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恋愛  作者: 月沢あきら
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第4回

 徳島。美沙が克樹の両親と会っているのと同じ時間。

 克樹の件で一日中病院が浮足立っていたその夜。幸田は疲れた足取りで帰宅した。途中で何度も電話をかけたが、携帯は繫がらず、家の電話にかけても留守電だった。家に着いてしまって、自宅の部屋の中をうろうろしながらまた電話をかける。何度かコール音がし、留守電に切り替わる。幸田は電話を切るとまたイライラと部屋の中を歩き回った。昼間、小松が言ったことが引っかかっている。理恵子と克樹の噂についてだ。医師と看護師という職業柄すれ違いは多いが、克樹が入院してきてからというもの、会うどころかろくに話もしていない。「くそ!」ベッドの端を蹴りつける。その時妻が部屋に入ってきた。

「どうしたの?」

幸田は仏頂面のまま返事をしなかった。その態度を見て妻も機嫌を悪くしたようだった。「お風呂、入れますよ。上がるときにちゃんとお湯抜いといてくださいね」と冷ややかに言い放つと出て行った。携帯の待ち受け画面の時計は11時半だ。幸田は仕方なく風呂場に向かった。



 理恵子は台所に立っていた。明日の弁当の準備をしている。仕事から帰ってから幾度となく幸田から着信があった。だが出る気にはなれず、携帯は電源を切ってしまった。携帯が繋がらないと今度は家にかかってきたがそれも出ずにいた。小さな部屋で家事をしながら、理恵子はずっと克樹の事を考えていた。両親よりも熱心に克樹の行方を捜していた恋人の事。克樹が東京に帰ってしまうまで、後数日もないとないのだ。帰ってしまえば、おそらく二度と会うことはないだろう。克樹はすぐに自分の事を忘れてしまうに違いない。

 ガチャンと大きな音を立てて湯のみが割れた。洗い物をしていた理恵子は泡だらけの湯飲みを持ち上げ、欠片を集めるとチラシに包んでビニール袋に入れた。

 不意に涙が頬を伝って落ちた。それは後から後から湧くようにあふれ、台所のフローリングにパタパタと雨のような音を立てた。

「……」

しばらく声もなく泣いていた理恵子は、顔を上げると台所の水道で顔を洗った。そして何事もなかったように家事の続きをした。だがその心には重大な決意が固まっていた。


          ・


 翌朝。ナースステーションではいつものように申し送りから一日が始まった。滞りなく引継ぎが終わり、ざわざわした空気の中で、理恵子は看護師長の渡辺に声をかけた。

「師長、後でちょっとお話したいことがあるんですが、お時間いただけますか?」

 渡辺は看護記録から目を上げず、さばさばした調子で「はいはい、じゃあ後で」と言った。理恵子は右のポケットを上からそっと押さえるとその場を離れた。今日は午前中に大腸ポリープの手術があるので、準備を進めなければならない。理恵子はまず手術を受ける川西のもとに向かった。バイタルチェック等があるのだ。病室に入ると「おはようございます」と声をかけた。背が高くてひょろりとした川西は手術前の緊張を紛らわしたいのか、今日はやたらと饒舌だ。隣で落ち着かなげに意味もなく立ったり着替えの入った棚を覗いたりしている妻には、そんな夫の言葉も耳に入っていないようだ。

「そういえば、王子様、もうすぐお国に帰っちゃうんだって?」

「川西さんまでその話ですか?北山さんは王子様じゃないですよ。一般の日本の方ですよ」

「そうそう。事件に巻き込まれた御曹司なんだっけ?で、本宮さんはどうするの?」

もう一度訂正をしようとした理恵子だったが、引っ掛かりを感じて「私が、何ですか?」

「王子様との許されぬ恋でしょ?」

「何を……」動揺して消え入りそうになった声を、何とか自分を励まして笑って見せた。

「本当に王子様や御曹司なら玉の輿に乗りますけどね。一般人じゃあね。ダメダメ。はい、終わりました。後に十分くらいで迎えに来ますから、もう少しお待ちください」

 出来るだけ何気ない風を装いながら病室を出ると、トイレに駆け込んだ。洗面所の鏡に映る自分の顔を見つめ、ピシャピシャ頬を叩く。「落ち着け落ち着け」鏡の中に言い聞かせるように繰り返すと、トイレを出て医局に向かった。医局では幸田が川西のCT画像を見ていた。

「おはようございます」

幸田はじろりと理恵子をにらむと「昨夜、何度も電話したんだぞ」

理恵子は心を落ち着かせようと大きく深呼吸すると

「すみませんでした。疲れて眠ってしまったので。これ、川西さんのバイタルです。安定していると思います。多少緊張されているようですが」

「理恵子!」

幸田の大声にピクリと肩を震わせたが

「本宮です。……先生。今日の夜、お時間ございましたら、少しお話があるんですが」

 幸田は苦痛に耐えるような、怒りを抑えるような苦い顔をした。そして顔をそむけ

「分かった。終わったら連絡する」

「お願いします」

 理恵子は幸田に川西のデータを渡すと医局を辞した。その足で渡辺の所に行く。今日は各科の看護師長が集まって行われるミーティングの日である。ミーティングは内科棟の四階、医局長の部屋の隣の会議室が使われる。毎週水曜日にあるこの会議は通常一時間ほどで終わる。理恵子は腕時計を見、部屋の前で待つことにした。ナースステーションで話すのは目立ちすぎる。

 理恵子が部屋の前に着いてすぐに中が騒がしくなった。椅子を引く音や話し声がする。ドアが開いて師長達が出てきた。理恵子は彼女らに会釈をし、渡辺に声をかけた。「師長」

渡辺は驚いた顔を見せた。「何?何かあったの?」

「いえ」並んで歩きながら首を振る。師長達はそれぞれの科に戻っていき、理恵子は渡辺と二人だけになった。「さっき言ってたお話なんですが…」

理恵子の改まった調子に眉を寄せると

「何?何かややこしい話なの?だったらあんまり聞きたくないんだけど」

「いえ。そういうわけじゃあ」困ったように額に手を当て「あの、これを」右ポケットから封筒を出した。表書きには『退職届け』と書いてある。渡辺は受け取ろうと出した手を反射的に引っ込めた。

「何これ?」

「突然すみません。人手も足りないって言ってる時に。でもできるだけ早く退職したいんです」

渡辺は裏切り者を見るように顔を歪めた。

「どういう事?あんた一人暮らしでしょ?仕事辞めてどうやって生活していくの?それとも他から引き合いがきたっていうの?それにしたって」

「違います!」

話が思わぬ方向に行きそうになって理恵子は慌てた。

「仕事はどうなるかわかりません。私は…東京に行きたいんです」

「はあ?」渡辺の顔は面妖な物を見たという表情になった。文字通り開いた口がふさがらない様子で、ポカンと口を開けている。理恵子は言葉に詰まってしまった。自分でもどうかしていると思う行動なのに、他人を説得できる訳がない。渡辺は小柄なので理恵子の方が背が高いのだが、今日はとても大きく感じた。

