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フランスからの提案

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

ミュラ氏がフランス提案で面白い計画を持って来た。

現在の「こうのとり改」1号機とは別に1機用意して欲しいそうで、それは大統領から総理へのリクエストにするから、予算的な問題、スケジュール的な問題は何とかなるとの事だ。

フランスも今回はちゃんと金を出す。


それ程までにフランスが力を入れる案件、それは「スペースファーム」計画。


日本がアメリカはやらない

・宇宙で養魚、養鶏、農業:生産

・醸造、発酵、搾油:一次加工

・製粉→グルテン化、出汁(フォン)取り、脱脂:素材作り

・鉄板加熱、ニンニク等の刺激臭の料理、高温使用:料理の制約緩和

に挑戦しようとしている為、

「威信にかけて、フランスも参加する!」

となったようだ。


気合いの入れ具合の凄さは

「ミシュラン3つ星シェフを口説いて、既に宇宙飛行士としての訓練を始めている」

という言葉に現れている。


フランスの計画は

・「こうのとり改」2号機とフランス打ち上げの農場モジュールで長期滞在

・農業モジュールで様々な作物を栽培、または飼育

・宇宙食ではなく、材料・素材の調理で生活

・廃棄物や排泄物は農場モジュールで循環再利用

というもので、3ヶ月以上半年未満の「極力少ない補給」で、どれだけ快適な環境を作れるかを実験するものだ。

極力少ない補給というのは、流石に酸素や二酸化炭素処理、燃料等は日本の機体でもフランスの機体でも「半年賄える量を一気には運べない」からだ。

この燃料の補給はヨーロッパ宇宙機関のATVを改良して行う。

また、人の輸送はソユーズをチャーターするか、ATV改有人型を開発してフランスはフランスで行う。


大統領から総理へ依頼を出す前に、実務方で仕様を固めておく必要はある。

首脳同士のやり取りなんて、実務方の協議が終わった後のセレモニーに過ぎないのだから。


秋山はミュラ氏に連れられて、トゥールーズのフランス宇宙機構(CNES)研究部門に出向く。

そして日本の宇宙調理機材について質問を受けるのだが、

(この部屋にいる3割は、技術者じゃなくて、料理人じゃねえか?)

明らかに質問が専門的過ぎて、秋山でも答えられない。


「ムッシュ・ミュラ、話が違うじゃないか!

 こっちも元メーカーの担当とか、開発主任呼ばないと分からないぞ。

 僕は漉し機がコーヒー以外の『フュメ・ド・ポワソン』に対応しているか?とか

 両面焼き鉄板でブレゼとポアレとロティを使い分けられるかとか、知らんぞ!」

「おおー、それは残念でした。

 連絡ミスでした、私は悪くない。

 では、そう言った人たちも呼びましょう」


トゥールーズでは料理用語が飛び交うようになった……。


農場モジュールはフランスで用意する。

ATVを6機、中央のコアモジュールに合体させたもので、

1.シャトー・アン・オービト:ワインや酒、ハムやチーズ等の保管モジュール

2.メル・ダン・ルシエル:海水と魚介専用のモジュール

3.フェルム・アクアティケ:水耕農場専用モジュール(レタスやキャベツ等)

4.フェルム・ドゥ・ソル:根菜類専用モジュール

5.プール・ボランテ:養鶏用モジュール

6.エスパス・キュイジーヌ:軌道上キッチン

だそうだ。

コアモジュールはレストランとは言わないが、そこそこのビストロ風の内装にするとか。


「無重力だから、椅子とか意味無いですよ」

「ノンノンノン、あんなアメリカ風の白一色の殺風景な部屋に、バンドのついたプラスチックのトレイ、なんてのにはしないって事ですよ。

 椅子やテーブルは、使い捨てモジュールには勿体ない。

 カトラリーは一級品を持ち込みますが、終わったら持ち帰ります。

 あと、贋作(フェイク)ですが絵や壁画もペイントしたいと思ってます」

(そういう拘りは、流石フランス人としか言いようがない)


秋山は感心しつつも、同時に

(フランスもヨーロッパの協調路線とかで、好き勝手には出来ないんだろうなあ)

と感じ取れたとこもあった。


フランス1国だけなら、もっと色々出来ただろう。

アメリカと組めば、日本と同じように制約を食らう。

そこで欧州の域内で組んだが、そうなると「全体が利益を得る案件優先、趣味的なのはダメ」となる。

その辺融通の利くのはロシアだが、大金を払わねばならず、またバイコヌール宇宙基地まで輸送し、そこで審査を受ける。

そして先端科学に関する事は、一国独占でなく、国際協力という名目でISS行になる。

色々やりたい鬱屈が、似たような立場の日本を巻き込んで、宇宙で

「シタビラメのパイ包み焼き、ソースシャンペーニュを作る!」

なんて変な方向に出てしまったのだろう。


日本側は、生活空間の提供、アリバイとしての研究設備提供(流石に宇宙でフランス料理を!は予算が下りないようだ)、そして調理器具提供を求められた。


「カイジルシとか、欠かせません!」

(カイジルシって何? そんな器具有ったかい?)

(キッチン用具のメーカーです。

 世界的に評価が高いんです)

日本(うち)もこれからは、包丁とかまな板とか鍋のメーカーも話に加えないとダメかい?)

(フランスとこの分野で話すとなれば、検討課題です。

 フランスは本職を出して来ましたので、我々みたいな研究員では話についていけません)


かくして、ミシュランで世界一星を取っている国と、ミシュランの本国は、星の世界でどう美味い飯を食うか本気(マジ)本気(ガチ)で検討する事となった。



そしてアメリカ曰く:

「使い捨ての計画なら合衆国(うち)は何も言わないけど、

 コーヒーについての報告(レポート)はきちんと送るように!!!!」

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