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日本でも中継ぎモジュールの開発に

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

アメリカが「さっさとISSバックアップ機能を満たす為に、打ち上げはこちらでやりたい」と言っていたのに、結局打ち上げは最短で2年後と、何か意味不明になって来た。

日本だけの計画なら、半年後にはコアモジュールが打ち上げ可能になっていたのに。

まあ、金が絡む話だから、技官たちにはどうにもならない。


ただ、現在の「こうのとり改」1号機は、燃料と酸素補充しないと、あと16日の使用で御役御免となってしまう。

元々は1960年代の「ジェミニ」と「アジェナ標的機」のように、ドッキング毎に新規打ち上げを行う予定だったが、打ち上げ回数に制限がある日本では、他の打ち上げ計画が有るのに、宇宙ステーション用にだけ使用は出来ない。

そこで延命措置を図り、その為の中型ステーション化計画だったのに、アメリカの横やりで遅くなる。

現在考えられているのが、「こうのとり改専用拡張パッチ」という、なんかゲームの後出し追加機能のようなものである。

これは、


[ ステーション ]=〔 ジェミニ ]


と現在なっているものに対し、


[ ステーション ]==[ 拡張パッチ ]=〔 ジェミニ ]


と中間に一区画追加するものである。

誰かが

「交尾する時のトンボみたいっスね」

と言いやがった。

太陽電池パネルからも、そう見えてしまう。


「こうのとり改」は


[機械|暴露部|居住区]=


という内部構造になっているのだが、拡張パッチは


=[ 居  住  区 ]=


と同サイズ全てが与圧室として使用出来る。

居住区のサイズは3倍、電源も3倍になる。

後はドッキングの仕方だが、2回目以降は


[ ステーション ]==[ 拡張パッチ ]=


に「ジェミニ改」宇宙船をドッキングさせる方式となるが、最初は


=[ 拡張パッチ ]=〔 ジェミニ改 ]


と先にドッキングしてから「こうのとり改」にドッキングする事になる。

ドッキングポートが「こうのとり改」に1門しか無い為、無人で「拡張パッチ」をドッキングさせるのはリスクがあるし、一回「ジェミニ改」をドッキングさせて、人を「こうのとり改」に残してから「パッチ」を結合し、その後再度「ジェミニ改」をパッチの反対側にドッキングさせるのも、手順が多くて不採用となった。


それと別に液体輸送機が「こうのとり」をベースに打ち上げられる。

単に「こうのとり」のペイロードを液体酸素、燃料、飲料水といった液体対応にし、暴露部からホースを伸ばして「こうのとり改」用に再注入出来るようにしたものであるが。

元々「こうのとり改」は使い捨てを想定していたが、設計主任が

「もしかしたら再利用する可能性もあるから、タンク系は後から補充出来るようにしておこう」

と言ったのが功を奏している。

それでもこれは船外活動が必要なので、日本初の独自の船外活動を行う。

その為の船外活動訓練も、15号機、16号機の飛行計画に組み込む必要が出て来た。


この船外活動について、面白いアイディアが出される。

「拡張パッチ」にエアロックを搭載するのだが、その方式がユニークなのだ。

風船状の外部拡張室を展開する。

そこに宇宙服を着て進入する。

ハッチは閉めて、風船状拡張室で待機する。

そこの空気を抜いて、宇宙空間に慣らしてから船外活動開始とする。

終了後、風船状拡張室に入り、ジッパーを閉める。

そしてそこに空気を送り込み、気圧を船内と同じにしてから、飛行士は戻る。

用が済んだら、風船は仕舞う。


この方式は、軟式宇宙ステーション、現在は外部を金属で固めた硬式モジュールを地球から打ち上げて、結合して拡張する仕組みになっているが、風船状の軟式与圧室を宇宙船の内部から宇宙に拡げれば、楽して居住区の拡大が出来る。

無論、強度や安全性が劣る為、そのままずっとの使用は出来ない。

だが、軟式構造を外に展開した後、フレームを持ち込んで形を整え、外枠に太陽電池や放熱器を付ける、内側には照明と空気循環装置を付ければ、インスタントの居住区として有用であろう。

別にそこで何か実験をする必要は無い。

例えば火星に行く等の長期ミッション時に、バルーンによって居住区を拡げれば、それだけでストレスを軽減出来る。

しかも軽いから、燃料を余計に消耗する事は無い。


太陽活動が活発で、放射線が飛び交う空間では使いにくいし、地球の磁気圏を離れるとそうなる為、火星行云々はあくまでも可能性の話だ。

だが、最初の一歩が無いと始まらない。

まずは軟式与圧室という形で実証試験をする。


と決まると、面倒臭い筈の書類書きも浮き浮きしながら出来るのが人間の面白いところ。

もうアメリカが「仕様書出せ」「実験結果報告しろ」「こちらで使う上で問題無いか審査する」と言って来るのは分かったので、最初から提出前提で仕様をまとめ、設計図に落とし、実験項目や事故時のリカバリについて纏める。


「速い! いつもこんな調子なら自分も楽だが」

と秋山が驚いた、1週間での全資料提出であった。

「徹夜徹夜で大変でしたよ、アハハハハ」

と、徹夜でのハイテンションとは違うノリで愚痴ってくる。


NASAも興味を持ったようで、発注する企業を聞き、そこに職員を派遣するそうだ。


「この方式、上手くいけば月調査用の往復船にも使えますね」

部下の発言に、もっともだと頷く秋山。

軟式構造を上手く使えたら、使用燃料少なく他の天体まで移動出来る「居住区の大きな宇宙船」を作る事が可能となる。


まずは使用に耐えられるか、実験してみよう。

「こうのとり改用拡張パッチ」は「内部は軽量、サイズは大型」なものになりそうである。


……こいつの打ち上げも二ヶ月先になるが。

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― 新着の感想 ―
[一言] ボスホート2号式のエアロックですか。 確かに場所取らないし、軽いですよね。 軟式宇宙ステーションを売り物にしているベンチャー企業もあったと思いますし、応用が利くかも。
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