「東京なんて。何しに行くのよ」

理恵子は渡辺の顔を見る事ができなかった。前を向いたまま

「私、北山さんが好きなんです」

 消え入りそうな声で言った。渡辺は壊れたオモチャのようにぎこちなく止まった。理恵子を見たままあんぐりと口を開けた。

「あんた…」

「お願いします。バカにも程があるって事ぐらい自分でもわかっています。でも、私このまま離れてしまったら、絶対後悔するんです。だからどうしても行かなくちゃいけないんです。そこで後悔する結果になっても、今のままで後悔するよりましなのはわかるんです。ですからお願いします。出来るだけ早く退職させて下さい」

一息で言い切ると深々と頭を下げた。

「あんた…」渡辺は同じ言葉を繰り返した。

「今まで出来るだけ無難に生きてきました。でもどうしてもこれだけはダメなんです。どんなに傷ついても構いません」

 渡辺は呆れ果てたという様子でため息をつき、早足で歩き出した。理恵子は急いで後を追った。

「師長!」

「あんた何考えてるの?そんな事、賛成できるわけないでしょう?そんな一時の感情で何もかも捨ててどうするの?お金だっているでしょう?北山さん、彼女だっているらしいじゃない。そりゃうまくいけばいいけど、あとには何も残らないかも知れないのよ」

「すべてを失ってもいいんです。一時の気の迷いでもいいんです。お願いします」

「ダメよ、そんな事。賛成出来る訳ないでしょ!」

 今度は理恵子が立ち止まった。渡辺が振り返ると幽鬼のような目で見返した。渡辺はたじろいで1歩下がった。

「わかりました」

退職届けを強引に渡辺に押しつけると「長い間お世話になりました。ご迷惑おかけして本当に申し訳ありません」

言いながら名札の付いたネックストラップを外した。

「待ちなさい!」

渡辺は理恵子の腕を掴んだ。理恵子は首を横に振った。

「こんな状態では仕事にも支障があります。昨日もミスばかりで。お願いです。行かせて下さい」

渡辺は理解出来ないというように首を振った。だが「帰ってくる場所はないのよ」

「わかっています」

「全てを失うって事がどんな事かわかっているの?」

「覚悟しています」

「本当に本気なの?」

「はい。全てを失っても、何も残らなくても後悔はしません」

「……」

「もともと失うものはあまり多くはないですから」寂しげに笑う。

 渡辺は黙ってしばらく理恵子を見ていた。が、長く大きく息を吐き出すと首を振って歩き出した。

「全く。何を考えてるのか全然わからないわ。あんたがこんなに無鉄砲な子だったなんて思いもよらなかったわよ」

「自分でも驚いています」

「出来るだけ早く退職できるようにしてあげる。でも今日明日ってわけには行かないわよ」

理恵子は顔を輝かせて渡辺の手を握った。

「ありがとうございます!」

渡辺はその顔をしみじみ見返すと、少し邪険に手を引っ込めた。

「東京にも少しは知り合いがいるから、看護師の口も聞いといてあげるわ」

「本当ですか?ありがとうございます」

「だけど」

渡辺は理恵子にぐっと身体を寄せた。

「この事は人には言わない方がいいよ。誰にもね。正気を疑われかねないから」

理恵子は苦笑した。

「はい。ぜひここだけの話で。何から何までありがとうございます」

 外科の詰所まで戻ってきた。渡辺は中央のデスクの回りに置かれたパイプ椅子に腰かけた。

「しかし。本当に信じられないわ。あんたがこんなに大胆な事をしでかすなんて」

「自分が一番驚いています」

渡辺が紺のカーディガンのポケットに退職届けをしまうのを見て笑いながら言った「でも、どうしてもしなくちゃいけないんです」

「そう。じゃあ出来るだけ早いこと調整するから」

 渡辺は「お願いします」と頭を下げて詰め所を出て行った理恵子の後姿を、甲子園で負けた高校球児たちが、泣きながら砂を袋に詰めているのを見守る監督のような目で見つめていた。


 交代でとる昼休みの時間、理恵子は中庭のベンチで持参の弁当を広げていた。卵焼きと茄子と豚肉の生姜炒め。キノコの炊き込みご飯。昨夜の決心とともに作ったものだ。だが全く食は進んでいない。ベンチの後ろの椎の木を見上げる。ここは先日克樹と散歩した時に腰かけた所だ。ほんの四日ほど前の事なのに、もう何年も昔のようだ。空を見上げた。克樹に会いに行きたい。だが朝の川西の話から、北山にまつわる流言飛語の中に自分が入っていることを知った。これ以上噂が広まるようなことは避けるべきだ。

「ずいぶん遅いお昼ですね」

後ろから声をかけられた。その声は「北山さん!」

 左手はまだギプスをはめて吊っている。右だけ松葉杖をついている。松葉杖をベンチに立てかけるとそろそろと座った。

「ちょっと歩くだけで重労働だなあ。ここまでくるだけで疲れちゃった」

屈託なくにこにこ笑う。その顔には黒縁の眼鏡がのっていた。

「眼鏡、もう出来たんですね」

「ええ。やっと見えるようになって嬉しいです。これで松葉杖使う練習も出来るようになりました。歩く練習しないと、って幸田先生に言われてるんです。もうすぐ退院だし」

「良かったです。元気になられて。やっぱり若い人は回復が早いですね。記憶はどうですか?」

 克樹は申し訳なさそうな表情をして目を逸らすと、庭の向こうの山並みに目をやり「きれいな空ですね」と一人言のように言った。理恵子は黙って克樹を見つめた。克樹は目を合わせぬまま

「美沙、さんのこと、思い出しました。まだ切れ切れにですけど。でもなんだか現実味がなくて。夢の中みたいな感じで…」

「会えば現実だってわかりますよ」

 理恵子は笑おうとして奇妙に歪んだ顔をした。克樹は視線を戻し、悲しげにその顔をみつめた。理恵子は苦しくなって顔を伏せてしまった。

 遠くで鳥が鳴いている。微かな風が木の葉を揺らすざわめきが聞こえる。沈黙に耐えられず、克樹の方を見ると、彼は空を見上げていた。

「いつも空を見ているんですね」

「え?」我に返ったように克樹は理恵子を見た。

「いつ見ても、北山さんは空を眺めていますね」

克樹はギプスをはめた左手を上げかけ、また降ろすと右手で眼鏡のズレを直した。

「本宮さんにはいつもそう言われますね。でも実は景色はあまり見ていないんです。と言うか、今まではあまり見えていなかったんです」

「あ、なるほど」

「だから、景色を見ているんじゃなくて、心の中を見ていると言うか。記憶をね、探っているというか。それで視線が遠くにいっているだけなんだと思います」

「そうなんですか」

「でも」克樹はまた空を仰いだ。「色々、会社の事とか、思い出してはいるんだけど、何一つ現実感がなくて。毎朝の通勤の混雑だとか、高層の建物ばかりで空があまり見えないとか。そういう事は思い出しているんですけど…今とあまりにも環境が違うからかもしれないですけど、夢の中のことみたいで。昨日来てくれたから、両親は現実だったんだなと思いましたけど」

