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3時間目 ユキって、モテるの…?

(イケメンモードやべーっ‼)

 ユキに見つからない位置から彼の様子を窺っていたトモは、内心でそう叫ぶ。

(ユキ! あなた、無愛想ですぐにキレるのが唯一の欠点だったんだよ⁉ それを捨てたらただのパーフェクトなイケメンじゃん⁉ ってか、髪下ろしちゃだめ! そのサラサラな髪はただでさえ注目浴びるの‼)

 ああ、もどかしい。

 トモは持っていたジュースを一気に飲み干す。

 完全にオフモードのユキがここまで恐ろしいとは。

 彼の居場所を突き止めて現場に急行してから三十分。今すぐにハリセンでも持って、ユキに突っ込みに行きたくなっているトモであった。

「ねぇ、トモ……」

 帽子を深く被ったナギがふと口を開く。

「ユキって、モテるの…?」

「あっ……」

 低く問いかけられ、そこでようやくナギの存在を思い出したトモはびくりと肩を震わせる。

「えっ、とぉ…」

「………」

「そのぉ…」

「………」

「…………はい。正直、ものすごくモテます。」

 というか、今さらごまかせない。

 長身に見合ってすらりと細い体に、白い肌を滑る手触り最高の白銀色の髪。その髪がユキの身動ぎに合わせてさらさらと流れれば、それだけで周囲の目は彼に釘づけだ。

 しかもルキアを連れて休息モードになっているユキは、いつになく穏やかで優しい雰囲気を醸し出している。学校のユキしか知らないと違和感だらけだったが、あのユキを見れば確かにサヤと写真の父親の血を引いていると納得できるというもんだ。

 何よりもはや彼を包むオーラが他と違いすぎる。ここに芸能関係者を呼んだら、まず間違いなくユキを引っ張っていくに違いないだろう。

 本当に、なんであんな逸材が今の今まで表舞台に引きずり上げられずに済んだんだか。

 きっと浮いている気まずさから心を無にしていたユキは気づいていまい。

 ユキの近くを通る女性が漏れなく彼を二度見していたこと。場合によっては友人を連れてもう一度見に来られていたり、遠目から写真を撮られていたこと。さすがに声をかけられた時は不思議そうな顔をしていたが、道を訪ねられただけだと知ると、とても丁寧に対応を始める始末だった。

 道を教えてくださいなんて、お話ついでにあわよくばお触りしたいという下心が丸見えでしょうが!

「ヤバい! 肌めっちゃすべすべだったぁ‼」

 そんなことを言って興奮気味に去っていく女性たちを見送りながら、何度そう叫びかけたことか。

 挙げ句の果てに、あんな綺麗な空色の瞳で微笑みかけられてみろ。そりゃ誰だって落ちますわ。とどめには十分ですよ、まったく。

 赤ん坊を抱くユキの元に、ようやく我に返った母親が慌てて赤ん坊を迎えに行き、ユキにぺこぺこと頭を下げる。ユキが苦笑で大丈夫だと笑いかければ、彼女はまたほう、と惚けてしまった。

 彼の魅力は赤ん坊にも通用してしまうのか、ハッとした彼女が赤ん坊を引き取ろうと手を伸ばすのに、ユキに抱かれた赤ん坊はいやいやと首を振って彼にしがみついていた。

 これにはユキも困り顔。仕方ないからと彼女はユキに保護者スペースの椅子を勧める。それで今さらのように気まずさを思い出したユキだったが、その時には数多くの女性を虜にした後だ。母親ならではのパワフルさに引きずられて椅子に座らされたユキは、瞬く間に彼女たちに囲まれてしまう。

 初めはとてつもなく居心地が悪そうにしていたユキだったが、話題が育児の悩みになるとそんなことも忘れ、途中から膝に座ってきたルキアを抱えながら、普通に彼女たちと楽しそうに話をしていた。

 主婦と会話が合う男子高校生は、あなたくらいですよ…。

 ここまでのものを見せられては、全然モテないですよと言ったところで白々しいだけじゃないか。

「…………ナギ? ここに来る前に約束したけど、見るだけ。見るだけだからね?」

「………」

 ナギは無言ですでに空になっているカップを握り潰している。

(ユキ! 助けて! ナギが…ナギがあぁっ‼)

 冷や汗を流してトモが頭を抱えるが、当然ながらそんな心の叫びがユキに届くわけもなかった。

 

 ★

 

 今日はちょっと料理に力を入れたかったので、なかなか帰りたがらないルキアをおだてて早めの帰路についた。

「にぃにー、今日は何作るのー?」

「んー? それはできてからのお楽しみなー。」

 繋いだ手をぶんぶんと振るルキアが可愛いもので、ユキはくすくすと笑って寮の廊下を進む。

 階段をルキアの速度に合わせてゆっくりと進み、自室がある階に着いて鍵を取り出しながら前を見る。

 そして―――途端に半目で息をついた。

「何してんだ、お前ら。」

 ドアの前で待っていたトモとナギの二人にユキが投げかけたのは、そんなそっけない一言。

「ユキー‼」

「おわっ⁉」

 トモに抱きつかれたユキは目を見開く。

「ちょっ…離せ! 気色悪い‼」

「ユキ! ほんとお願い! 後生だからナギに少しだけ構ってあげてーっ‼」

「はあ…?」

 怪訝そうに片眉を上げながらも、なんとかトモを引き剥がそうとするユキ。そんなユキから離れたトモは、間髪入れずにユキの両手を握る。

「じゃ、そういうことで!」

「あっ、おい!」

 呼び止めるも、トモはものすごいスピードで去っていってしまう。

(構ってやれって……)

 展開についていけずにパチパチと目を瞬くユキは、ナギの方を振り向いた。

「………」

 黙り込んでいるナギはただ床を見ている。

 確かにちょっと変だ。

「どうした? なんかあったのか?」

「………」

 訊ねるも、ナギは何も答えない。

 ユキはそんなナギの様子をしばらく見つめ、ふと大きく溜め息を吐いて肩を落とした。

「ルキア。このお兄ちゃんも一緒にご飯食べてもいいか?」

「うん、いいよ!」

 ルキアはにこやかに頷く。

 まあ、ルキアは人見知りをするタイプではないから大丈夫だろう。

「とりあえず入れよ。」

 鍵を開け、ルキアを先に入れつつ中を示す。

「…………うん。」

 何故かたっぷりと間を開けた後、ナギは小さく首を縦に振って部屋の中に入ってきた。

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