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設計変更、打ち上げロケット変更

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

農業モジュールは、土壌、細菌を扱う為、バイオハザード対応となる。

入室は二重の扉を潜る。

入ってすぐの間で、防護服に着替える。

次の間で殺菌処理をする。

そして土壌プラント室に入る。

そこでする事は、機械化出来ない事だ。

普段は、自動で水やりをし、時間設定で光を当てるかシャッターを閉じて夜にするか、肥料を与える等をする。

モニタ監視で行い、簡単な作業ならロボットで代行する。

カビや病気の監視、雑草取り、栄養状態の確認とかは遠隔で行える。

だが、害虫発生という異常事態の他、収穫・次の種まきや間引き等は人間が行う。

ロボットが集めた雑草やゴミ等の始末も人間が行う。


「単なる農家さんでは厳しいね」


この計画に関係するミッションスペシャリストの大学院生たちは、ドローンやロボットの操縦やプログラミング、機械化された農業を既に行っている企業に研修を義務付けられた。

だが彼等にしても

「この実験をしたかったんだ!」

と乗り気で頑張ってくれていた。


大型モジュールを使うとしても、これで収穫出来るのは滞在する4人の飛行士、数日分の食糧であろう。

本格的な農業には、もっと面積が必要なのだ。

だが、それをする為の第一歩は踏まねばなるまい。

この実験でノウハウを得て、更に生物汚染バイオハザードを起こさず、リモートで出来るようになれば、オニール型(シリンダー型)スペースコロニーの外周にある多数の円柱の集まり、農業区画のようなものに発展させられるだろう。


欲張りだが、これだけでは足りない。

もう一棟、農業モジュールを増設する。

土壌プラントの方が、バイオハザード対応で室内が狭くなった為、水耕プラントも追加して、もっと作物の種類を増やそうというものだ。

こちらはISSでも実験済みで、仰々しいバイオハザード設備は要らない。

この水耕プラントで、ちょっとした漁業も行う事になった。

エビの飼育である。

水も菌類的に不安はあるが、過去にメダカの水槽が実験用に持ち込まれたりもしていて、無菌・人工飼料・コンピュータ制御による水質管理をする事で、バイオハザードまではしないようにする。

この2棟は、入室部分こそ固定しているが、プラント部分は軽く回転をして、若干の重力(遠心力)を発生させる。

コーヒーだチャーハンだと悩まされた遠心分離チームの執念で設計した弱重力室だ。

上下がある事で、エビの水槽には砂利を敷け、水草と二枚貝を入れられる。

エビ同様、二枚貝も食用に使用出来る。

水草も食べられるのだが、アメリカ人、フランス人、ロシア人が「海の雑草(シーウィード)なんか食えるか!」と反発した。

後で日本人チームだけの時に、乾燥させて塩で揉んで、汁物に入れて食べてやれ。


そして外周にモジュール3機ではバランスが良くない為、十字型に接続する最後の一棟は、フランスが用意する「空飛ぶ小料理屋(エール・ビストロ)」となる。

流石に日本スタッフが

「グリルだ、オーブンだ、スチームだ、スモークだ、ミルクタンクだと、対応出来るか!

 暇ならともかく、バイオハザード対応で手が回らん。

 宇宙で高熱は禁物だから、アメリカと掛け合って、OK貰うか、代わりに使えるもの入れるか、そっちでやってくれ!」

とキレた。

注文が細かい事に自覚があったのか、ミュラ派遣職員から日本の状況を知らされたのか、あっさりフランスは製作を引き受けた。

そしてNASAがウンザリする程粘り強く、一個一個問題を潰していき、火災対策や換気もしっかりした宇宙厨房の仕様を固める。

こいつはギアナにある発射場から打ち上げると言う。

大型のモジュールはアメリカとフランス、というかESAが担当する。

「フェアリングの仕様書取り寄せて、合うように設計しないと……」

設計チームが嘆く。

まあ全てを日本だけでやれないのも事実だから、打ち上げや製作分担も仕方ない。


アメリカが作るものもある。

それは、この宇宙ステーションそのものを殺菌するガンマ線照射衛星である。


「このステーション、寿命が来たら大気圏再突入させて、例の場所に海洋投棄する事になるが、その時にちょっとでも生物汚染されていたら問題だ。

 大気圏突入前に、ガンマ線で中の生物全部殺す。

 細菌を扱う宇宙船を上げる以上、これが責任の取り方だ」


とアメリカで言ってるが、フランスは

「大義名分を得た、宇宙での兵器実験だな」

と捻くれた見方をしていた。


例の場所、太平洋においてどの陸地からも最も離れた「到達不能極」こと「ポイント・ネモ」。

どの陸地からも遠いとはいえ、地球を汚染しかねない生物を万が一にも海洋投棄する訳にはいかないのだ。




「そういや、中国も宇宙で発酵食品作りたいとか、新しいジャン開発とか言ってましたが、彼等はこんな厳しい投棄基準や、帰還時のルールを作ってますかね?」

秋山の疑問に、NASA関係者は

「外向けに基準は作ったかもしれない。

 だが、連中が守ると思ってるのか?」

と答えた。

フランス側が

「案外、もう特効薬の無い病原体作ってしまい、それを持ち帰って手に負えなくしてたりして」

なんて言ったが、電話会議していた全ての者が嫌な沈黙をした。

そう、ロシア人すらも

それは笑えぬエスプリであった。

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[良い点] 最後のジョークが笑えない(笑)
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