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やってられるか!(サイズ的に)

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

ついに遠心分離機チームがキレた。

「こんなの全部は無理だ!」

現在、宇宙に持っていく機械は、ラックと呼ばれる定型サイズの枠に嵌め込めるサイズに納めなければならない。

そのラックに入れるパネルを開け閉めして、中で実験を行う。

この奥行き50センチ程の箱の中に、炒飯マシンだ、餃子マシンだ、コーヒードリップだ、豆腐作成機だと入れてられん!!


「すみません、我々が悪乗りし過ぎました」

各言い出しっぺが謝罪する。

だが、遠心分離機チームは収まらない。

「そんな事を言いたいんじゃない!

 君らの要望は、こんな箱じゃ無理だ、と言ってるのだ。

 根本的な見直しを要求したいのだが、秋山さん、いいですかね?」

「根本的な見直し?

 ラックのサイズを変えろって言うのか?」

それはアメリカが可としないだろう。


「違います、この企画書を読んで下さい!」

 遠心分離機チームがいつの間にか書いた資料を全員に渡す。


「こ……これは!?」

「なんという、なんという事を考え付いたんだ?」

「いや、これは驚いた……」


遠心分離機チームが出して来た構想、それは

・直径4.4メートルのモジュールの外壁をいっぱいまで使った全周型遠心分離機

・アームを展開し、直径4メートル+拡張8メートルの20メートル級遠心分離機

それを有した「遠心分離専用機」であった。


この遠心分離機を専用で使うモジュールだが、内壁をいっぱいまで使用するものは、まあ理解出来た。

アーム展開型は、簡易エアロックを使い、アームを畳んでいる時は箱はエアロックを通じて船内に収納され、そこに実験材料を入れ、回転させる際はエアロックを閉じて箱をアームが開くのに伴い円周の外側に運び、そしてリニアモーターを使ってモジュールの外壁で回転させる。

その他にも大小の遠心分離機がラック内や倉庫に搭載された、まさに専用機。


「これ、意外に面白そうです。

 やってみませんかね?」

賛意を示したのは、「星空温泉郷」開発チームであった。

こいつらも遠心分離式の人工重力浴場を欲していたな。

そりゃ気になる筈だ。


「こんな遠心分離だけで使用するのは贅沢です」

文句を言ったのはフランスから派遣されたミュラ氏である。

「ワイナリーやオリーブ用の農場ユニットも欲しいとこです。

 しかし、無理ならこの遠心分離ユニットに間借りで置かせて下さい。

 どうせ搾油や濾過に使用するのですから、同じ部屋にあった方が良いです!」

要求押し通して来たな。


そしてJAXAコーヒー党。

「ISSの『きぼう』みたいに外部倉庫接続できませんか?

 そこにコーヒー豆保存しておきたい」


最初は遠心分離機チームのキレ気味な様子に押されていたメンバーだったが、次第にバックアップし始めた。

自分たちのやりたい事にとっても都合が良いからだ。

何だかんだで無重力は人間の生活様式に制約をかける。

折角宇宙に行く癖に、快適な生活や美味しい食事をするのは重力が必要なのだ。

(こうなると、結局「有人宇宙飛行って必要なのか?」という議論に行き着くんだよな)

秋山はそう思う。


遠心分離機専用モジュールの賛意は多かったが、秋山は保留(ペンディング)とした。

「それを搭載する中型ステーションのコアモジュールがまだ完成してないから」

「分かりました!

 アメリカに早く打ち上げるよう、要求を出しましょう!」

「総理案件って言ってましたし、総理を動かしましょう!」

「いや、いや、待て、待て。

 それは私の仕事になるじゃないか!

 あっちにはあっちのスケジュールがあるし、変にせっつけない。

 将来の事は分かったから、今は出来る範囲の事に話を絞ろう」

「秋山さん、アメリカから連絡です」

「今?」

「ええ、この会議の様子をチャットで送ってましたので」

「何してくれてるんだよ……」

「いや、コーヒー党チームは連絡を密にしてくれって要望があったので。

 それで向こうからの要望です。

 『コーヒーについて、遅延無きように』

 以上です」

「アメリカが遅れてるから困ってるのに、こっちには遅延を許さんとか、どういうつもりだ!!」

「秋山さん、落ち着いて下さい。

 コーヒー、ぬるめで一杯頼む」

「いや、コーヒー飲ませて懐柔しようったって無駄だぞ。

 私の正体はココア派だ」

「第三勢力!!」

「……それはいいとして。

 頭も冷えたし、遠心分離機チームはアメリカにドリップ機を送るのだけやっておいて下さい。

 次回の飛行は燃料補給だけになりますので、今すぐに遠心分離機を使う実験はありません」

「あれはまだ未完成品です。

 砂糖とミルクの追加、飲み方の問題が解決していません」

「アメリカ人は甘党ですから、最初から砂糖とミルクを入れた器にコーヒーを淹れて下さい。

 あと、連中猫舌ですし、ISSでは熱湯使わないのでストローで飲めます。

 あの未完成部分は、我々の贅沢でしかないです!」

「分かりました。

 あとは、砂糖とミルク無しのアメリカン用も用意して送ります」

「頼みます」




このようにペンディングとした「遠心分離機専用モジュール」だが、意外にアメリカが食いついた。

「我々の方でも数年後に使用を考えているから、日本も研究を進めておいて下さい」

「それはいいのですが、コアモジュールはいつ打ち上げられるのですか?」

「再来年以降です」

「早くして下さい!

 あれ待ちなんですから」

「まあ、待って下さい。

 こちらでも調整していますので」


日本もアメリカも、やりたい事は多いが制約が多くて先に進めないようだった。

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