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ON AIR

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

橋田飛行士は船外服を着てエアロックを出る。

既にロボットアームが最大伸張で待っていた。

そこにハーネスのフックを取り付けると、その旨を与圧室の山口飛行士に伝える。

山口飛行士はロボットアームを操作し、橋田飛行士を「こうのとり改」から5メートル程離れた宇宙空間に運ぶ。

(ああ、いい光景だなあ)

と思う心と

(なるほど、こうして足場も覚束ない場所に孤立すると、自覚しない高所恐怖症が出る人がいるのも分かるな)

と思う心があった。

(一瞬、フックも手も足も外して、船と並行飛行してみようかな)

等と誘惑に駆られるが、一応宇宙銃(推進剤を噴射して移動する道具)こそあるが、それ以外は移動手段が無い以上、危険だから可能でもやってはならない。


「ではリハーサルをしますね」

つくばから「こうのとり改」経由で指示が入る。

台本通りにやってみる。

どうも早く終わったようで、

「ちょっと早口になってますよ。

 本番は気をつけて下さい」

と注意が入った。

(無理も無い。

 興奮しているし、緊張もしている)

アームの先という、重力下ではかなり不安定に見える場所に孤立しながら、橋田はそう思った。


しかし、感慨に耽っている時間は無い。

動画配信用の映像撮影が4本ある。

・自分と地球を同時に撮影し、拡大映像を見せる動画。

・アーム上での立ち方を変えて、地球が頭上、真横、足元にある動画。

・メーカーに頼まれている市販カメラ何種類かを船外で使ってみる動画。

・某国に頼まれて持って来た小型衛星を手から放出する動画。

10分くらい撮影するが、編集してアップロードする時は2~3分にするそうだ。

「僅か2分の動画の為に、2時間撮影し、2日編集するのも厭わない!」

と職員の一人が張り切っている。

まあ実際、カメラは紐で鞄から投げ出されないよう結ばれているし、宇宙服の手袋で握れるグリップが付けられているので、取り出したり、セッティングしたりする時にもたつくだろう。

(各社で似ているのは、スイッチとシャッターくらいなもので、設定は各社で違う。

 タッチパネル式は宇宙服の都合上持って来なかったが、それでも手袋しての搾りとか難しい)


JAXA用の動画を取り終わったら、待機。

国営放送を最初に、東京キー局、あとは地方局に配信する通信社と順に報道する。

東京キー局の中で、天変地異でもアニメを放送する局だけが今回の放送に申し込んでいない。


日本と電波を直接送受信できる位置に来たので、放送開始。

オン・エアだ。


(ON AIRって、確かに大気(エア)(オン)からの放送だな)

とふと面白くなり、以降緊張が抜けて、アームの上の「見る人によっては恐怖」な位置で放送を始めた。


国営放送は非常に真面目にインタビューをして来る。

民放大手の視聴率の高い局は、アナウンサーが質問して来る。

報道に自信があるという局は、評論家や学者を招いていたようで、その人たちが質問して来る。

某局はお笑い芸人が質問して来る、


「そこで気分はどうですか?」

「怖くないですか?」

「日本は見えますか?」

「この宇宙遊泳をする事の意味って何なんですか?」


とほぼ同じ内容の質問を……。


そして予定の時間が過ぎ、テレビ中継は終了。

眩しく点けられていたアーム上のライトが消され、ヘッドセットに

「お疲れ様でした。

 でも、帰るまでが遠足ですから、エアロックの蓋を閉めて、与圧室に入るまで気を抜かないで下さいね」

と山口飛行士が話しかけて来た。


アームを操作し、「のすり」のエアロック付近まで橋田飛行士を運ぶ。

船体側にハーネスのフックをかけ、アーム側のフックを外す。

「外しました」

その声でロボットアームは戻っていき、短くしてから関節を折って収納状態になる。

先に荷物をエアロックの中に投入する。

余り強く投げると、跳ね返って宇宙に出て来てしまうから、そうならないよう、室内で漂うくらいの感じで入れておく。

そして本人もエアロックに入る。

命綱も船内に入れ、船内から船外に出ている物が無くなったところでハッチを閉める。


「はい、お疲れ様」

山口飛行士がスポーツドリンクを解凍して待っていた。

「風呂入っといで。

 汗流しましょう」

今回の風呂は普通にシャワーだけである。

サウナスーツは、今回希望を聞いたところ2人とも拒否した為、持って来なかった。

嫌がっての拒否ではなく、「やる事が多いから、じっくり湯に浸かってもいられない」という事での拒否だった。


風呂上がり、山口飛行士はノートPCを持ってやって来る。

「さっきの放送の感想が来てますよ」


橋田飛行士が見ると……


〇〇 - 25秒前  鼻息wwww

×× - 55秒前  鼻息凄かった!

△△ - 1分前   あんなとこいたら気絶する自信あり。それにしても鼻息(^^)

□□ - 1分前   科学的に立派な事言ってるんだけど、鼻息が気になって頭に入らなかった 汗)

◇◇ - 2分前   マイク近過ぎ、鼻息www

▽▽ - 2分前   駄目だ、鼻息が気になり過ぎた(^▽^;)

◎◎ - 2分前   興奮し杉ーーーーー、鼻息ーーーー!


・・・・・・・・


「そんなに鼻息凄かったんですか?」

「メット内でマイクズレませんでした?

 ヘッドセットのマイクの位置が鼻に近かったかもしれませんよ」


かくして「中年サラリーマン転職者の星」は、興味無かった若い人からも「鼻息おじさん」として有名になってしまった……。

ちなみに市販のカメラが宇宙で使えるかの実験は、既にISSでSONYのα7S IIで行われています。

リモートで、与圧室から操作したので、この話のように飛行士が船外活動時に持ち出したとかは無いですが。

1969年に月に行った時、飛行士が使っていたカメラはハッセルブラッドだそうです。

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