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意外な報告

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

農業モジュールの納品遅れから、15日程訓練を延長した2号機と4号機のメンバーも、荷物を纏めて降りて来た。

収穫については、まあまあ満足のいく結果だった。

太陽光でなく人工光だった為、成長が少々遅かったのと、土壌も自然のものでなく、生物汚染バイオハザードしないように人工ブレンドの土壌だった為、ジャガイモやナスは予想より小ぶりだった。

実際の宇宙での運用では、紫外線対策した太陽光を採光するし、より改良した人工ブレンド土壌を使う。


「温度と湿度の調整、もっと下方調整出来ませんか?

 トマトとかジャガイモとか、アンデス山脈の寒冷地かつ痩せた土地が原産ですから、もう少し温度低くしたかったんですよね」

と2号機の訓練生から意見が出た。


その2号機から辞退者は2人。

メシマズの犠牲者だろうと推測していたら、1人は料理担当だった。

「僕はね、一生懸命作ったんだよ!

 なのに、なんで不味い、食えない、レトルトの宇宙食がマシだって非難されるんだよ。

 そりゃ不味いさ!

 調理機材が想像以上に使いづらいんだもん!」

 ボヤきが酷かったが、

「料理機材の開発部門だったら、入るかい?」

 と聞いてみたら、是非との事だった。


農学部から料理機材開発に鞍替えするより前に、農学部の方でしなければならない事がある。

彼等は大学院生である。

休学している訳ではない。

確かに大学、研究室は休学中だが、彼等は科学研究費を国から支給されている身分だ。

報告書を提出しなければならない。

先に訓練終了した奇数号機のメンバーは、世間からは隔離された宿泊所、ビジネスホテル相応、近場にコンビニは無いが売店で経費で買える為、楽しくは無いが不便さもそんなに無い施設で、レポートを書いている。

辞退者は、周囲の方が安全になれば、レポート提出後に退所となる。

科研費は一年の研究計画を提出し、審査の後に支給される為、「やはり宇宙に行きません」と方針を変える事をどう解決するか、悩んでいた。

なので、研究の内、内容が重なるものについて、ミッション・スペシャリストとして選ばれるメンバーにデータ提供を依頼し、「宇宙で無いと取れないデータ」は得られるようにする。

その上で、自分が宇宙に行けない理由を、体験と、訓練所で記録していた体調記録と、医師からの診断書を使って纏めていた。


さて、4号機のメンバー、女性陣である。

全員引き続き審査希望であった。

食事が美味いのは、生活していく上で重要かもしれない。

まあ、1号機の朴念仁たちは粗食に異常に強かったから、インスタント食ジャンキーの1人を除き、ああいうタイプも強い。

どっちかと言うと、粗食に強いタイプが国際標準で、アメリカの火星探査で越年するメンバーは「酸素が薄い場所に適応出来て」「粗食に耐え」「荒地での作業や農業が出来る」という事でネパール人が適しているのでは?という意見も出ているくらいだ。


それにしても、4号機のメンバーは料理上手が多かった。

SNSへの発信力といい、そこで重要な情報を漏らさないリテラシーの高さといい、是非とも諦めずにミッション・スペシャリストになり、ゆくゆくはJAXAに勤めて欲しい。

といった下心も有りで、秋山らは話をしてみた。


「君たちのレシピの豊富さには感心を通り越して、尊敬すら覚えたけど、あれはお母さんから習ったの?」

すると彼女たちはケラケラ笑う。

「すっごい偶然が有りましてねえ」


聞くと、ある娘が学部の1年生だった時に、お惣菜屋でアルバイトをしていて、そこで働いていたおばちゃんに教えて貰った。

そのおばちゃんが、旦那さんの転勤で引っ越していった。

そのおばちゃんが学食で働くようになり、たまに面白いメニューを出して来る。

それに興味持って、色々教えて貰ったのが、訓練生の別の娘。

やはりレシピの多さと、どこか似ている部分が有ったので、話してみたら何となく同じ人物じゃないか?となった。

そのおばちゃん、「石田さん」の事で意気投合していたら、また違う訓練生の娘が

「その人、私の親戚」

となった。

親戚内でも料理上手で知られ、田舎の集まりで料理を出す時は、その石田さんが全部作るとか。

4人中3人と関わりが有ったので、もう1人にも聞いてみたら、その娘は直接は関わり無かった。

だが、結婚前に働いて定食屋が行き着けの店であったと知り、親に聞いてみたところ、20年くらい前に働いていた子がたまにおかずを作っていて、美味しかったから覚えて、自宅での料理に活かしたとか。

「確証は無いけど、もしかして全員、同じ人で繋がってんじゃない?ってなったんだよね」


なる程、途中から全員仲良くなったのは、共通の知人の話で盛り上がれたからか。

そして秋山は思い立った。

「その石田さん、スカウト出来ない?」


フランスやイタリアでも辞退者が出たが、日本での「宇宙料理人」候補は全く集まらなかった。

キャリアアップになると思われなかったからだ。

だが、レストランやホテルや料亭で働く料理人だけが料理人ではない。

「料理機材が使いづらいんだよ!」

と文句言われても、無重力空間、密閉空間で使うには色々制限がある。

臨機応変に対応してくれる方が有難い。

更に、彼女等のレシピを見るに、和食、韓国料理、中華料理、イタリア料理、フランス料理等範囲が幅広い。

打ってつけの人材かもしれない。


「え〜? 大学うちの学食から引き抜くんですか?

 恨まれますよー」

とか言われたが、雇用先たる大学生協に連絡先を教えて貰い、直接電話連絡を入れた。


石田さんは当初、かなり戸惑っていた。

それはそうだろう。

しかも、来て欲しいと言っておきながら、審査と訓練が有るという。

考えさせて欲しい、夫とも相談したい、という回答だった。


秋山は直接訪問して、家族に頭を下げて依頼するつもりだ。

その旨も伝えるべく、2度目の電話をかけた。

返答は

「望まれてるんなら行って来なさい、って夫に言われました。

 母さんカッコいいって、息子も鼻息荒くしてました。

 私なんかでお役に立てるのなら、どうぞお呼び下さい」

との事。

秋山は改めてご家族に挨拶に伺うと伝えた。


なんか、最強の切り札を手に入れた感じだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] このところの宇宙料理人ストーリーですが、限定された環境と材料で創意工夫が求められるという意味で南極越冬隊の料理人と共通するところがあるような。 たしか小川一水さんの「第六大陸」でもその辺りか…
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