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どうせだから隔離環境での訓練をみっちりやり込もう

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

巷では感染症が猛威を振るっていた。

そんな中でも宇宙飛行士、というかミッション・スペシャリストの訓練は続く。

むしろ、こんな状況だからこそ、じっくりやれる訓練がある。

隔離環境での擬似飛行体験である。


宇宙ステーションと同じサイズの訓練装置の中で、実際に4人で生活して貰い、やるべき実験と同じ作業をするのだ。

これは前もって手順を学ぶ事の他に、適性を見定める意味もある。

閉鎖環境で決まった人間と顔を合わせて生活する。

閉所恐怖症は篩にかけられる。

今までは長くて28日、標準で7〜14日の任務漬けの日々だったから、重度の閉所恐怖症で無ければ押さえ込む事が出来た。

しかし、今回は40〜60日を想定している。

任務漬けとはいかず、空きの時間も出る。

そんな時、外出も出来ない、個室は狭い、娯楽も大して無い環境で、潜在化していた閉所恐怖症が出て来る事がある。

潜水艦映画でよくある、新兵が恐怖から潜水中にも関わらずハッチを開けて外に逃げようとする衝動。

あれをやられたら溜まったものじゃない。

なので、前もってその兆候が無いか見ておく。


また、協調性も審査される。

某アイドルグループのオーディションにおける合宿審査では、才能よりも協調性、集団行動についていけるか、ストレスがかかった時に他人を攻撃しないか、等を審査していると言う。

「明日までに未発表の新曲覚えて来い。

 今居るメンバーでフォーメーションも組む。

 ダンスも覚えろ!」

と言われた中、一人だけで片付けてしまわず、暫定的ながらチームとして、ライバルたちと一緒に立ち位置を確認したり、歌の悪目立ちが無いよう教えてやる、または頭を下げて教えて貰うような協調性をチェックされる。

それがダメなら、いくらタレント性が高くても落とし、他所の事務所からデビューして人気タレントとなっても後悔しないそうだ。

組織をぶっ壊しかねない爆弾は、才能が有っても採らない。

(結果、無難なお嬢様タイプ、親も審査される為一定以上の所得を持つ層から選ばれ、面白みが無くなる傾向がある)

宇宙飛行士も似たところがある。

逃げ場が無く、少人数で生活する以上、我儘なのも捻くれてるのも、落ち込んでいつまでも立ち直れない者も不要である。


そして生活能力。

持ち込んだ食糧で余る程度の短期日程では無い。

食糧のみならず、水も薬も物資も限られている。

隠れて定量以上の水を飲んだり、頻繁に薬を飲むようでは困る。

逆に、決まった運動をしない怠け者も困る。

元自衛官やパイロットがほとんどだった一次応募では余りしなくて良い心配である。

だが、大学院生、ポスドクの研究員、地方の大学講師や高校の理科教師等が通過した第二次応募では、打ち上げ前の訓練で見定める必要がある。

審査時は大丈夫でも、特殊な環境でストレスの為に出て来る事もあるのだから。




さて、合格した全員を、この訓練に入れる事は出来ない。

試験環境が、訓練機、予備機を組み立てたもの、モックアップ(中身は同じだが電子計器は絵)、さらに一般用展示機しか無い。

「ジェミニ改」は本物が使え、汎用機「のすり」も製作スタッフが以前作った試作機を再度組み立てて使う。

これと、まだ実機が無いコアモジュール及び、試作中の農業モジュール(バイオハザード設備の地上実験用)を大急ぎで作り、「こうのとり」7機分の容積を持つ試験環境とした。

同時に試験可能なのは16人。

本来なら1人は操縦士が入り、プロのその者が機長キャプテンとして一同を統率するが、今回は地上試験という事で、ミッション・スペシャリストだけでチームを組む。

また、実際は男女混合チームになるが、今回は女性は4人固まって貰う。

コアモジュールに用意する女性用の設備が1機分しか間に合わなかったからだ。

それの使い勝手も聞く必要がある。




かくして、大学や研究所、高校等が休校中で、家族が同居していなく、検査して感染が無かった者16人が招集された。

そして、実験設備に入れば、外に居るより相当に安全である。

時に半導体等を扱う為、ナノレベルで汚染を許さない上に、普段から宇宙飛行士の病気について監視をしている、更に最近はバイオハザードについても訓練している設備や職員たちであり、空調のフィルターから何から何まで外界から遮断され、余計な物が入らない空間がそこにあった。

呼ばれた彼等も、すぐには入所が許されず、かつてアメリカから管制の専門家を招いて泊めた施設に一旦泊まって貰い、持ち込む私物は3日かけて滅菌、本人たちも3日様子見、そして入所となった。

なお、履いて来た靴は預かりとなり、新品の靴が支給された。



そして、秋山から告げられた。

「はい、諸君たちにはこれから60日間、4人一組で宇宙ステーションを模した部屋の中で暮らして貰います。

我々も監視しますので、プライベートはまず有りません。

こんな時世ですが、宇宙に行く最終審査と思って、真面目にやって下さい」

口調は、某アポ無しで色々やらせた番組や、北海道ローカルながら現在は一流の俳優が若手の時にあちこち連れ回した番組、中学生に殺し合いをさせた衝撃の映画内の宣告に近いものがあり、確かに60日狭い実験施設から一歩も出るな、というのはそれら無茶なものに似てはいる。

だが、いずれ行うと聞かされていた彼等に困惑は無く、どちらかと言うと

(このタイミングでやるのか?)

と驚くも、ただの自宅待機よりずっとマシだと切り替える。

16人の表情が引き締まった。

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