「不思議ですね」

「そう。不思議な感覚ですよね」

 理恵子は克樹の横顔を見た。男性にしておくのはもったいないほど睫毛が長い。見惚れていた。

「本宮さん」

克樹が真正面から理恵子を見据えた。理恵子は慌てて下を向いた。

「時間、大丈夫ですか?」

その言葉に腕時計を見ると勢いよく立ち上がった。「行かなきゃ!じゃあ失礼します」

水筒や弁当箱を片付けると、走って病棟に戻っていった。克樹はその後姿を目で追った。


 夜、退勤してから市内に出た理恵子はソレイユという喫茶店にいた。幸田との待ち合わせによく使う店である。店は内装に木を多く使い、落ち着いた静かな空間を作り出している。腕時計を見る。19:10。理恵子が鞄の中から文庫本を取り出した時、ウェイトレスがアップルティを運んできた。芳しい薫りが漂う。ティーカップを口に運び、薫りを楽しむと一口飲み、本を開いた。だが待ち合わせの相手の事が気にかかり、内容が頭に入らない。また時計を見る。幸田との待ち合わせは七時だ。だが彼が時間通りに来ることはまれだった。それは仕事柄仕方のない事で、理恵子も慣れている。だが今日は待つ時間が苦痛だった。意味もなく携帯を取り出す。だが時計の時刻は同じだ。入口のドアを見る。しばらくドアを見ていたが、誰も入ってこない。結局また本に目を落とした。

 入口のドアが開くたびにそちらに目を向けるが、幸田はなかなかやってこない。ようやく姿を見せた時には、理恵子が店に入ってから40分が経過していた。

 幸田は歩きながらウェイトレスにコーヒーを注文すると、大きな音を立てて椅子に座った。そして物も言わず胸ポケットからラークの箱を出すと火をつけた。全身から不機嫌さを発している。その空気に臆した理恵子が何も言えないでいるうちに、ウェイトレスがコーヒーを運んできた。

「昨日は電話にも出なかったのに、今日は話があるなんてずいぶん勝手じゃないか」

理恵子は下を向き「すみません」と呟いた。

「その上仕事を辞めるってどういうことだ?」

理恵子ははっと顔を上げた。幸田の声は鋭くとがり、周囲に座っていた何人かが二人を見た。しまったと思った。先に幸田に話をするべきだった。だが一刻も早く退職するためには渡辺に話を通しておくことが先決だった。渡辺は幸田に何と言って理恵子の退職の話をしたのだろう。

「師長は……」

「東京の病院の話なんて聞いたことない!なんでそんな所に行くことにしたんだ?」

理恵子は渡辺に感謝しつつ「知り合いから来てほしいって」

「そんな話聞いてない!」

理恵子は幸田の言葉を無視し

「出来るだけ早く行きたいんです。それで……幸田先生と会うのは今日で最後にしたいんです」

煙草をもみ消していた手が止まった。

「今まで公私にわたりお世話になりました。私は東京で新しい生活を始めます」

 一言ずつ区切って言った。二の句の告げられない幸田に、挑むようにまっすぐ目を見て。

「誰も別れるなんて言ってない!」

吐き出すように言う。また何人かがこちらを向いた。理恵子はそちらに向かって頭を下げた。

「大きな声を出さないで下さい。もうこれ以上続けても意味がないと思うんです」

「意味がないってどういうことだ?」

理恵子は悲しげに目を伏せた。

「行き止まりに向かって歩いているだけですから。私は道を見つけたいんです」

「俺は別れない。仕事を辞めるのも許さないぞ」

脅すように言ってから、テーブルの上に組んでいた理恵子の両手を握った。

「理恵子。好きなんだ。離れたくない」

理恵子の心の揺れを感じたのか、なおも強く手を握ると「一緒にいよう。二人でずっと」

「奥さんと別れるんですか?」

途端に幸田は理恵子の手を離した。打って変わったような冷たい視線を向ける。

「そういうことか」

「え?」

「俺を脅して女房と別れさせるつもりなんだな。師長まで巻き込んで、ずいぶんな念の入れ方じゃないか」

理恵子は笑ってしまった。意外な反応に面食らった幸田に向かって

「奥さんと別れる気がなくて良かったです。心置きなく東京に行けます。家族三人お幸せに」

幸田は伝票を持って立ち上がった理恵子の腕を掴んだ。「待てよ」

「退職届け、迅速な処理をお願いします」

幸田の手を離そうとした理恵子に

「あいつか?あの浮世離れした男に何か言われたのか?あいつと何があった?」

なおも言い募ってきた。

「もし北山さんのことを仰っているなら、彼には関係ありません。私自身の問題です」

 そう言うと幸田の手を外した。理恵子はゆっくりと入口横のレジまで歩いていった。もはや店内中の注目を浴びていた二人を従業員もカウンターから見ていたが、理恵子がレジまで行くと慌てて走ってきた。

「お騒がせしてすみませんでした」

 会計をしながら謝ると、振り返らず出ていった。店内の目は立ち尽くしたままの幸田に向けられた。だが幸田に周囲を気にする余裕はなかった。ずるずると崩れるように腰かける。理恵子は逃げるように出ていったわけではない。手を外す時も力ずくではなかった。追いかけようと思えばそうすることもできた。だが幸田には追いかけることができなかった。

 今までこんなに日が来ることを考えないではなかったが、理恵子の性格からして彼女から別れを切り出すことはないだろうと高を括っていた。身勝手は承知だったが、その事を真正面から考えたことはなかった。

 幸田は荷物を持って立ち上がった。手もつけなかったコーヒーがかすかに震えている。喪失感が胸を圧迫するほど身体中を満たしている。だが諦感もある。幸田は店を出ると少し考え、再び病院に向かった。

 幸田が店を後にした瞬間に一斉に店内がざわめいたのは、当人には預かり知らぬことだった。

 幸田は医局に戻ると、理恵子の退職のために必要な書類の準備に取りかかった。


       


 翌日、克樹は病院での最後の検査を受けた。骨折した左腕と右足のレントゲン、頭部のCTなどだ。幸田はそれを仔細にチェックすると、パソコンを持って医局を出た。先日警察の事情聴取があったカンファレンスルームに行く。今日はブラインドが半分まで下りていて日差しを遮っている。幸田が部屋に入ると克樹はもう席に着いていた。入口の所に理恵子が立っている。幸田は理恵子の方を見ないまま克樹に挨拶した。そして克樹の横に座ると持ってきたパソコンを開いた。いくつか操作をして画面を克樹に見せる。

「これが先ほど撮ったものです。そしてこちらが最初に運び込まれた時のもの」

二枚のCT写真とレントゲン写真を比較しながら

「医局で斎藤先生とも検証しましたが、気になる所見はありませんでした。この、頭蓋内の出血ですが」

左即頭部の小さな影を指して「こちらでは小さくなっています。このまま吸収されるでしょうから問題ないでしょう」左右の同じところを示し説明した。克樹は安心した笑顔を見せた。

