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大学院生たちの適応力

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

日本に大学は数多く存在する。

その中で、理系の大学院というのに絞っても結構な数がある。

修士課程以上になると、ワークステーションやスーパーコンピューターのあるサーバールームへの入室が許されたり、各校舎(研究棟)の計算機室に入れるようになる。

また、研究分野によってはフィールドワークが多く、野外で泊まったり、大学が保有している宿泊所、とは名ばかりの物置小屋で過ごしたりもする。

作者なんかは、夏場の冷房代を安くする為に、学会論文の締め切りが近い事もあって、エアコンがガンガン効いている計算機室に寝泊まりした。

研究所という、大学のキャンパスから離れたとこにある建物に通う学生等は、単に寝泊まりするだけでなく、布団や寝袋を持ち込み、生活していたりもした。

無論、そうでない院生もいるが、大概研究に没頭しているようなのは、どこか変わっていて、「大学内の学生控室が居住場所、椅子並べたのが寝場所」なんてなって、自分が異臭に気付くまでは風呂にもいかないようなのも結構いる。

(そういう手合いが多いのか、最近は少なくなっている銭湯だが、大学の近くのは中々繁盛していたりする)

女性だと、本人は身ぎれいにはしているが、周囲の男性のそういうのに特に文句を言わなくなったり、慣れた、当たり前だ、となったりする。


そういう育ちのミッション・スペシャリスト候補だったのか、訓練ユニットに入っての第一声は

「思った以上に狭いなあ」

だったのだが、ひと通り個室、トイレ、浴室、サーバラック等を見終わると

「まあ、研究室みたいなものだな。

 自分の大学よりは快適かもしれない」

等と言っていた。


訓練機は、電話は繋がらないが、インターネット回線は通っている。

研究に必要な範囲で、PCやタブレットは持ち込み可能だ。

実験棟が接続されていない現在、スケジュールに沿って生活するのが仕事であり、休憩時間は休むのが仕事という、本番と同じ事をしている。

その休憩時間に、院生たちはインターネット無線回線を自身のPCやタブレットに接続し、インターネットで外部の情報を見たり、娯楽サイトに接続したりしている。

ファイヤーウォールの設定で、予め登録された場所にしかパケットを送信出来ない。

つまり、ログイン情報や個人のデータをやり取りするオンラインゲームは出来ない設定だ。

それに溺れる者は居ないのだろうが、それでも外部にデータ送信出来ない、イコール遊べないと知って、何人かはガッカリしていた。


数日後、女性チームから管制室に依頼が入った。

このご時世、いくら説明は事前にしたとは言え、故郷の親が心配していた。

IP電話で親と話せるよう、外部送信を許可して欲しい、と。

秋山たちは協議をして、その親に「機密保持の確認」書類を送る。

国家的に機密な事はやっていないが、それでも外部に情報を漏らさない、漏らした場合の罰則についての説明に承諾して貰わねばならない。


郵送で送られて来た「宇宙開発事業団」の封筒に、何やらハンコを押せという書類が入っていて驚く親たち。

それでも、要は娘と連絡を取るか否かのものと理解する。

音声だけだが、IP通話出来るPCを持っていて、使いこなせる親は話が早い。

自分のアカウントやIPや機種情報等を書いて、捺印して送り返して来た。


2ヶ月くらいなら電話無くても良いや、どうせ安全な場所に居るんでしょ、という親も楽だった。

「通話を希望しない」にチェックして返して来た。


残り2家庭の中で、1家庭は兄弟が設定してくれたようで、何とかなった。

最後1家庭、そこが

「よく分からないから説明して欲しい」

と電話をかけて来て、担当がそういうサービスの申し込み、アカウントの取得、アプリのインストール、自宅のセキュリティの確認等をせねばならず

「自分はテレフォンオペレーターじゃないですよ!」

と閉口していた。


男性陣は、管制センター宛てのメールを、問題が無ければ親に転送して貰う、それも一月に一回くらい、というズボラさであった。

親も別段気にしない模様。


女性陣も頻繁に電話する訳ではない。

親が心配するから、メールか、向こうからの通話が可能なら「親が」安心するというだけだ。

娘の方はあっけらかんとしたもので、

「親も繋がると判れば、そんなに電話して来ないですよ。

 電話が繋がらないと、繋がるまで意地になるのか、うるさいんです」

等と言っていた。


その女性陣たちには、彼女たちにしか成し得ない実験もある。

化粧である。

パウダーが飛び散らないよう、大手化粧品会社とタイアップし、いくつか製品を作って貰った。

ところが、院生の子は化粧っけが無かったりする。

「面倒くさーい」

とか言っていたが、そこは女の子、きちんとスケジュール通りに薄化粧はしてくれる。

時々そのまま寝ようとして、管制室の女性スタッフから

「メイク落として下さい!」

と言われるも、たまに無視して狸寝入りする。

この実験は、人選ミスだったかもしれない。


食事は、ストレスからドカ食いするタイプと、某バランス栄養食のブロックタイプ1個で間に合うタイプと別れるが、今回のメンバーは後者のようで、フリーズドライや錠剤をお湯で戻してパックから飲むものや、トロミのついた缶詰について文句は出ない。

「美味いっすよ」

と言ってるので、やや不安にもなる。

なんせ、農業実験の後期は、収穫した作物を使った宇宙料理を食べたりする。

(そっちの研究者は、今は来られない家族持ちの待機組から選んでみるか)


現在のところ、院生たちは良好とは言えない生活環境に適応していた。

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― 新着の感想 ―
[一言]  今話を読み、まったく関係無い事柄ながら、何故か思い出した話がひとつ。  空港の周辺騒音公害、対策のひとつに――  飛行機マニアを住まわせればエエ。  更には、彼らは飛行機が落っこちて来て…
[一言] 自分の学生時代を思い出します。
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