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軍人の蛮用に耐える事というのは中々意味深いものかもしれない

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

その昔、日本が戦争をする前にレーダーの八木アンテナを

「まるで花魁の(かんざし)のようだ」

と言って、さらに

「こういう機械は軍人の蛮用に耐えないだろう」

と不採用にした経緯があった。

今はともかく、昔は「電子機器は実戦の過酷な使用法をしたら、故障して使えなくなる」という思いがあった。

一方ロシアの前身ソ連では、AK-47という「泥に漬けても」「砂埃がパーツの隙間に入り込んでも」「潮風に晒され錆びる環境でも」動き続ける「まさに軍人の蛮用に耐える」銃器を開発した。

力技の工業国ソ連→ロシアは、そういう「多少荒っぽい使い方をしても耐える」機械を作る傾向がある。

宇宙船にしても、その傾向がある。

なるべく衝撃少なく着陸するアメリカに対し、

ロシアのソユーズは着地寸前の逆噴射や、着地の衝撃がそれなりに強い。





プログレス輸送機が「こうのとり改」に接近して来たのが見えた。


「随分と速いなあ」


観測窓越しに、宇宙船像の大きくなり方から、高速で接近している事が分かる。

ロシアのドッキング方式は、アンテナとアンテナで対象と宇宙船が接続されると、ターゲットマーカーを目当てに体当たり気味に突っ込んで来る。

先日船外活動で、輸送機と接続するドッキング用アンテナは設置した。

もしかして、それを目掛けて高速で突っ込んで来るのでは?


「こちら『こうのとり』、つくばへ。

 輸送機が速過ぎないか確認して貰いたい、どうぞ」

「こちらつくば、『こうのとり』へ。

 心配しなくて良い。

 ロシアを信じて欲しい、どうぞ」


(信じたいんだけど、実際に見ていると怖いんだよ)


「ジェミニ改」のドッキングは、相当慎重に行われる。

その時の視サイズの拡大度合いから見て、ロシア機は速いように見える。



地上管制センターの言っている事の正しさは、やがて証明された。

ランデブーポイントに近いところで、輸送機は急制動をかけて減速し、やがて想定の範囲内の位置で相対速度ゼロになった。


つくばの管制センターでは、見物に来ていたロシア人スタッフたちが拍手をする。


日本人スタッフが秋山に聞く。

(大丈夫、任せておけとか言ってましたが、もしかしてロシアの方も出来るかどうかの勝負だったんですかね?)

(いや、違うぞ。

 連中は成功したら大袈裟にスタンディングオベーションするんだ。

 飛行機が飛行場に着陸しても拍手が起こる。

 君もアエロフロートに乗って旅行してみたら良い)


ロシア人と同じ瞬間、思わず宇宙ステーション内の2人も拍手をしていた。

「ぶつかるかと思いましたよ」

「いや、実際ドッキングは衝突っていうくらいだからね。

 不安にもなったよ」


ロシアは自動制御に関しては、日本とはちょっと考えが違うが、進んだ国である。

ロシアでは「ミスするかもしれない、変な操作するかもしれない、だから機械の方である程度の事をして、誰でも扱えるようにしよう」という「軍人の蛮用」的な発想がある。

荒っぽいように見えるが、用は果たせるレベルの精度で、きちんとこなすのだ。


ロシアが実力を見せ、きちんと予定通りの空域に宇宙船を送った以上、あとは日本人の仕事になる。

アームを伸ばしプログレス輸送機に接近し、把持(キャプチャ)する。

さらにフックのついたロープで、「こうのとり改」とも連結。

強い力を加えれば外れる程度の固定だが、これで簡単に位置がずれる事もなくなった。


ハッチを外から開ける。

割と固い。

宇宙空間で開かないように、外部のロックはそれなりに固い。

地上に下りて、非常時は外から開ける為、その時には足を地につけ、踏ん張って力を入れる。

そうする事には開けやすいのかもしれないが、無重力のフワフワ状態で、足場もそれ程しっかりしていない場所だと、ちょっと固いと感じた。


そして確実に開く。


(無骨な作りだな)

ハッチを開けてそう思う。

現在は正確にはプログレスM改良型なのだが、元々のプログレスは1973年設計開始の機体だ。

プログレスの技術は宇宙においては「枯れた技術」で、信頼性も高い。

まだ手探りの日本より上の技術がいくらでもある。


ハッチを開け、中から補給用ホースを引っ張り出し、それをもって「こうのとり改」の機械船部分まで運ぶ。

パネルを開け、補給用のタンクの補給孔の差し込む。

単純に言えば自動車の無人ガソリンスタンドでの作業のようなものだ。

ガソリンも十分に危険な液体だが、今回の補給物資の内、液体酸素と燃料も十分に危険な液体だ。

安全なのは水くらいなものだが、こちらは加熱器(ヒーター)でホース内を温めておかないと、給水中に中で凍ってしまう危険性もある。


宇宙飛行士は交代交代で、液体を「こうのとり改」に補給する作業を行った。

意外に時間がかかり、ドッキングから補給終了、逆に廃棄物をプログレス船内に詰め込み、アームはそのままでフックを外し、簡易ドッキング状態、こちらの意志で把持(キャプチャ)から解放(パージ)にしたら分離出来る状態までの作業で、大体8時間かかった。

船内に入り、モードを予備(メインだとタンクの中を使用するから、補給において危険)からメインに戻すと、やっと2人は人心地着いた。


「終わりましたね」

「今回、これだけが任務(ミッション)だったのに、えらく長く感じましたね」

2人は今回の宇宙食の宇宙甘酒プレーンを湯で溶かして乾杯した。

150年続く会津の酒蔵が作った「飲む点滴・飲む美容液」という謳い文句のように、糖分が疲れ切った身体に染み渡った。

糖分は偉大なり。

「糖分」と書いた額縁でも飾ってみようかと語り合った。

「宇宙甘酒」は実際に有りましたが、現時点のものが本当に宇宙で使えるかは不明です。

この話の中ではいける事にしています。

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