「記憶は、まあ日にち薬だと思いますが、事故の時の記憶は戻らない可能性もあります。でもそれは事故のせいなので仕方ないと思います。腕と足の骨折も今の所問題ないです。なので、明日にでも退院はできます。ただ、その前にもう一度警察の事情聴取を受けないといけないらしいんですが。事故の現場の現場検証もあるという事でした」

幸田は一旦言葉を切って、克樹の反応を待った。

「記憶は…先生の仰るように、事故については何も思い出せていないんです。だから事情聴取しても、何も成果はないと思いますが。退院は嬉しいです。両親も安心すると思います」

「では警察とご両親に連絡してもらいますね」

理恵子を見た。理恵子ははい、と言うように頭を下げた。

「詳細はまた調整して、という事になると思いますが、具体的なことが決まったらすぐお知らせします」

「ありがとうございます。本当にいろいろお世話になりました」

克樹は深々と頭を下げた。

「いえいえ。では私はこれで」

 パソコンを終了させると右手に抱え、立ち上がった。それを見て理恵子は部屋の奥に行きブラインドを全開にした。空は澄んで明るかった。幸田は理恵子の行動をぼんやり目で追った。昨夜の事を思い出す。また喪失感に襲われた。目が合った。何か言おうかと思ったが言うべき言葉が見つからなかった。結局、克樹に頷きかけるとそのまま部屋を出た。

 その後姿を見送り、理恵子は克樹に声をかけた。「良かったですね」

「ありがとう。なんだか不思議だなあ。昨日も言ったけど、まだ十日くらいなのにもう何年もここにいるみたいな気がする。東京に住んでいた実感もないし。帰るのが怖いなあって」

「ここにいるほうがいいですか?」

 理恵子の問いに克樹は黙って理恵子を見つめた。何かを訴えかけるような強い眼差しだったが、理恵子にはわからなかった。

「ずっと病院にはいられませんから」そう言うと長机に右手を置き、少しよろけながら立ち上がった。傍らに置いた松葉杖に手を伸ばす。理恵子は右手に杖を渡した。

「あの……」ためらいがちに声を出す。東京に行くつもりであると告げたかった。

しかし、その言葉は窓の外を見る克樹の寂しげな表情の前に消えてしまった。

「また見ているんですね」

「え?」克樹は我に返ったように理恵子を見た。「ああ、そうですね」克樹は窓に背を向けて歩き出した。理恵子は先に立ってドアを開けた。

「少しね。恐いんです」

「恐い?」

「知っているはずなのに、知らないところに行くみたいで。変ですね」

理恵子はどう言えば克樹の不安を和らげられるのかわからなかった。

 病室に戻り、克樹がベッドにつくのを手伝うと

「今からご両親に連絡を取ります。警察にも。ご自身でも連絡なさいますか?日にちとかの調整はこちらでさせていただいていいですか?」

克樹はちょっと考えていたが「連絡はしますけれど、両親との調整はお願いします」

「かしこまりました。じゃあまた後で報告に来ます」

 理恵子が部屋を出、克樹が振り返ると、また好奇心むき出しの奥野と日下部と山内と目が合った。克樹は呆れ気味に笑った。昨日の夕食後、それぞれが他の病室や休憩室などで違う相手に話しているのを目撃したからである。そんなに皆すぐ仲良くなれるものだろうかというのも不思議だったが、皆退屈しているのだろうと思うことにした。待ち構えていたように日下部が話しかけてきた。

「今日の幸田先生の話、何だったんですか?」

克樹は心の中で苦笑した。

「いいことあったんですね?楽しそうですよ」

それはあなた達行動が面白いからです、と思いながら退院の話をした。

「面白い話じゃなくてすみません。そんな訳で明日か、遅くても明後日には東京に帰ることになりました」

「そうかあ。じゃあこれからは遠距離恋愛になるんだねえ」

「は?彼女は東京の同じ会社の人ですが。一体誰の話で?」

「ええ?」三人が声を揃えて大声を出したので克樹は黙った。三人は顔を見合わせた。

「それはどんな噂なんすかね?」笑いながら訊いた。皆が気まずそうに口籠るのを見て「聞かなくてもいいですけどね」と言うと「売店に行ってきます」と言い残し部屋を出た。


 ナースステーションに戻った理恵子は平田に退院の話をした。そしてまず県警の安岡に電話をかけた。事故の事は思い出せていないと克樹が話したことを告げると、安岡は渋い声を出した。

 退院できる状態なら、帰る前に克樹が発見された現場での検証が必要だという。理恵子は調整を約束し受話器を置いた。再度受話器を取ると、壁の時計に目を遣る。午後一時を少し回ったところだ。パソコン上の克樹のカルテに登録された番号を確認しながらプッシュホンを押す。平日の昼間に自宅に繋がるだろうかと思ったが、まずは掛けてみることにした。数回コール音が鳴り、やはり誰もいないのかと受話器を置きかけた時、繋がった。

「はい」

「北山さんのお宅でしょうか?」

「そうですが」

警戒している声。

「わたくし、徳島県にあります若葉丘総合病院の本宮と申します。先日、克樹さんに会いに来られた時にお目にかかりましたが…」

「ああ。先日はお世話になりました」

理恵子は先ほど安岡に話したのと同じ話をもう一度繰り返した。

「明日にでも退院出来るという事ですが。ただ、その前に克樹さんは警察の現場検証に立ち会わないといけないらしいです」

「了解しました。主人と相談します。それから連絡させていただきます」

「わかりました。ではお待ちしています」

 受話器を戻すとほっとした。横にいた平田が「どうだった?」と訊いてきた。

「ご主人と相談してから連絡くださるそうです」

「そう」

 そこに渡辺が大きな茶封筒を手に入ってきた。理恵子に

「あんたの例の件、来週中にはなんとかなりそうだから。今朝来たらね。幸田先生が書類とか準備整えて下さっててね。思ったより早く進められそうよ」

理恵子の横に座っていた平田が

「本当に辞めるつもりなの?」と険しい顔で訊いてきた。返答に窮した理恵子が口を開こうとした時、ナースコールが鳴った。瞬時に反応した理恵子は壁の受話器を取った。二言三言言葉を交わすと「505号室の富岡さんです。行ってきます」と詰所を出た。



 山越しに夕日が建物の奥まで黄金色の光を投げている。雲が薄くかかって、光が透けてバラ色に輝いている。山から吹き下ろす風は冷たく、心を引き締める。黄色や紅に色づきかけた木々のグラデーションは冬の訪れを告げている。

 木の葉を揺らす風が通り抜ける道筋を見極めたいというように、克樹は山を見ていた。その時、静かな音楽とともに館内放送がかかった。夕食の準備ができている。克樹は休憩室から病室に戻った。大きなワゴンから各々が自分のトレイを取っていく。克樹のトレイはワゴンを押してきた女性がベッドまで運んでくれる。克樹は礼を言うとプラスチックのコップを持って立ち上がった。松葉杖をつき、給湯室に行く。給湯室はお茶を入れるのを待つ人たちで賑わっていた。並んで待ち、熱いお茶を入れると松葉杖に苦労しながら戻った。夕食は白米と薄い味噌汁、具は大根とニンジンで、メインのおかずはトンカツだ。それに小鉢の青菜と厚揚げの煮浸しがついている。右手で箸を持つというよりは突き刺すように使いながら、あっという間にたいらげた。食べ終わって、もうぬるくなったお茶を飲む。そこに渡辺と理恵子がやって来た。

