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ロシアからの提案

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

アメリカと並ぶ宇宙大国ロシア。

アメリカと並ぶ口挟みの国ロシア。

宇宙ステーションの事でロシアが色々口を挟んだ事で、中型ステーション化、イコールISSのバックアップ機能を持った宇宙船の開発が面倒臭くなった。

その時の事を、やられた日本は覚えているが、やったロシアは全く気にしていない。

むしろ「当然の事を言っただけだから、文句がある方がおかしい」と思っている節がある。

そんなロシアから提案があった。


「『ジェミニ改』とソユーズの共同飛行ミッション」

左様(ダー)、昔はアポロ・ソユーズ計画が有りましたが、あれのロシア・日本版です」

「目的は?」

「仕様の異なる二国の技術的すり合わせと、現在遅延している宇宙ステーション開発計画の為の情報収集です」

(いや、技術的なのは分かるのだが、その後ろにいる怖い人の意向だよ)

とは秋山も口に出せないので、やんわりと

「大統領閣下はどの程度関係しているのでしょう?」

と聞いてみた。


「ああ、政治的な思惑ですか。

 えーと、アメリカと今喧嘩してるんで、宇宙取っ掛かりに関係改善の糸口探せ、だそうです。

 多分それは無理ですから、話は聞くだけ聞いて、技術部門で仲良くやりましょうよ」


(いーや、聞き逃せないね!)

思いっきり頭の痛くなった秋山は、技術的な話は前向きに検討するとして、思惑については総理に相談する事にした。

あの怖い大統領、最近は影響力も弱まっているが、あの人が失敗する事言って来るとは思えない。



・・・・・・・


「……というわけで、総理のお考えを聞きたいと思いました」

秋山は総理秘書官に話すと、そのまま総理の夕食の店に通された。

総理は予定があって会食しているが、その後15分直接会って話すという。

その15分の為に、高級な食事処に招かれたのは役得、と最近はやっと余裕を持てるようになった。


「はいはい、お待たせしました」

総理が入って来て、こちらの話を聞く前に秘書からあらましを聞く。

「成る程ね。

 で、何が聞きたいの?」

「ロシア大統領の思惑ですが、どの程度重くのしかかって来るでしょう?

 軌道変更やらドッキングポートの件で、ロシアとの交渉は懲りてます。

 この上、自分では処理し切れない案件がぶら下がって来たら、たまりません。

 あの大統領、キレ者ですから、やれない事は言って来ないでしょ?」

「秋山君の言ってる事は正しい。

 あの人はやれない事は言って来ない。

 でも、今回は大丈夫ですよ」

「どうしてでしょう?」

「技術の人間がバタバタ動いている間に、もう上の方で話はついたようですよ。

 今バチバチやってるのは、アメリカ大統領の好きなプロレスです。

 もう終わってますから、問題ありません」

「そうなんですか。

 ではこの案件は……」

「70機も発注した宇宙船の使用法として、実に都合が良いですね。

 成功させて下さい」

「はあ……」

「多分、明日にはもっと大量に『こう決まりました』ってのが来ると思います」

「なんでそう思うのですか?」

「電話が来ましたからね」


……本当に上の方で話がついていたようだった。



総理が言ったように、ロシアから大量に「仕様確認」という名前の「確定事項」が届けられる。

「中間生活モジュール『のすり』のドッキングポートをロシア式にする。

 これは日本から打ち上げる。

 『ジェミニ改』は……アメリカから打ち上げる?

 そして軌道はロシアのに合わせる?

 つまり、日本から打ち上げたドッキングポート兼居住区と、アメリカから打ち上げた日本の有人船と、バイコヌールから打ち上げたソユーズと、軌道上でランデブー→ドッキングさせる訳か!

 面倒な事になった」

「『ジェミニ改』は技術を習得する機体と聞きマシタ。

 これくらいの事はやれないとダメじゃありまセンカ?」

言ってる事は分かる。

だが、一方的に決めておいて「やれて当然」とか言われると、腹立たしい。


「飛行は2週間を予定。

 日本人飛行士は、1人はロシアから打ち上げる???

 あとロシア人飛行士の1人を日本側の機体で打ち上げる???

 つまり、軌道上で交換するって事か。

 あとは……

 ドッキング成功を祝うウォッカ……」

「極めて大事ネ!」

「……アルコール、宇宙に持って行って良かったか?」

「今回アメリカ人居ないし、細かい事言うな」

「日本人用の酒もソユーズで運ぶから、日本側は食事を用意されたし」

「最近、色々やってる聞きマシタ。

 当然、ロシア料理もあると信じてマス!

 宇宙で美味しく食べましょう!

 アメリカ人みたいな味覚音痴じゃない日本人との飛行、楽しみデス!」


そして気になったのは……

「折りたたみ式、宇宙用ミストサウナの実験」

「日本はバスユニットの開発に成功したと聞きマシタ」

「いや、まだまだこれからですよ」

「ロシーーアも負けていられません!!」

「…………」

「ストーブを持ってはいけませんが、ミストサウナなら大丈夫でしょう!」

「おそらくは」

「頑張って、宇宙でも快適な生活を作りましょう!!」


何となくロシアは、日本をダシに、なし崩し的に色んなものを宇宙に持ち込もうとしている気がする。

ロシアにとって、戦後のロケット開発の先駆者ドイツ、冷戦中のライバルアメリカ、ともに面白みの無い真面目な相手であった。

ここに来て、日本やフランスが、真面目にどうでも良い事をやっているので、元々快楽主義というか怠惰な生活大好きなロシア人が乗り気になったのも、ある意味仕方ないかもしれない。


「では、宇宙で一杯、()りましょう、ダバーイ!!」

(それが一番の目的だな……)

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― 新着の感想 ―
[一言] 冷戦時のロシアの宇宙開発って、アメリカと比べて自動制御に注力してた点とかもそうですが、そこまで高度に専門化した人材でなくても動かせるようにって配慮がされていて『荒廃した地球から宇宙への脱出』…
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