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はじめての船外活動

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

もしも宇宙船外で、はぐれてしまったらどうなるか?

酸素は2時間程度で尽きる。

船外活動ユニット(EMU)に推進剤が十分あり、宇宙船に追いつける速度を出して、酸素が尽きるまでに追いつけるなら帰還も出来る。

今回のミッションで、EMUは持っては来たが、基本は非常時用であるのと、最後の方に訓練で使うだけである。

つまり、今回「こうのとり改」や「のすり」からはぐれてしまったら、まず帰って来られない。

従って、宇宙船から離れないように「命綱」をつける。

命綱の他に、ハーネスを付けて、「こうのとり改」船外のタラップに引っ掛けて固定を行う。

非常時にはハーネスを服から外し、与圧室内にいるサポートクルーが命綱の巻き取りスイッチを入れて船外活動員を船内に収容する。

そこで、巻き取りスイッチは動作するか、ハーネスはきちんとつけられているか、命綱は劣化していないかをチェックする。



もしも宇宙で具合悪くなったらどうするか?

我慢しろ、少なくとも船内に収容されるまでは。

まあ、普通の疾病にはならないよう、兆候の無い飛行士を打ち上げ時に選ぶのだし、宇宙船は滅菌状態でここで病気になる事もまず考えられない。

今回橋田飛行士が選ばれたのがこれで、もう一組の候補コンビは、一人に風邪の兆候が見られた為に外された。

だが、宇宙でなる病気として宇宙酔いがある。

この時、出るものは出る。

ヘルメット内に戻した場合は、自己責任だ、見て気持ち悪い、嗅いで酸っぱいのくらいは我慢して、船内に戻って掃除する。

間違ってもヘルメットを脱いで、宇宙に捨てようとしてはならない。

死ぬ、確実に。

次に、膀胱が冷えたりして、下の方で我慢出来なくなった場合は?

集尿器を装着してあるから、そこに出せ。

大きい方は我慢しろ。

普通は船外活動前に余計な水分は飲まないし、食べないものだが、万が一は備えるものだ。

宇宙ステーション内は狭く、プライバシー等有って無いようなものだ。

大のオッサンが集尿器装着するを見るのは、慣れてないと何ともダメージを受けるので、目を背ける。

逆に装着する方も、そういう性癖持ちでなければ恥ずかしいので、見ないでいて貰う。

今回のミッションにあたって、カーテンという名の区画区切(パーティション)を用意し、狭い「こうのとり改」内を更に区切って貰った。

なお、布類は臭いを染み込ませる為、任務が終わったら地球に持ち帰る事になる。



船外活動とは一体何をするのだろうか?

破損した船外パーツや船の外壁の修理、船外に新たな機械の取り付け、逆に取り外しての回収、そして次回は与圧室外にある燃料や酸素タンクに輸送船から補充をする。

推進剤のヒドラジンと四酸化二窒素は毒物、呼吸用の液体酸素はマイナス200℃近い低温である。

日本は専用の輸送船を持っていない為、次はロシアにプログレス宇宙船を頼んで運んで貰う。


「このようにロシアの協力も頼んでいるから、宇宙ステーション事業で彼等に協力しなければならない」

というのは総理の詭弁で、実際にはロシアの我がままを散々認めた上で、こっちの要求も呑ませただけであった。

本格的な再加速(リブースト)等は、アメリカ製かロシア製のコアモジュールが打ち上げられてからになるが、暫定的な「こうのとり改」では無人ガソリンスタンドでするような作業を、船外活動で行う事になる。


そこで重要なのが「手」である。

モコモコして指先が器用に動かなければ、作業も順調には進まない。

そこで大事なのは、空気抜きである。

与圧室では普通でも、船外では風船のように膨れてしまう。

そこで余分な空気を抜くのだが、抜き過ぎるようでは危険だ。

そこからどんどん宇宙服内の空気が漏れ出てしまう。

逆に与圧室に入って手袋を外す時は、スイッチ一つで外気を取り込んで同じ気圧にしないといけない。

気圧差があると、手袋を外せない。

手袋がちゃんと期待する空気の抜き入れが出来るか、前もって確認しておく。



次回のミッションは、「こうのとり改」の延命措置である。

輸送船にプログレスをロシアから発注するのは既に述べた。

そのプログレスのドッキングするポートは無い。

仮にドッキングポートを「のすり」2号として運んだとしても、そこからパイプを引っ張って船外のタンクまで持っていくのは不合理だ。

故に、「こうのとり改」とプログレスは相対速度0でランデブーし、その状態で補給活動を行う。

これはEMUをつけての作業にならざるを得ない。

EMUをつけると、行動が結構制約を受ける。

そこで今回のミッションで、暴露部に簡易アームを取り付ける。

このアームに船外活動員を固定してランデブー中のプログレスの近くまで運ぶ他、先端をプログレスの船体と結合し、把持状態で相対位置を固定する。

この方が安全であるし、中からパイプを引き出したりする「反作用」を伴う作業で飛行士がはぐれてしまう危険性を除ける。

今回はその取り付け作業と、実践を見越しての運用試験を行う。


この増設アームは「こうのとり改」の基本機能ではない。

その為、内部のコンピュータに操作プログラムをインストールし、操作するプロポを認識させる。

一昔のように、配線しなくても良い為、船内がごちゃごちゃしなくて済むのだが

「本来は訓練用だから、便利過ぎると訓練にならない。

 どの回線が何を制御しているかを知る上でも、配線式で良いのでは?」

という意見もあったが、訓練プログラムに含まれていない番外作業まで無駄に難しくても無意味、延命措置さえ出来たら外して持って帰っても良い、という程度のものだったので、無線でコンピュータ制御する方式となった。


山口飛行士、橋田飛行士共に地上訓練で一番苦戦したのがここであった。

サーバへのインストール作業、普通にインターネットにあるプログラムをインストールするなら簡単だが、そうではなく、プログラムを保存した媒体を繋いでサーバにコピーし、内部で解凍・展開してからインストール、コンフィグレーションを行い、プログラムが認識された後に常駐で立ち上がるようにして、外部プロポと動きと同調(シンクロ)させる。

サーバ技術者でもPCジャンキーでも無い飛行士たちに、わざと容量上限近いサーバや、メモリ使い過ぎ状態のサーバ、ポート割り当てが埋まりまくっているサーバという面倒臭いものを用意し、訓練させた為に四苦八苦していた。

そんな意地悪を乗り越えたので、現在軌道上の「こうのとり改」はクラッキング及びウィルス感染でもしていない限り、ピュアな状態に近い為、すんなりインストールされる事であろう。



初めての船外活動をする為にエアロックに入る前に、まずこれだけ確認作業をする事になる。

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