「お食事のところすみません」

「もうすみましたから」

無意識にお腹をさすりながら言う克樹を見て理恵子は笑った。

「トレイ下げますね。お茶、もらってきましょうか?」

「お願いします」

 理恵子がお茶を汲んで戻ると、渡辺が明日の事を説明していた。朝、警察が来て克樹と同行して現場検証を行う。北山夫妻は克樹の怪我の状態を考えて、車で来ることにしたと連絡があったこと。

「明日の朝に東京を出られるそうなので、こちらに到着されるのは夕方くらいになりそうです。それで、先生方と相談して、北山さんの退院は明後日の朝に決まりました」

 頷きながら聞いていた克樹に「おめでとうございます」と理恵子が横から声をかけた。「ありがとうございます」笑顔で応える。

 そんな何気ないやり取りを、渡辺は仔細ありげに眺めていた。さらにその後ろから、日下部と奥野と山内が興味深々という顔で見ていた。





 翌朝、理恵子が病院に出勤すると、また院内にいつもと違う空気が満ちていた。ピンと張り詰めた気配。更衣室に行くと、内科の看護師が県警の人間が来ていると教えてくれた。理恵子は急いで着替えるとナースステーションに向かった。廊下を曲がり、ナースステーションが見渡せるようになると、見知った顔のスーツの男が二人立っている。平田と話をしている。何人かの患者が遠巻きにそれを見ていた。安岡が理恵子に気付き、会釈してきた。理恵子も頭を下げる。高橋も頭を下げた。

「ずいぶん早いんですね」

「鑑識も入るんで時間がかかるんです」

「今ごろですか?」

二人は渋い顔をした。

「期待はしていませんがね」

「でも。ご本人は何も思い出せないと…」小さな声で言うと

「現場に行けば思い出すかもしれない。よしんば思い出せなくても、明日には東京に帰られるという事ですし、現場検証はしておかなければなりません」

「そうですか。大変ですね」

「鑑識が到着しだい出発します。もし、北山さんの容態に不安があるという事でしたら、看護師の方に同行していただいても構いませんが」

平田は首をひねった。

「問題ないと思いますけど。念のため確認します」

 平田の言葉を受け、理恵子は医局に電話をかけた。返事は、問題ないという事だった。

 刑事たちと理恵子が克樹の病室に行くと、克樹はもう準備をして待っていた。上はTシャツの上に黒のパーカー。だが、下は病院着の薄い綿のパジャマだった。そして靴は運び込まれた時に履いていて、傷の目立つスニーカー。

「それでいいんですか?」と思わずという感じで聞いた安岡に

「足の固定の上から履けるのがなかったんで」と右の太ももををさすりながら答えた。

「わかりました。正面玄関に車が来ているんで行きましょうか」

高橋が手を貸そうと進み出た。克樹はそれを断ると傍らに置いていた松葉杖を取って立ち上がった。克樹の病室の周りは何人もの患者が様子を見に来ていた。周りを刑事たちに囲まれるように克樹が病室を出ると、さっと人垣が割れた。刑事たちは渋い顔でその間を抜けた。病院の正面玄関まで出ると、パトカーと鑑識の車両が一台ずつ横付けされていた。玄関前のロビーにも何人も見物人がいる。安岡が「なんでこんな騒ぎになってんだ」とぼやいた。

 パトカーの運転席にいたのは先日来ていた若い刑事の篠田だったが、後ろの席に座っている年配の男性には見覚えがなかった。理恵子が安岡に「あの方は?」と訊くと

「北山さんを発見して通報してくださった福原さんです。今日は一緒に現場検証に行っていただけるので」

「そうですか」

 高橋が助手席に乗り込み、克樹が苦労して後部座席に座ると安岡も反対側から乗り込み、パトカーはサイレンを鳴らさないでスタートした。すぐ後ろから鑑識のバンも続いた。非日常ではあるが、あっさりとした出発に、見物に来ていた患者たちはやや拍子抜けした様子で散って行った。

車中で克樹は「目が覚めて最初の景色は白い天井と白い壁なんです。だから何も話できる事、ないと思いますけど」と言ったが、刑事たちはそれには何も応えなかった。

 現場へは15分ほどで到着した。克樹の横に座っていた福原が、「ここです!止めて下さい!」と声をあげた。狭い山道の木々の間に、少し隙間のような場所があり、舗装はされていないが車が二台ほど駐車できる程度のスペースがあった。道の逆側は山の下りの斜面である。その辺りの木にロープが一本渡してあり、一応現場保存という体裁になっていた。二台の車は路肩に止められ、鑑識の車からわらわらと何人かの鑑識課員が降りてきた。風が強く木々がしないでいる。

 先に降りた福原が高橋に、克樹を発見した状況を説明している。その横で篠田がメモを取っていて、後ろでは鑑識課員達がビニールの靴袋を履いたり、道具を出したり、準備に余念がない。克樹は大きく深呼吸した。

「木とか土とか、山の香りがしますね」

鑑識課員がロープを取り除き、下に降りていった。下生えの間を探っている。

「あの辺りに、こんな感じで引っ掛かっていたんです」

 福原が一本の木を指し、自らの身体を折り曲げて説明している。克樹は足場の悪いところでよろけながら下を覗いた。高橋が克樹の身体を支えた。

 鑑識の作業が終わるまで、道端で待ちながら安岡と高橋は福原に色々質問していた。この山道に他に車を止めるスペースのある場所はあるか、なぜ道の下に落ちている克樹に気付いたか、等。

 その間、克樹は鑑識の作業を興味深そうに見ていた。一人の鑑識員が何かを拾い上げた。それは木漏れ日を受けてキラリと光った。

「あ!」克樹が大きな声を出した。皆克樹の方を見た。

「それ、僕のです。僕の眼鏡です」

 安岡と高橋が克樹に近寄った。鑑識課員がビニール袋に入れ、斜面からあがってきた。篠田が手袋をして鑑識課員から眼鏡を受け取った。黒いプラスチックの枠がレンズの上半分だけついていて、下半分はレンズのままというデザインだ。つるの部分は同じ黒のプラスチックでロゴ等もなくあまり特徴はない。克樹に見せる。「間違いないですか?」

克樹は顔を近づけてまじまじと見た。

「間違いないです。この右のツルの所、傷がありますよね。これ、風呂場で落として付いた傷なんです」

高橋はビニール袋を覗き込むと

「傷なら他にも沢山ありますけど」

「それはここから落ちた時に付いたものじゃないかな。ちょっといいですか?」

 克樹は今かけている眼鏡を外すと、ビニール袋のまま目に当てた。そのまま周囲を見渡し

「うん。度も合ってるし、やっぱり僕のだと思います」

「そうですか。後で指紋採取させてもらいます。この眼鏡、北山さんの他に誰が触った可能性がありますか?」

「僕の他は両親くらいかな?でも多分僕だけだと思います」

 一人の鑑識課員が克樹の指紋を採取している間に作業は終わった。鑑識が、採取したものを分類して車に積み込んでいる横で、高橋が

「手伝いますけど、降りられそうですか?無理かなあ」

「やってみます」

克樹は松葉杖を安岡に預けると、高橋と篠田に両脇から抱えられるようにそろそろと降りていった。

「あ!」

「どうしました?」

「違います。足と肩を持たれていたと思います」

「思い出しましたか?」二人は動きを止めて言った。

「ええ。運ばれている感覚だけ、甦ってきました。一人が足を持って、もう一人が両脇を抱えてて。それで、放り投げられたと思います。で、落ちながら『痛い』って言った気がします」

