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焼き餃子のガイドライン

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

ここしばらく、通称「遠心分離機」部門が忙しい。

調理器具開発で……。

宇宙ステーションに持ち込めるサイズで、1Gの重力に相当する遠心力を作るのは容易い。

しかし、毎分50回転の中に手を突っ込んで調理するのは、人間の方が無理である。

チャーハンは簡単だった。

加熱する鉄板を回転させ、そこに既に具材を混ぜた米を置き、定期的にスキージャンプ状の出っ張りに当てれば自動で空に浮き、中央から吹き付ける高熱の送風で香ばしく炙られる。

オルゴール状に、横にもくっつかないよう、飛ばすタイミングを少しずつずらしてある。

逆にパラパラご飯になり過ぎたとすら言われてしまった。


「分離機を使っているのに、パラパラにさせず、くっつけろとはどういう侮辱だ?」

と言うが、

「そもそも使い方が間違ってます」

とノリについて来てないメーカー担当者が嘆く。




日本版中華料理シリーズ、チャーハンの次は餃子が「遠心分離機流用人工重力調理器」の前に立ちはだかる。

遠心分離機を流用して1Gを出す鉄板に、餃子を並べ、焼いて、ひっくり返して仕上げて提供する。

米粒ではなく、あの大きさを自動でひっくり返す。

毎分50回転という装置の中で。


「水餃子じゃダメなのか?」

「それも良いが物足りない」

「蒸し餃子じゃダメなのかい?」

「それも良いが物足りない」

「大体、無重力じゃ醤油・酢・ラー油のミックスは出来んだろ?」

「最初から混ぜ合わせた『ギョーザのタレ』を使う」

「最初から焼いた餃子を持っていって、レンジで温め直したらどうだ?」

「何の為の人工重力調理器部門だ?

 そんな事言ったら、衛生と栄養と無重力対策をしたコンビニ弁当で十分ってなるだろう?

 少しでも作りたてのものを宇宙飛行士に食べさせたいのだ!!」

「いや、それはちょっと違う」


秋山がおかしな方向に突っ走りがちな議論を修正した。


そもそも短期間の滞在であれば、コンビニ弁当と冷凍食品で十分なのだ。

味に文句言うな、日本のレトルトや市販弁当は世界レベルで十分美味い、これ以上贅沢言うな!

二週間程度なら我慢しろ、となる。

もっと長く、数ヶ月でも潜水艦乗組員のように、持ち込んだ食材でどうにか食っていく方法はある。

では、年単位でなら?

例えば火星へ行くとして(そんな予定は無いが)、1年半の飛行計画が考えられている。

到着したその日が帰還への最適日ではない。

火星は2年2ヶ月周期で地球に最接近する。

そのタイミングが往復に最適なタイミングあり、火星到着時から少し待たないと地球への最短コースでの帰還は難しい。

4年くらいの航海日程と考える。

4年分の食糧を持っていくくらいなら、種や球根から育てた方が良い。

魚や鶏の卵を採取した方が良い。

既に調理済みの物より、粉状態の方が長持ちする。

そうなると、素材から料理する仕組みを作る必要がある。

水や、人間その他の排泄物から肥料は作れる。

残飯から魚の餌や鶏の餌も得られる。

そうして循環型の、農業、養魚、ブロイラーが出来れば長期飛行も可能になる。

その後の為の料理器具開発なのだ!


「分かりました、秋山さん、目的を見失っていました!」

「長期飛行の楽しみというのを考えに入れていませんでした。

 頑張ってみます!」

(そう言って、間違った方に頑張らねば良いが……)




現在、農業、漁業、鶏卵部門はアメリカが露骨に待ったをかけている。

細菌の塊だからだ。

いざという時にISSのバックアップに日本の宇宙ステーションを使用したい。

それなのに、その宇宙ステーションが土壌菌、植物プランクトン、そして彼等が生卵において最も恐れるサルモネラ菌に汚染されていたらたまらない。

だから宇宙ステーション内で、完全密閉して育てる、観察する、標本にするのは良いが、収穫して食べてみようというのは禁止されている。

許可出来るのは水耕作物くらいである。

日本の実験部門でも、水耕作物の実験の候補を挙げているが、まだ審査の途中である。


そんなだから、調理器具開発という斜め上に開発部門が突っ走ってしまっている。

本命は循環型食物供給システムなのだ。


(アメリカもいい加減諦めればいいのに)

と秋山も思わなくは無い。

自分とこでバックアップステーション打ち上げれば用は足りるのに。


中国はどんな実験してるのだろう?

世界で食にこだわる国として、日本の他、フランス、イタリア、そして中国がある。

奴らはアメリカの束縛が無いから、食に関する実験も地道にやっているんだろうな、と思う。

中国の宇宙開発部門は、元々第二砲兵、核ミサイル部門からの派生なので、相当に優秀である。

そして宇宙部門の幹部もきちんと工学を修めているので、意外に手堅い。

その手堅さと、制約の無さが怖くもある。




しばらくして、宇宙餃子機が出来た。

「遠心分離機使うって事が間違ってました」

小麦粉と水を噴射し、自動撹拌し、餃子の皮を作成する機械。

挽肉・白菜他、好みの具材を自動撹拌し、適量を餃子の皮に置く機械。

その餡を皮で包んで鍋に入れる機械。

そして無重力、精密機械の中でも大丈夫、両面から挟み込んで密閉空間の中で焼き上げるプレス鉄板。


「以上を連携し、オートメーションで餃子を焼き上げます!

 今はまだ個々の機械が大きく、生産ラインのような形状になっていますが、

 小型化して船内に持ち込めるサイズにしてみせます!!」

「餃子の量販店、チェーン店でフランチャイズ用の生餃子を作る工場にも聞いて、

 改良出来る部分は取り入れたいと思います」

「むしろタイアップ取って、専門家を招きたいとも思っています」


思った以上に本格的に動き出してしまい、それはそれで頭の痛い秋山であった。

おまけ

——————————


三連休で終わるSF短編書いたので、良ければこちらもお願いします。

https://ncode.syosetu.com/n1624fz/

18時に5話、22時に最終話アップします。

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― 新着の感想 ―
[一言] これ実用化されたら移動販売車で焼きたてのオリジナルやらご当地餃子売れるよな…
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