それだけは、言ったら、ダメだろうがっ!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] どうしても鬼だと認めてほしい男と認めない男の漫才。 なろうにいますと、どうにもカチッとした作品に多く出会います。みなさまそれぞれの個性があり、主張があり、描写を濃くされていたり、作品の物…
[一言] 「んふふ」ってリアルに声出ました笑 どうしても鬼だと認めてはしい鬼と、それを認めようとしない主人公のやり取りがすごく面白かったです。 遺伝子のやり取りで主人公に突っ込まれて叫ぶシーンでめちゃ…
[一言] 面白かったです! 鬼さん哀れ(;つД`)
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