「と、いう事は少なくとも二人以上の人間にここまで運ばれて、遺棄された、という事になりますね。なぜでしょう?何か、ヤバそうな取引現場を目撃したとか、そういう事でしょうか?」

 高橋と篠田は克樹を抱えてパトカーまで戻ると、後部座席に座らせた。メモを取り出し、先を促す。克樹は眉根を寄せた。

「たぶん。二人。いや。他にもいたかどうかはわかりません。トラックの荷台に積まれていたんじゃないかな。ずっと揺れてて。冷たくて硬くて。荷台に直に寝ていたような気がします。で、最後に放り投げられたと思います。その時に、山の匂いだと思った気がする」

高橋と篠田はメモを取っている。

「それから?他には?男の特徴とか思い出せませんか?そもそもなぜ荷台に載せられて、こんなに所まで運んでこられたんですか?」

克樹は額に手を当てしばらく考え込んだ。

だが首を横に振ると

「わかりません。今のも確かなことかどうかわからないし、夢現つの記憶なんです。すみません」

「いや、それだけでもかなりの情報ですよね?」

篠田が高橋に同意を求めた。

「そうだな。ここでそれだけ思い出せたなら、また記憶が戻るかもしれない」

 その後、克樹の証言にしたがって、50kgの砂袋を落とす等の検証がなされた。一通りの事が終わり、克樹たちが若葉丘総合病院に戻って来たのは、昼をだいぶ過ぎてからだった。鑑識課の車は病院には寄らず、そのまま警察署に戻って行った。高橋から連絡を受けた理恵子が、念のためにと車椅子を用意して正面玄関で待っていた。ほどなくパトカーが到着し、後部座席でぐったりと横たわるように座っていた克樹が、高橋に抱えられるように降りてきた。

「大丈夫ですか?何かあったんですか?」

「いえ、何もないです」高橋が慌てて言い訳するように言った。

「全然体力がなくなっているんだなって、痛感しました。ちょっと疲れただけです」

弱々しい笑顔を向けて言った。理恵子は克樹に車椅子をすすめた。克樹は車椅子に腰かけた。高橋は理恵子に松葉杖を渡すと、「では、我々はこれで失礼します」

「あの!結果というか、どうだったんでしょうか?」

「鑑識の結果が出てからでないと。必要があればお知らせします」

彼らは車に乗り込み帰って行った。理恵子は克樹の病室まで車椅子を押しながら

「どうでした?現場検証ってどんな感じでした?さっきの、必要があれば、って、教えてくれないって事ですかね?」

克樹は笑った。

「本宮さんでもそういうの気になりますか?でもすみません。捜査上の事は喋っちゃいけないらしいです。でも、いくつか思い出した事がありました」

「そうですか。残念。皆知りたがるでしょうね」

二人で笑う。理恵子はベッドに戻った克樹のバイタルを取った。

「顔色が悪いみたい。微熱もありますし。食欲はありますか?」

「あります。お腹空きました」

「じゃあ克樹さんの昼食もらってきます」

理恵子はトレイを持って戻って来た。左手には氷枕もある。

「召し上がられたら少し休まれた方がいいと思います。これ、使って下さい。具合が悪いようなら先生に診察していただきますけど」

「大丈夫です。何かあればナースコールします」

理恵子が部屋を出ると、待ち構えていた三人が克樹のベッドの回りに寄ってきた。

「捜査上の秘密だそうです。喋っちゃいけないらしいです」

 機先を制して克樹が言った。口々に落胆を表出する彼らに笑うと箸を持った。茶碗を持つと温かかった。温ため直して持って来てくれたのだ。ありがたいな、と食べ始めようとしたが、彼らの視線が気になった。

「何か他の話題ってないんですか?」

「こんな面白いの、そうそうないです」

克樹は吹き出した。

「すみません。役に立たなくて」

三人が見ている間に、あっという間にたいらげた。「それ、下げてきますよ」山内がトレイを持って行った。「僕、お茶入れてきますね」奥野が克樹のコップを取り出した。「ありがとうございます」

克樹が二人の行動に面食らっていると日下部がニンマリ笑って「ちょっとだけでも聞かせて下さいよ」とにじり寄ってきた。その時、幸田が顔を見せた。「こんにちは」「あ、先生」

幸田の顔を見ると、日下部はさっと自分のベッドに戻った。克樹が笑いを含んで頭を下げると、幸田は首にかけていた聴診器を手にした。

「ちょっと胸の音、聞かせて下さいね」

さっとカーテンを閉め、克樹の胸に聴診器を当てた。背中にも聴診器を当て、続いて脈を取り、額に手を当てる。「ふむ」タブレットで確認する。

「本宮さんが具合が悪そうだと言っていたんですが、大丈夫そうですね」

「大丈夫です。ちょっと疲れただけなんで」

「じゃあ薬などは処方しませんので、もしひどくなりそうなら声をかけて下さい」

「ありがとうございます」

「ではこれで」カーテンを開けると幸田は戻って行った。克樹はそのままずるずるとベッドに潜り込んだ。



 夕方近く、清拭などの午後の仕事を終えた理恵子が、克樹の様子を見に行った時、克樹は縮こまるように寝ていた。理恵子は掛布団を直し、氷枕から外れている頭の下に枕を置き直そうと、そっと頭を持ち上げた。克樹の寝息が止まった。

「起こしちゃいましたか?すみません」

薄目を開けた克樹に謝ると、克樹は腕を伸ばした。

「すっかり寝ちゃったなあ」目をこすりながらベッドの上に置きあがった。

「具合はどうですか?」

「眠ったら良くなりました。大丈夫です」

理恵子は体温計を差し出した。克樹が測って返したものを確認する。「熱も下がったみたいですね」

「今何時ですか?」

理恵子は腕時計を見た。「午後四時二十分」

克樹は窓を見た。ガラスに水滴が付いていて、太陽の光にきらめいている。「雨、降ったんですか?」

「ついさっき、一瞬だけ。天気雨ですね」

「キツネの嫁入り」

理恵子は微笑んで「その言い方、久しぶりに聞きました」

克樹も笑って「東京じゃありえないけど、ここじゃ本当にありそう」

「山だからですか?……虹が出るかもしれませんね」

理恵子は空を見ながら言った。

「え?虹?見たい!」

「え?」氷枕を片付けようとした手が止まった。「出るとは限らないですけど」

言いかけた時には克樹はもう松葉杖を手にしていた。

「外、行ってきます。虹ってあんまり見たことないんです」

「出るかどうかわからないですよ」

「いいんです。可能性があるなら」

 可能性という言葉に心がざわついた。克樹がベッドから降りるのに手を貸し、一緒に中庭に出る。日差しが斜めから差し、雨の粒が付いた木々の葉や草がキラキラと光を反射している。所々に残る雲は端が金色に透けて光っている。

