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緑は人を和ませる

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

今行っている訓練は、宇宙で食糧を生産し、宇宙で消費する実験の為のものである。

宇宙で農業を行うという事。

宇宙で土や植物をいじるといういう事。

それで細菌汚染をされないよう、対バイオハザード設備で実験栽培、となっている。


生物汚染(バイオハザード)が起きないよう、専用のモジュールで実験をしているのだが、それでも芽が出て、ガラス越しでも緑が増えていくに連れ、訓練生の活気はどんどん漲っていった。

元々農学、生物学専行な為、実験だけでなく実際に植物が好きなところもある。

諸事情から十日ばかり実験が遅れ、それがストレスになっていた部分もあった。

それくらいはストレスに感じないくらいの方が良いのだが、実際問題として無為徒食の日々でやや気が立っていた訓練生が居たのも確かである。

それが本業に入ってからは、目に見えて改善されていた。


他と違い1号機の訓練生、農業関係は1人だけで他は工学系が3人、そして全員が寡黙で唯我独尊タイプなのだが、水耕プラントで芽が出て、葉が拡がり出した頃から、分野外なのに農業プラントに入って植物を見たがるようになった。

対生物汚染(バイオハザード)室への出入り時に、都度防護服を着て、靴や手袋を消毒、生活モジュールとの中間室で全身洗浄という工程を実際にやってみるのも訓練の一環である。

今まで面倒臭がって、定められた訓練時(例えば農作業担当訓練生が室内で倒れたという想定で、防護服を着て室内に進入、救助を行う)以外はモジュール内に入ろうとしなかった。

それが、葉が拡がる頃からは、わざわざ防護服を着て見に来る。


「あの堅物たちでも、緑は見たいものなのかな」

秋山の意見に

「まあ、見慣れた顔以外の生命、新しい刺激ですからね」

という回答。


もやし栽培の時も、1号機はしっかりやっていたし

「シャイな男たちなのかもしれませんね」

という評価だった。


土いじりをしているのは2号機と4号機。

4号機は女性たちで固めた訓練機。

栽培が丁寧なのか、成長状態が良い。

また、報告日記も質、量ともに評価が高い。


さて、訓練機は実機移行を想定している。

実機、宇宙ステーションは90分に一度日本近傍を通過する。

他の通信衛星を使い、ミッションに関わる通信は24時間交信可能だが、私的な通信については日本上空通過の間を可としている。

任務に関わる情報を漏らしたりするのはご法度だが、あえてそこは隠して、どのような通信を行うのかをチェックしていたりする。

男性陣は、ニュースサイトを読み込んだり、私物スマートフォンのアプリを接続したりしているが、女性陣の内2人はブログをアップしていた。

それを見ると、「自宅待機している」体裁で、水耕植物の成長日記が書かれていて、これが普段接する業務モードの彼女たちと違って、中々面白い。

「今のところの判断ですが、女の子たちは全員合格出したいですね。

 作業も丁寧だし、発信する能力もある。

 次回乗れないとしても、機会は他にもありますからね」

「いっそ、アメリカで本格的に実験する方に推薦するとか」

「火星、本当に行くのかハッタリかは分かりませんが、農業関係で推薦しても良いですね」

と評価は高い。


農業実験は、まだ第一段階である。

種を持ち込んで宇宙で発芽させ、収穫する。

次は宇宙で出来た種子を使い、栽培する実験。

ISSの植物実験は「それを食べる」に重点を置いていないが、次世代を宇宙で作る段階まで入っている。

その次は、それらを搭乗人数で消費可能な分を生産する、となる。

4人乗りなら、4人が3ヶ月食べ続ける事が出来て、その間に余剰の種から育て、食べ終わった頃には次の収穫を迎え、また次の3ヶ月を食べ続けられるのと、それだけの量の栽培が出来る種子を得られる、というのが最終目的である。

これならば、長期の宇宙飛行時に持っていく食糧の節約も出来る。

「光合成して酸素も供給出来たら理想」

ではあるが、試算すると広大な面積を必要としてしまい、「宇宙船では無理」となった。

将来、月面基地が出来たならば、人間3人につき東京ドーム2個分の農地兼酸素供給植物園を作れば良いだろう。

火星だと、太陽光の力が弱いのでもっと広大な面積の植物園を作る。


4号機は、作物の成長が良い為、多過ぎる葉や、多数密植したものを間引きし始めた。

それを有効利用で食事に使い始めている。

「ここの女の子で、フランスとかイタリアとかが言ってるシェフとか加えなくても間に合うじゃないですか?」

秋山もそう思う。

だが、フランスの主張は「どれだけ限られた食材で、バリエーション多く、飽きさせない料理を作れるか」なので、家庭の工夫の枠から出ていない女性ミッション・スペシャリスト候補の料理だけでは足りないかもしれない。

(アメリカからも密かに「うちではそういう面の実験は出来ないから、宇宙で作る野菜で無駄なく美味い食事を作れる料理人と、美味いコーヒーのドリップが出来たなら報告を上げて欲しい」なんて言われてるしなあ)


秋山は日本からも出す、宇宙料理人の確保と調査という仕事にも取り掛かる事にした。

そして、そろそろ60日の訓練期間が終了する。

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