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講習会、研修、設備導入、書類書類

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

日本独自宇宙ステーションにおいて、農業、水産、食糧関係をするのは、どうやら国際的に承認が取れたようだ。

NASAにしても長期宇宙滞在の為の実験で、自分たちがやらない事を日本がするなら、ISSの補完機能として丁度良いと思っている。

フランスはこっち系なら「いくらでも協力する!」と乗り気だ。


だが、やるとなったら、しっかりやる必要がある。

今までは、宇宙船が狭い事もあり、スポンジで水耕するカイワレやモヤシを持って行き、室内の空気に晒さないようにして栽培、それを持ち帰るくらいの事をしていた。

滞在期間も、発芽させて成長させる初期段階の1週間程度だった。

次の計画からは、長期滞在して、収穫して食べるまでを行う。

ある程度無菌が出来る作物はまだしも、土壌を持ち込む、発酵させる為に麹室を作る等をする為、どうしても厳重にする必要が出た。

生物汚染バイオハザードへの対策である。


地球の外に出ると、大量の宇宙放射線が飛び交っている。

土壌には大量の細菌がいる。

それら細菌が放射線によって突然変異を起こし、有害化する危険性があるのだ。

無菌の土壌では意味が無い。

大豆等の土壌細菌が必要な作物について実験するのが目的だからである。


宇宙で突然変異させた細菌なり、そこにあったウィルスなりを持ち帰り、それが病原体として蔓延し、特効薬も無いまま感染爆破パンデミックさせたなら、責任を取る一環で組織解体だってあり得る。

知らなかった、初めてのケースだから、天使じゃないから間違いも有るさ、なんて言ったって責任は免れるものではない。


という訳で、秋山は自身も含め、研究チーム、設計チームを研修に出した。

バイオハザードのマークを貼る研究施設を作る。

その設備の構造や、中に入った人の着る服、出入りに関しての手順、外に持ち出す時の検査方法等、学ぶ事は多い。


防ぐだけでは足りない。

起きてしまったら?

最悪、宇宙で隔離もあり得る。

隔離された宇宙ステーション内で治療をする。

責任を取って腹を切るとかは問題外。

なるべく治す、治らなくて死体となってもデータを遺す。


除菌、除ウィルス、除虫についても学ぶ。

土壌中にはダニ等もいる。

害虫は持ち込まない方針だが、紛れ込んでしまう可能性もある。

ダニを媒介とする感染症もあるから、もし紛れ込んでいたなら直ちに処分し、実験を中止する。


地上スタッフも他人事ではない。

四六時中宇宙飛行士の体調バイタルを監視している彼等は、いち早く感染症に気づく必要がある。

怖いのは、潜伏期間が丁度地球帰還の時期に終わる事だ。

地球帰還と共に発病とか、悪夢である。

監視は医師の協力も得るが、医師もこのミッション専属で常駐出来る程余ってはいない。

職員が出来るだけ専門知識を身につけ、可能な限り内部完結出来た方が良い。


地球帰還後も、しばらくは隔離施設収容が必要である。

アメリカの月探査計画だって、帰還後の飛行士はしばらく隔離され、月から未知の病原体を持ち込まなかったか調べられた。

隔離施設は、1ヶ月程度は様子を見られるよう、ビジネスホテル級の個室とルームサービスは用意する。


「宇宙のカプセルホテルから帰ったら、ビジネスホテルに缶詰めとか、宇宙飛行士の人権考えてませんね」

と飛行士たちに、笑いながらだが、皮肉も言われてしまった。


と言った事を、習うだけでは駄目だ。

それでは単なる評論家と変わらない。

実習も行う必要がある。

実習というより、「起きてしまう」事前提で訓練と言って良い。


衣服、マスク、手袋、靴、消毒薬、うがい薬に薬用石鹸等、バイオハザード室に出入りする際の物品も備蓄しておく。

病気を検知する胸部X線写真機も持ち込む。

地上にはCTスキャナーも導入する。

軌道上には簡易診療所、地上にはそれなりの検査施設を作る事になる。


そして設計チームがぼやいた。

「どう考えても、まだ容積が足りない」

サイズ的に、宇宙ステーション補給機「こうのとり」をベースにしたものでなく、一回り大きいISS日本実験棟「きぼう」が必要であり、「きぼう」同様増設倉庫に備蓄品を置いておきたいとの事だった。


秋山は、自身も研修を受けながら、他のメンバーの研修結果、訓練結果の報告書を取り纏め、設計チームから上げられた改良案と、それに伴う予算増加を上長に報告し、必要時に提携する医療機関と顔合わせをしたり、別の役所、保健所や厚生労働省等を打ち合わせたりと、書類書類打ち合わせ書類ミーティングな日々を送る事になる。

彼はさらに、アメリカ、ロシア、フランスの宇宙機構、そして面倒臭さでは一枚上の自国政府に逐次報告もしなければならなかった。

デスマーチ再び、である。


その機会を狙っていた為、アメリカに打ち上げ業務が移っている今だからこそ、出来る事であった。


「いっそ、計画を簡略化しませんか?」


そんな声も上がった。

宇宙関係の職員が、医学衛生学等をガッツリ習う、それも通常業務上がりの夜間とかにしているから、働き方改革に逆行する過重労働だ。

だが、彼等は止める、縮小するという選択肢を捨てた。


「飯に関して妥協出来るか!」

「食事に関して、フランスも絡んでるのに負けていられるか!」


彼等を怒らせるには食糧で問題を起こすしかないとジョークで言われる、日本人の何かに火が点いていたのであった。

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