「キレイですね」

虹を探してキョロキョロ首を回している理恵子に、克樹が言った。理恵子は気落ちしたように

「虹、出てないですね。すみません」

「いいですよ。雨粒が光っているだけで充分キレイです」

 いつも腰かけている椎の木の前のベンチに座る。理恵子は克樹の前にしゃがみ込み、膝に置いていた克樹の手を取ると

「克樹さん、私……お話ししたいことが」

理恵子を見ていた克樹は、彼女の後ろの人影に気づき目を遣った。

「……!」

 克樹は目を見はり、息を飲んだ。理恵子の手をぎゅっと握り返す。理恵子はその表情に顔を強張らせ振り向いた。見知らぬ若い女性が立っていた。

「克樹さん!」

「美沙……」

 克樹の言葉に理恵子はさっと自分の手を引き抜いて立ち上がった。だが美沙には克樹以外のものは目に入っていなかった。両手を頬に当て、もう一度克樹の名前を呼ぶ。

 と、大粒の涙が頬を伝い落ちた。彼女は駆け寄ると克樹の首筋に抱きついた。

「克樹さん!」

泣きじゃくる美沙の背中をさすりながら「ゴメン、心配させて」

苦しげに理恵子を見上げる。理恵子は唇を噛みしめ、逃げるようにその場を離れた。

 理恵子がナースステーションに戻るとそこにいたのは看護記録を打ち込んでいる村上だけだった。

「戻りまし……」

「あ!本宮さん!さっき、高木さんって女性が来られたんですよ!北山さんの彼女なんですって。病室にご案内したんですけど、北山さんいらっしゃらなくて。一人で探しに行かれたんですけど、会いました?」

「ええ。会ったわ。北山さんのご両親は?一緒に来られたんでしょ?」

「それが……」

 美沙は車で来るという北山夫妻とは別に一人で訪ねてきたという。

「飛行機で来たって言ってましたよ。それで詰所に来られて。私、一緒に探しましょうかって言ったんですけど、一人で大丈夫ですって仰ったから戻ってきたんですけど」

 都会的で洗練された服装や、訛りのない喋り方は周囲の注目を集めていた、とも付け加えた。見知らぬ彼女があちこち克樹を探して歩いている姿はさぞかし人目を引いただろう、と理恵子の心は深く沈んでいった。

「きっと、今からまたその噂でもちきりですよ」村上は面白そうに言った。

「そうね」全身の力が抜けるような感覚をこらえる。理恵子はナースステーションを出て、廊下の窓を開けた。中庭が見渡せる。日は西に傾き、影が長く伸びている。バラ色を帯びた光は、先ほどまでよりいっそう美しく雨粒を輝かせていた。

椎の木の下のベンチに二人の姿があった。

「どうしたんですか?」

 看護記録を書き終えた村上が、廊下に出てきた。理恵子はちらりと村上を見ると、また眼下に目を遣った。村上も下を覗く。「あ、あれ」

理恵子は頷いた。

「感動の再会ですねえ。これからまた大騒ぎになるでしょうね」

暗澹たる気持ちで見ていた理恵子に「いいんですか?」と訊いてきた。

「え?」驚いた理恵子に

「取られちゃいますよ」冷やかし半分、心配半分といった複雑な表情で「噂話の中には、王子さまと平民の悲恋っていうのもあったんですよ」

「何言って…」慌てて否定しようとする理恵子をじっと見て、また中庭を見る。

「お姫様に取られちゃっていいんですか?」

「……」

「人魚姫みたいですね」

寂しげに言うと詰め所に戻った。理恵子も窓を閉め後に続いた。

「何?人魚姫って」

「童話ですよ。アンデルセンの。王子さまを助けたのは人魚姫だけど、結局王子さまは人間のお姫様と結婚しちゃって、人魚姫は海の泡になって消えちゃう」

理恵子は手を振った。

「このままだと取られちゃいますよ」

「私は…」言葉はそのまま途切れた。理恵子は村上を見ると、タブレットを持って奥の薬品倉庫に入った。カルテを見て夜の点滴の準備をする。村上も横に来て、点滴のビニールバックに黒マジックで名前を書いていく。村上はなおも「北山さんは絶対本宮さんのこと好きでしたよ。私がバイタル取りに行ったりした時もいつも『今日は本宮さんは?』でしたもん」

理恵子の手が止まった。「それ、本当?」

「そうですよ。いつも本宮さんの姿、探していたし。卵から孵ったばかりのヒナみたいに。そりゃ噂にもなりますよね」

理恵子は胸に手を当てると「私にも可能性あると思う?」独り言のように訊いた。

「え?」点滴バッグをワゴンに移していた村上は顔を上げた。

「なんでもない」

 その時、ナースステーションの外から声をかけられた。理恵子が薬品倉庫から出ると、北山夫妻が立っていた。理恵子は頭を下げた。夫妻も見知った理恵子を見てほっとしたようだった。

「遠い所をお疲れ様です。警察にはもう行ってこられたんですか?」

「ええ。事情聴取と指紋採取してきました。でも、事情聴取は、前回と同じことしか言えませんでしたけど」

 克樹の眼鏡に付いていた指紋は二つあり、ひとつは克樹のものだった。もう一つの指紋が誰のものかを特定するために、北山夫妻は先に警察に行って指紋採取を行ってきたのだ。

「ご案内します」

 退院についての説明のため、カンファレンスルームが用意された。理恵子が北山夫妻を案内し、村上が中庭の克樹を呼びに行った。幸田が夫妻に経過を報告し、東京での通院先の病院の紹介状を渡している時、克樹が入ってきた、横には腕を支えるように添えている美沙もいる。理恵子は苦悶の表情で顔を背けた。

 博明と静子は、克樹が車椅子ではなく、松葉杖で移動できるほどに回復しているのを見て喜んだ。克樹が席につき、その隣に美沙が腰をかける。理恵子と村上は二人で「失礼します」と言って部屋を出ようとした。ドアを閉める前に克樹を見ると目があった。もの言いたげな視線を残し、理恵子はナースステーションに戻った。



 夕食後、胃癌患者の急変や、救急からの受け入れ要請があり、理恵子が仕事に区切りがついたのは午後九時を回った頃だった。日勤の看護師は皆もう帰っている。ナースステーションを出て更衣室に向かって歩きながらふと外を見ると、月明かりが煌々と辺りを照らしていた。白い光は昼間とはまるで違う、陰影だけを浮かび上がらせている。月の光が強くて星がよく見えない。

 その、美しい無彩色の世界にー

 影が動いた。

 窓から中庭を覗き込むと、椎の木の影のベンチに克樹が腰掛けていた。影が動いたのは倒れた松葉杖を立て直したからだった。利恵子は足音を立てないように、だができるだけ急いで階段を駆け降りた。

