思い出してしまった
2話目です。よろしくです
「ーー様、お嬢様！」
悲鳴に近い、すがり付くような声。私の侍女の声だ。
ゆっくりと目を開け、視界がハッキリしていけば、泣き腫らしたような顔で侍女のチェルシアが私の手を握っているのがよく見えた。
「チェ、リー……？」
「お嬢様！」
名前を呼ぶと、私が起きたことに気づいたチェリーは綺麗な苺色の目を丸くして、じわじわと安堵の涙を浮かべた。
「意識が戻られたのですね……！！ 少しお待ち下さいませ、今すぐお医者様を呼んでまいりますので！」
パタパタとかけていくチェリーの後ろ姿を見送った私は、ここがどこで、自分が何者であるかを整理するため目を閉じた。
私は……私の名は、アンジェリナ・ローズアリア。今このオーゲン大陸で力を伸ばす強国バングドリアの王弟の娘、つまりは大公令嬢。
今居た彼女はチェルシア。私の侍女で、もう1人の侍従の青年、シューティーと共にこの竜立ラヴェール学園に入学した。
ーーそして今、私の中にはもうひとつの記憶がある。いわゆる、前世の記憶、というものが。
前世(仮)の私は、地球という星の日本という国に住んでいた若い女だった。夫か恋人か、それに準ずる相手と暮らしており、何かがあって私はこの世界のアンジェリナという令嬢に転生してしまったらしい。
(よくある転生もののセオリーなら、ここは今断片的に思い出した【雨の姫と7人の王子】の世界なのだろうけど…)
世にいう悪役令嬢ジャンルは漫画や小説としては好んで読んでいたが、乙女ゲームなぞ1度もやったことがない。そもそも、ゲーム自体見る専で殆どやらなかったのだ。
(友達は乙女ゲームをやっていたりしたけど、【雨の姫】の話は聞いたこと無かった…うーん、困ったな)
登場人物であろう人物として覚えているのは、あのしつこいＣＭで何度も出ていた黒髪の男。好きな声優が声を当てていたから覚えたようなものだけど、確か名前は…
「ユージーン・デ・レス・ニュージェネート……」
あれ？
どこかで聞いたような…最近聞いたうな気がするのだけど…いつだったろう？
そもそも、私が前世を思い出したのはなぜなのか、いつから倒れて、どのくらい眠っていたのか、思い出せない。
いや、思い出せないと言うより…
「思い出したくないって感じ…」
そこまで考えて、トビラのノック音が聞こえ思考が止まる。
「お嬢様、お医者様がいらっしゃいました。それと…」
「アンジェリナ！」
シューティーの声を遮り、聞き覚えのありすぎる声が私の名を呼んだ。青みがかった黒髪に、深い青色の瞳の完璧なまでに整った顔を見た瞬間、私は…
「チェェェストォォォオ！！」
「ぶっ」
「お嬢様ぁぁ！？」
倒れるまでの経緯を思い出したし、そのムカつく完璧王子ヅラに枕を思いっきり投げつけてしまった。
ユージーン・デ・レス・ニュージェネート。聞いたことがあって当たり前だ。
こいつは大帝国イルドマーズの皇太子で。
私の、婚約者なんだから。
