今後の計画について
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
補給無事終了という報告が地上にもたらされ、管制センターではまたロシア人スタッフが拍手をした。
日本人スタッフとハグをし、握手をする。
……後にこの濃厚接触は問題視されるが、とりあえずこの時点ではまだ大丈夫である。
さて、日露共同での任務遂行で、スタッフ間、宇宙センター間で信頼が生まれた。
カウンターパートも何となく分かり、部署間での連携が素早く出来るようになる。
さて延命した「こうのとり改」1号機だが、これで2号機打ち上げ迄の間、空き無く宇宙滞在に使える事になった。
「ジェミニ改」は16号機まで打ち上げ、17~20号機にあたる機体は
・地上実験機(アメリカ設置)
・地上実験機(日本設置)
・予備機(アメリカ待機)
・予備機(日本待機)
となっていた。
21~29号は現状の「ジェミニ改」を使用し、30号機以降は「ジェミニ改2」となり、最大4人の運搬が可能となる。
既に述べたように、来月から漁業関係で種子島宇宙センターは利用出来なくなる。
17~20号に関しては、アメリカ主導で使用される。
日本人宇宙飛行士も加わるが、主にアメリカの都合で使う為、秋山たちは軽くしか関わらない。
つまり、今回の16号機で「当初の計画」は前倒しして終了、次回計画の練り直しとなる。
「さて、それでどうしよう?」
秋山はスタッフを集めて話した。
元々は「2人乗り宇宙船で最大28日宇宙に滞在して、飛行士としての訓練をする」ものであった。
だが、訓練機がそのまま「訓練兼人員輸送機」となり、実験用に「日本独自の宇宙ステーション」を運用する羽目になった。
その日本独自宇宙ステーション「こうのとり改」だが、これを「ISSのバックアップとしても使わせろ」と言われて、規格を日本独自ではなく国際仕様にしなければならなくなった。
日本の宇宙ステーションがバックアップとして、もしかしたら「ISSの避難先」になるかもしれず、そういう施設を使う以上、宇宙飛行士は「訓練生」ではいけなくなった。
自動車に置き換えると、路面教習車だった筈が、いつの間にか後ろにキャンピングトレーラーを曳いて、何か有った時は仕事をする為、「教官と仮免だけが乗るのではなく、二種免許持ちの搭乗も必要になった」となったようなものである。
「なし崩し的にやる範囲が大きくなったから、一回締め直そう」
それが今回の秋山の呼び掛けである。
「幸いというか、今年冬まで打ち上げ計画は無い。
根本的な見直しをするには良い時期だ」
風呂だコーヒーだ農場だと、末節の方に熱中していたスタッフも表情が引き締まる。
「質問します。
訓練と実験、どちらがメインとなるでしょう?
それによって設計も変わって来ます」
秋山は
「半々と考えて欲しい。
今までは、2人乗りの宇宙船1機で、2人が住むのにやっとの宇宙ステーションに乗って、最大28日の滞在をしながら宇宙飛行士としてキャリアを積む事に使用していた。
だがこれからは、最大4人乗りの宇宙船が2機ドッキングし、片方でこれまで通りの訓練をしながら、別棟では実験をミッション・スペシャリストが進める、こういう使い方になる」
「両方満たすとなると、大型化しますね」
「1機では無理だ。
『こうのとり改』2号機は、1号機をパーツとして取り込み、居住空間はそこを利用しましょう。
生活空間として取り込んだ1号機を使い、反対側に実験棟を設置。
その両方を接続するコアである2号機は訓練用の空間にしましょう。
エアロックや展望窓、観測機器接続用のパネル、輸送機のドッキングポート等を設ける」
「何機構成ですか?」
「3機にしよう。
その内、1機は既に打ち上げ済みのを再利用」
「全部のポートにドッキングしたならば?」
「2号機の後ろに燃料等補給用のプログレスまたはATV(欧州補給機)、
2号機の前方に『のすり』連結型『ジェミニ改』または『改2』、
上方に現1号機、下方に実験棟、実験棟の先のポートに搭乗員交代用の『のすり』連結型『ジェミニ改』または『改2』で、
全部で8機連結かな」
「立派な中型宇宙ステーションですね」
「別にアメリカやロシアが口を挟まなくても出来るのでは」
「まあ、あれは政治的な事情で挟まって来たのだし、彼等はもっと大きなコアモジュールを打ち上げられるから、まあ仕方ないでしょ」
「『のすり』は基本補給用パーツで、単独では宇宙で生命維持出来ない上に、次回からエアロックは2号機のものを使うから、あれも見直しが必要だね」
「『のすり』、まだ使うんですか?
3号機で終わりの中継ぎ船だったように覚えてますが」
本来、「ジェミニ改」の搭載量の小ささを補い、ついでに与圧室の拡大用、「こうのとり改」1号機では狭いエアロック用として、「こうのとり」を即席改造して使った補給機が「のすり」なのだが、使い勝手は思った以上に良かった。
「21号機以降は、宇宙ステーション滞在で40日程度の実験を1単位とするから、1回のフライトで十分な物資を運べる『のすり』は便利だった。
使い続けるよ」
開発チーム以外、否定は無かった。
「では、新規開発は実験棟になりますね。
まあ、これも『こうのとり』の改造になりますが」
「技術的にはそれで良い。
だがしかし、君たちには重要な仕事が残っている」
秋山は少し脅してみた。
「?? 何でしょう?」
「企画書みたら、君たち農業が好きだねえ」
「あーー、まあ……」
「秋山さんも、長距離を移動する宇宙飛行士の為に、食糧生産は重要って言ってましたよね」
「それはそうだが、その食糧生産に問題がある」
「と、言いますと?」
「生物扱うのだから、バイオハザードに対する研修や、対応、仕様をまとめる事だ。
なんせ、農業プラントを使い捨てで落とすのだ。
宇宙線の影響で、土壌細菌が突然変異してたりしてな。
それが太平洋の到達不能極に捨てられて……」
農業の前に、担当職員で生物汚染についての勉強会をする事が決まったのであった。
昨今の新型コロナウィルスの為、宇宙に行く農場とか、厳重に管理して隔離する、それに触った飛行士もしばらく隔離、そういう話を思いつきました。
まあ不思議な話はなく、アポロで月に行った飛行士も「未知の病原体汚染」を用心して、帰還後しばらくは隔離されたようですので。