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実験開始

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

各自の実験が始まる。

この中で異色なのは1号機であった。

1号機の訓練生は、3人が工学系・材料系で1人が農学部系であった。

本来のミッションでは、機長(船の責任者)、操縦士(兼サーバ技師・ロボットアームオペレーター)、理学工学系ミッション・スペシャリスト、農業系ミッション・スペシャリストとなる。

理学工学系の訓練生も、本番では農業系とチームを組む為、対生命汚染(バイオハザード)設備への習熟度が必要となる。

その為、3人は農作業に関わる事は無いが、サポートや作業監視という事もやって貰う事になる。

場合によっては手伝いも。


宇宙生活は、船上の生活と似ている。

ローテーションを組んで、1日の3分の1は休む。

休養も任務の内である。

限られた人的資源(リソース)を消耗し切ってはならない。

それでも何でもやれる事を求められる船長の役割は重い。

だが、船長以外も必要ならば、何でもこなさねばならない。

例えば、対生命汚染(バイオハザード)設備において事故が発生し、その修復に時間がかかったとする。

専門家である農業系飛行士が休養時間に入るなら、延長させずに必ず休ませねばならない。

この時に、修復作業は続けねばならず、かつ他が手が離せない場合は、理学工学系だからと言って専門外の事をしない、そういう訳にはいかない。

無論、彼等にも彼等の仕事があるので、誰をもって代役に充てるかは船長の管理能力に関わる。

今回の訓練では船長はいない。

個々の協調力やリーダーシップを観察するのも目的であった。


訓練機の奇数号は水耕の実験、偶数号機は土壌農耕実験である。

奇数号機は農耕接触とはいえ、限りなく無菌に近いし、生命汚染(バイオハザード)対策も訓練の域を出ない。

代わりに多種多彩な作物を扱う。

早ければ10日もすれば、青々とした採れたての野菜も手に入るし、訓練終了前後にようやく終わるものもある。

また、二期作、三期作もする。

土壌及びそこの菌類と農耕接触するのは偶数号機である。

トマトとジャガイモ、ナスという3種の栽培に絞られた。


ナスは、最初計画に入っていなかったが(主に好き嫌いの問題で弾かれた)、

「ジャガイモもトマトもナス科ナス属ですね」

という意見から

「もしかしたら、ジャガイモにナスを接ぎ木して、両方取れたら儲けものですね」

「ポマトでしたっけ? ジャガイモとトマトの接ぎ木もありますよね」

となり、ナスも対象に追加された。


もっとも多くの意見は

「ポマトって、失敗した作物の見本だぞ。

 追実験する必要無し。

 上も下も中途半端で、食えたもんじゃない」

と、農業の専門家の方から言われた為、接ぎ木計画は御破算となるも

「同じ属の野菜を育てるのは、まあ良い比較になるかもな」

という事で、肥料の統一、作物の検査キットの統一(ナス科はアルカロイド系の毒を持つ為、それが有害な量かを測定する必要がある)の都合上、ナス科統一となった。

(ナス科は水と肥料を大量に使うから向いていないという意見も出たが、NASAではジャガイモを地球外での農業の軸に考えている為、日本でも加えた)


暗室、冷蔵庫が来た為、水耕・土壌・理工学問わずに行う栽培も行われる。

モヤシの栽培である。

南極の基地でも、栄養の改善の為に義務化された事もあった。

この栽培の為、理工系訓練生も一日に一回は農業プラントに入らねばならない。

「小学校以来です」

という声だ。


そして対生命汚染(バイオハザード)室には、親切なような、意地悪のような、贈り物が2つ在る。

ぬか漬けと味噌(発酵中)である。

乳酸菌と麹菌を扱っている。


親切な面で見るなら、ある時期を迎えると味噌汁が作れ、保存食でもある漬物が食べられ、ビタミンの補充が出来る。


意地悪な面は、

・しっかり世話をしないと失敗作になる

・今回の支給品に乳酸や麹を使った宇宙食は無い為、訓練後にそれらの菌が付着しているかどうかを見る

・水耕のように菌とは無縁に近い作業場の近くに、菌を使う物を置いている

と、失敗や減点を誘っている部分であろう。


そして宇宙での発酵については、次回の計画には入っていない。

もっと宇宙での食物生産が上手くいってからの予定なのだ。


「訓練生を採点する側の訓練の意味もある。

 あえて分かりやすく生物汚染するような物を置いておいた。

 ねちっこく探して、生産物や人体から見つからねば、それで良い」

訓練生だけでなく、職員にとっても意地悪な品であった。




さて1号機なのだが、ここの訓練生はクールというか、他の機体の訓練生に比べれば黙々と作業をしている。

俗な言葉で書けば、陰キャってとこだろうか。

お互い顔を見合わせもしないし、休憩時間は自分の趣味っぽい事をしていて、他人と話さない。

(大丈夫かな?)

とも思われたが、共同作業をするときちんと連携が取れていた。

「それ……」

「こう?」

「OK」

「じゃ、こいつはこれでいい?」

「ん……」

こんな感じに口数少なく、それでいて相手の先を読んでやって欲しい事を察し、効率が良い。


「ちょっと履歴書見せて」

秋山は1号機の訓練生について見てみた。

「ああ、成る程ね。

 面接とかでは猫被ってやがったな」


変人が多い関西の某大学、バンカラで有名な首都圏の農業大学、後戻り出来ないくらい道を突き詰めてしまう工業系大学、町自体が研究者が多くてそっちに染まると一般からは「変な人」と言われてしまう某国立大学と、ちょっと類が友を呼んだのではないのに、同系統が集まってしまったようだ。


技師の情けで具体名は書かんでおこう。

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