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滞在計画練り直し

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

「現在の『ジェミニ改』は最大28日の滞在が可能。

 それに『のすり』に乗せた物資が有るから、しばらくは大丈夫でしょう。

 『こうのとり改』も燃料、酸素、水はあと10日は問題無く使えます。

 それを過ぎても、燃料と酸素を消費する発電を太陽電池オンリーに切り替え、

 水も無駄遣いしなければ飲料用は間に合います。

 呼吸用酸素は循環式ですから、14日、2週間は何とかなります。

 それを過ぎたら、『こうのとり改』の方は閉鎖して、『のすり』と『ジェミニ改』の方の与圧室だけ使って下さい」


 そんな指令だが、ある意味「貴重な経験だね」と2人の飛行士は憤懣を通り越してポジティブになっていた。

 予定を変えられるのは腹立たしいが、それをいつまでも引きずっているようでは宇宙飛行士失格なのだ。

 飛行計画は、船外活動の猛特訓に変更された。

 訓練ではなく、猛特訓である。

 電気がまだ万全な内に、あらゆるケースを想定して、アームの先に乗っている宇宙飛行士の対応を学ぶ。

 特にあり得るのが、ランデブーの微妙な軌道ずれ。

 普段ロシア側は使わない軌道な為、アームが伸びている反対側に突っ込んで来たり、アームの届かない場所に来てしまう事が考えられる。

 ロシアの技術も高いので、大幅にずれる事は無い。

 だが、ちょっとのずれでも問題はある。

 「プログレス」輸送機は、アームに設置したターゲットマーカー目掛けて飛行し、大体のとこで逆噴射をかける。

 この時、衝突すると結構な衝撃が来るのだ。

 その為、ロシア式ドッキングポート、凹凸型は、受ける凹の側を頑丈に作る必要がある。

 フェザータッチでドッキングするアメリカの凹凹型とは違うのだ。

 多少斜めからでもロシア式はドッキングする。

 日本の宇宙ステーションは、ロシア式ドッキングを全く想定していない。

 自国だけで好き勝手に使おうと思ったら、ISSのバックアップにも使いたいなんて後から言われたのであり、基礎設計の時点で「想定してない力が加わったらどうなるか」の対策がされていない。

 有体に言えば、増設したアームや、そのアームを結合している暴露部に負荷がかかり、壊れる可能性がある。

 そうしない為に、本体を回転させたり、軌道をこちらが多少変えたり、絶妙のタイミングで把持(キャプチャ)する等、出来る事は有る。

 地上でもシミュレータで何度も訓練したが、本来燃料や酸素を補給して任務終了の今回、他の仕事は入っていない。


「この機会に、船外活動のエキスパートになろう!」

「やりましょう! 橋田さん!」


彼等は予備の船外活動用酸素ボンベを使い尽くす勢いで訓練を始める。

さらに何度もコンピュータを訓練モードに切り替え、手動での操縦を試す(レスポンスは出るが、実際には軌道変更しないのが訓練モード)。

さらに今回のエキストラミッション、船外の傷等の確認を先に行う。

日本独自ステーションは低軌道を周回する為、宇宙塵(スペースデブリ)に当たって、船体に傷や剥がれが生じている可能性がある。

現在まで、幸いな事にそう言ったものは無かった。


「では、宇宙塵(スペースデブリ)の監視を!」

「いや、宇宙塵(スペースデブリ)の回収を!」

と、「ユーコピー、アイコピー」で有名になったデブリ回収をテーマにしたアニメを実現させそうなノリになっている。


「こちら『つくば』、その計画はもっと先だから、今先走って怪我しないように!」

「こちら『こうのとり』、アイコピー!

 いつか行う日用に、体に馴染ませておきます」

「…………こちら『つくば』、ほどほどにな」


そんなこんなで、「そろそろ酸素ボンベ使い終わるから、訓練中止!」と言おうか、地上側が考え出した打ち上げから8日目、朗報が入る。


「こちら『つくば』、良い情報だ。

 『プログレス』打ち上げは明後日で大丈夫だそうだ。

 あちらさんも急ピッチで調整してくれた」

「こちら『こうのとり』、それは良かった。

 それで、今後のスケジュールは?」


打ち上げから10日目、プログレス輸送機が打ち上げられる

軌道修正を繰り返し、

打ち上げから12日目に「こうのとり改」の軌道到達、

13日目に把持(キャプチャ)して燃料補給ミッション、

終了は14日目。

「こうのとり改」は使いながら燃料を補給する仕様にはなっていない為、13日目から14日目にかけてはシステムをシャットダウンさせる。

その間、飛行士2人は「のすり」と「ジェミニ改」で生活する。

14日目に異常が確認されなかったら、システム再起動し、プログレス輸送機から別な物資を船外に運び込む。

16日目にプログレス輸送機のハッチを閉め、アームを外してドッキング解除。

17日目には休眠(スリープ)状態にして「こうのとり改」閉鎖。

そして18日目に地球帰還となる。


約10日日程が延びた事になる。


「よく10日で済みましたね?」

「金を多く払っていたお陰だよ」

「?? どういう事ですか?」


プログレス輸送機1機に対し、「こうのとり改」のロボットアームが把持キャプチャする取手を取り付けるのだが、日本は予備費も出して3機程同様の改造機を造らせた。

不調を来したのが、この把持(キャプチャ)部分だったのだが、急いで宇宙船を下ろし、予備機とパーツを取り換え、輸送物資の詰め替えを行ったのだ。

「今回ばかりは、高い金出しておいて良かったと思ったよ」


外国と組むとこういう事が起こる、とJAXAメンバーの良い教訓となったようだった。

そして今度こそプログレス輸送機は、予定の日に打ち上げられた。

……気象コンディションの為、5時間遅れとはなったが。

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