「こんばんは」

 月を見ていた克樹は驚いて振り返った。だが理恵子を見て微笑むと

「まだお仕事ですか?」

利恵子は病棟の方を振り返り、そちらから見えないように樫の木の影に移動した。そのせいで克樹は斜め後ろを向いて話すことになった。

「どうしたんですか?」

「いえ」利恵子はごまかすように笑った。「仕事が終わって帰る所だったんですけど、窓から克樹さんの姿が見えたんで。ご両親や、美沙さんは?」

「今日はホテルに泊まるって言ってました。両親は明日の朝迎えに来ます」

「美沙さんは?」

暗い響きを持った理恵子の言葉に、克樹は言い淀んだが

「美沙は朝一の飛行機で東京に帰るって言ってました。朝、顔見せにくらいは来るかもしれませんが、一緒には帰りません。月末で忙しいみたいだから」

言い訳のように言った。

「そうですか。それでも会いに来られたんですね。美沙さんは克樹さんのこと本当に好きなんですね」

克樹は目を伏せた。「僕は……」

月に雲がかかった。光が遮られ、表情が見えなくなった。

「私じゃだめですか?」

克樹は目を見張った。

「私、私も克樹さんが好きなんです」

「本宮さん」

「私には可能性はありませんか?」

 克樹は身体を前に向けた。理恵子はゆっくりと克樹の前に移動した。ベンチの前にしゃがむ。

 克樹は喋るのが苦痛だというように顔を歪めた。

「好きです。でも。わからないんです。この感情が不安定な状況が生み出したものではないと言い切れる自信がありません。今日、美沙に会って彼女のことも確かに愛しいと思ったんです。それに…」

やっと利恵子に視線を合わせる。

「あなたも、そうではないですか?寂しい毎日の中で、救いを求めていただけなのかもしれない」

「そんな!」

「錯覚ではない、と言えるでしょうか?」

 黒目がちな克樹の瞳はまっすぐ理恵子を見た。理恵子は克樹の視線を受け止めきれず、目を伏せてしまった。長い間俯いていたが顔を上げる。

「美沙さんを好きだと思った理由を説明できますか?」

「え?そんな。理由だなんて」

「それが錯覚ではないと言えるでしょうか?」

克樹は負けたというように笑った。「言えないですね」

理恵子も笑顔を見せた。

「私、私もこの気持ちが錯覚ではないとは言いきれません。…けれど」

克樹の手を握る。

「あなたと離れたくないんです。そばにいたい」

「でも僕は…」

言葉の途中でぎゅっと手を握る。

「わかっています。ここにいてほしいなんて望んでいません。ただ、気持ちを伝えたかっただけです」

「ありがとう」

「私…」

 東京に行くと告げようとした。その時、辺りが暗くなった。病棟の入口周辺の明かりが落とされたのだ。消灯時間まで後30分。月はまだ雲に隠れていて闇が覆っている。克樹はゆっくり理恵子の唇に顔を近づけた。





 翌朝、まだ暗いうちに美沙は病院にやって来た。もちろん面会時間外である。救急外来の入口で事情を話すと、患者たちの噂のまとである事を知っていた警備員はすぐに開けてくれた。まだほとんどの人間が寝静まっている病室の廊下を、足音を忍ばせて歩き克樹の病室に入る。カーテンを引く音がしないように、下をくぐって中に入った。そっと克樹を揺する。囁き声で「おはよう」と声をかけた。克樹は眠そうに布団を引っ張り目を開けた。そこに美沙の顔があることに一瞬驚いたがすぐに笑みを見せた。「おはよう」

「起こしてごめんね。私、すぐいかなきゃならないんだけど。顔を見てから行きたくて」

囁き声で早口で言う。

「わざわざありがとう」

「うん。先に帰って待ってるから」

それだけ言うと、克樹の頬に唇を付け、そっと抱きしめると照れたように微笑みながらカーテンの下をくぐって去って行った。

 理恵子が出勤したのはその後だった。理恵子は着替えもそこそこに克樹の病室に行ったが、そこには大勢の入院患者が集まっていた。病室前まで人がいて、理恵子は気後れして足が止まってしまった。が、理恵子に気付いた患者達はさっと道を開け、理恵子はモーゼの海が割れた奇跡を思い出した。足早に人の間を通り抜ける。「おはようございます」周囲の好奇の目にさらされながらも笑顔で挨拶をする。克樹はもう用意をしていた。大きな紙袋が二つ。着ている服は、昨日静子が持ってきた青いストライプのシャツとダウンのベスト、固定の上から穿けるサイズの大きめなチノパン。

「松葉杖はお返ししないといけないんですよね?」

「はい。昨日幸田先生が書いて下さった紹介状の病院で貸してもらえますんで、こちらのは返却お願いします」

 人垣がまた割れた。入って来たのは看護師長の渡辺と北山夫妻だった。夫妻は物見遊山気分の患者たちに囲まれて驚いた様子だったが、克樹は笑って「後で話すよ」と言った。荷物は静子が持ち、博明が克樹を支えて病室を出た。足元が危うい克樹を見て「玄関まで車椅子を使いますか?」と理恵子は訊いたが克樹は首を横に振った。ゆっくり進む三人に、見送りに出てきた幸田や渡辺、理恵子らに加え、ぞろぞろと患者たちが後に続く。正面玄関口に横付けされた博明の車の前で、三人は頭を下げた。

「本当に色々お世話になりました」

後に付いてい来た患者の先頭に立っていた山内が克樹の袖を引いた。

「彼女は?美沙さん。彼女はどうしたの?」

「仕事が忙しいみたいで、飛行機で帰りました。朝ちょっとだけ顔を見せに来てくれたんですけど。午後には会社に行くって言ってました」

周囲からはため息のような声が漏れた。克樹は幸田たちの後ろに顔を向け、「色々楽しかったです。ありがとうございました」と挨拶をした。患者達の間から口々に言葉が飛ぶ。それを笑って聞きながら車に乗り込んだ。窓を開けるともう一度

「本当にありがとうございました。皆さんのことは一生忘れません」

「お元気で」

 幸田の言葉に克樹が頷き、窓を閉めると車は走り出した。あっけない幕引きに患者達は気が抜けたようにそれぞれの病室に戻っていった。理恵子は最後まで見送ったが、車はすぐに見えなくなってしまった。

 ナースステーションに戻りながら、渡辺がポケットから白封筒を取り出し、理恵子に渡した。

「東京都の江東区にある、真田病院って外科病院の紹介状よ。リハビリや理学療法など総合的にやっている所ですって。幸田先生の同期の杉内先生という方がいらっしゃるということで紹介状を書いて下さったから。勤務は来週の日曜日まででいいっていう事になったから。次の週にこの病院を訪ねなさい」

 足を止めると「あんた本当に後悔しないのね?」と訊いた。理恵子は大きく頷いた。

「いろいろご尽力いただいて感謝しています。お礼の言葉もありません。幸田先生にも。後でお礼を言っておきます」

 理恵子の言葉に渡辺は寂しそうに笑った。「いつでも帰っていらっしゃいよ」

「そうならないように頑張ります」







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