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オリーブオイルと葡萄酒と

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

以前にも書いた話だが、宇宙での長期滞在において、農園というのは必要となる。

半年くらいまでなら持ち込んだ食糧でも良い。

地球から月くらいなら、補給機を飛ばして生鮮食料品を届ける手もある。

だが、もし火星以上を有人探査するとなったら、保存食だけでは厳しい。

酸素供給・二酸化炭素吸着の機能も兼ねて、水耕栽培等が望ましい。


以前「完全に孤立した環境で地球環境を再現し、数年間閉じこもって自給自足を実験しよう」という計画があった。

この計画は、計算外の二酸化炭素濃度上昇が起きて中止された。

土壌細菌の呼吸というのを計算に入れていなかったのだ。

土は呼吸する、細菌は繁殖する。

その為、宇宙では水耕でいくのが得策である。


日本でも水耕栽培は研究されている。

キャベツ、レタス等が栽培出来る。


そんな美味しい野菜を食べる調味料が欲しい。


塩は、湿気さえなければ万年単位で保存が利く。

それに人間が出す水分中に随分溶けているから、水の再利用の過程で塩分も再利用できる。

「となると、油が欲しい」


日本では主流の菜種油だが、かつてアメリカでは禁止されていた。

不飽和脂肪酸が含まれるからだ。

古くから使われていたのはゴマ油だが、これは圧搾して絞り出す。

そこで

「遠心分離機で採油するオリーブオイルが良いかも」

と遠心分離部門、否、いまは「人工重力調理器部門」にリクエストがあった。


「そりゃ今既に使ってるし、購入して宇宙で使用可能なように改造すれば、すぐにでも用意できますよ」


それ自体はあっさりと決まった。

では、オリーブは栽培出来ないだろうか?


「フランス人の私の出番ですね!

 オリーブオイルはキリスト教徒には欠かせないものでーす!」

ミュラ氏、ここのとこ生き生きしている。

加湿で腐りやすいようで、普通の水耕栽培では育たない。

また種から育てるのも難しい。

「無菌のバーミキュライトに挿し木をし、水分はやり過ぎないようにします」

との事だった。

他に品種とか油含有量とか色々説明してくる。

ただ、問題なのは世話が必要だと言うことだ。

受粉しにくい。

実をつけ過ぎると、間引きにあたる摘果しておかないと、翌年は全く実をつけなかったりする。

油を採るには大量に植える必要がある。


「ムッシュ・ミュラ、もし我が国で宇宙栽培実験するとして、

 適した人材をピックアップ出来るかい?

 ESAも巻き込んで」

「もちろん!!」

……フランス人の自信満々は時に裏切られるから、程々に信用するとして、すぐのオリーブ栽培計画は無し、やる時は欧州との共同実験とする事にした。

「本国に報告出来る事が出来て嬉しいわ~」

とミュラ氏も喜んでいる。


そして

「遠心分離機はヴァンでも使います!」

ヴァン?? ああ、ワインね。

ミュラ氏、ノリノリ。

「日本の宇宙農耕計画は非情に素晴らしい!

 オリーブは残念ながらイタリアかエスパーニャの田舎者に任せた方が良いです。

 しかしヴァンなら我がフランスは、素晴らしい戦力を提供できます」

だが、葡萄もまた水耕栽培はあまり良くないようだ。

「ヴァン用の葡萄は、あまり水分多過ぎると水っぽくなります。

 適度に水を少なくし、糖度を上げて、その糖でアルコール発酵させます!」


秋山は根本的な疑問をぶつけてみた。

「宇宙はアルコール禁止だったよね」


しかし理屈並べるのは上手いフランス人、そこは譲らない。

「飲みません。

 しかし、料理には使います!」

「長期計画の中には、火星着陸してのミッションもあります。

 そこで一杯のアルコールはあって然るべきです」

「将来宇宙で栽培出来るかどうかは、重要な課題なのです」

「ロシア人、既に隠れてアルコール持ち込んでます。

 今更小さな事にこだわらない」


様々言って来たので、あくまでも

「飲むのは帰って来てから」

という事でスペースワイナリーも計画の内に入った。


そして和食スキーも負けてはいない。

「大豆!!」

「それだけで分かる私も私ですが、はっきり言いましょう。

 要は樽を遠心分離機にかけて、上澄みの液体と下の味噌に分離。

 上澄みの液体から疑似醤油を作りたいのですね」

「流石は秋山さん!」

「でも大豆は根粒菌が必要だから、土壌栽培必須ですし、連作障害も出ますよね。

 宇宙での栽培には向いていない作物だと思いますよ」

(え? なんで秋山さん、知ってるんだ?)

秋山は度々出て来る「納豆を宇宙で食べたい」という計画に際して、大豆について調べていたのだった。

ここの連中は、宇宙で納豆作成まで言い出しかねないとこがあったので。


「いや、栽培までは言いません。

 発酵ももし問題があるなら、無理にとは言いません。

 しかし!

 豆腐と豆乳とおから作成はさせて下さい!」


大豆を宇宙に持っていく。

必要な時に水に漬けて、そして擂り潰す。

そうして出た豆乳をそのまま飲む場合もあるし、苦汁(にがり)を入れる場合もある。

苦汁(にがり)を入れたら、遠心分離機に入れてぶん回す。

そうすると豆腐が出来る。

豆乳作った搾りかすは、「おから」として食べる。

余り無駄が無い。


「よし、計画書には入れておこう。

 ちゃんと書類書きなさいね」

「わっかりました~!

 あーあ、書類業務だ、大変だな~♪」

……随分楽しそうだな。



そして遠心分離機部門は、そろそろパンクしそうになって来た。

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