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三連結成功

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

打ち上げから3日目、「のすり」1号機と「ジェミニ改」15号機の編制(ユニット)は、「こうのとり改」とのドッキングコースに入った。

日本初の、有人船を含む三連結ドッキングを行う。

「こちらジェミニ、これよりジェットストリーム・アタ……」

「こちらつくば、某アニメネタで3機同軸を表現するのはやめて下さい」

「すみません、ちょっとだけ浮かれてました」


ドッキングは、完全にコースに乗ってしまえば、あとは速度制御だけで済む。

山口飛行士も橋田飛行士も、重心の異なる宇宙船でも問題無く操縦出来たし、ドッキング移行軌道への変更も問題無くいった。

あとは、重さの全く異なる機体を、上手く相対速度ゼロにしてドッキング出来るか、である。

「のすり」のコンピュータには、「ジェミニ改」との合同重量込みでプログラミングされている。

重ければ重い程、速度を落とすのに噴射する推進剤は多くなる。

正しい姿勢制御用の推進剤使用量を算定してくれる事だろう。


「のすり」の主操縦席には山口飛行士が座る。

橋田飛行士は外を見ている。

よそ見をしているのではなく、正面窓から「こうのとり改」との接近具合を観測しているのだ。

今回のミッションには、ドッキング・離脱を何度も繰り返す事は予定に入っていない。

だから、ドッキング時の操縦を担当しない橋田飛行士にも、感覚でドッキングを覚えて貰う。

どうせ本番では計器しか見ないが、いざという時の為に感覚を養うのが「ジェミニ改」の存在意義の一つだ。


正面の「こうのとり改」が次第に大きくなり、ついに観測窓から全体が見えなくなるくらいになる。

ドッキングポートの外側には、メートル法で目盛りが書かれている。

どこの目盛りが、どれくらいの大きさに見えているかを目から叩き込む。

そして動きが無くなった。

フェザータッチで3機目と接触。

そしてドッキングポートのフックが引っかかり、結合成功した。

だが、ここから内外の気圧差や、1月半放置した宇宙ステーション内の空気成分確認の為に時間をかける。

打ち上げて2~3日しか経ってなく、しかも荷物も入れたばかりで封が開いていない「のすり」とドッキングした時は然程時間をかけずに内部に移動したが、既に2回4人の使用があり、水も食糧も内部で封が開けられ、それから一ヶ月以上放置された空間では、慎重の度合いが違う。

千に999問題無いとしても、手順は守る。


そして全てのデータが軌道上と地上の両方で問題無しを示し、「こうのとり改」内の室温も上がったところで中に移動する。

(思ったよりも狭かった)

それが橋田飛行士の感想である。

この「のすり」と大して変わらない。

それもその筈、「のすり」は「こうのとり改」というかHTV「こうのとり」の与圧室を改造して短期間に作ったものであり、3機とも宇宙服無しで過ごせる空間はほとんど同じなのだ。


「よし、荷物を移すぞ」

山口船長の合図で「のすり」に積まれている荷物塊(パック)を「こうのとり改」船内に移す。

逆に不要となった「こうのとり改」内の物を「ジェミニ改」に移す。

「のすり」はエアロックとして使う為、余計な荷物を置かないようにする。

2人で荷物の移動を終えると、「ジェミニ改」側のハッチを閉める。

普段は開けっ放しにしておく。

非常時にすぐに逃げられるようにしておくのと、空間を少しでも広く使う為だ。

ベッドが気に入らなければ「ジェミニ改」の座席(シート)に戻って寝るのも有りだ。

だが今回は、中間部をエアロックにする為、「ジェミニ改」の方の空気まで入れたり抜いたりすると無駄が多い。

半分で済ます為にも、今回は「ジェミニ改」側は閉じる。


続いて2人は、暴露部側にある小型のエアロックも確認する。

今まで使っていないから、13号と14号の乗組員は「異常なし」とだけ報告していたが、今回は使用も前提として試す。

本来はこちらのエアロックから船外に出る予定だったが、ギリギリの大きさしか無く、出入り荷物持ち出し持ち込みに不便なのだ。


元々の計画では、次回の16号が最後で、17~20号は余裕が有れば打ち上げであった。

その為、この「こうのとり改」も13号の後は4ヶ月空け、14号、15号、16号と1年半がかりで合計28日の使用をする、ゆったりした使用計画だった。

まさか70機も発注を出すとは思わなかった上に、もっと実験しろという上からのお達しで、タイトなスケジュールに変わった。

予定外の17、18、20号はアメリカから打ち上げるし、21号以降の使用についても検討しなければならない。

その為、本来の「こうのとり改」のエアロックを使った船外活動は、来年の予定だった。

小さいエアロックでも使える、柔らかく、体にフィットした、某アニメではノーマルなんちゃらと言っているような宇宙服を発注し、コンペをして、出来なかったらスケジュールも後に伸ばす、そんな予定だったのだ。

なのにスケジュールの大幅前倒しで、ノーマルなんちゃらよりも等身大のモビルなんちゃらと言える、小型宇宙船のようなごつい船外活動服を着ざるを得ない。

なにせ、日本の船外活動活動服はまだどこにも存在しないのだから。


このごつく、関節が比較的固い宇宙服で、本来のエアロックは使用出来ない事は無い。

まさにギリギリで使用出来る。

だから、今回接続した「のすり」の方のエアロックに異常が有った時は、「こうのとり改」側のエアロックを使用する。

この時になって「故障してます」ではまさに生命に関わる。

だから、今の内に動作確認をしておく必要がある。


どうやらキチンと動作する。

明日から船外活動の訓練が始まる。

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