開発計画多数、実行は何時になるやら
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
「ジェミニ改」は日本側の呼び名である。
アメリカでは「ジェミニ2」と呼ぶ。
1960年代のジェミニ宇宙船を改造したのではなく、同じコンセプトながら別機体として製作した宇宙船だからだ。
日本では「ジェミニ改」を改造する今回の機体は「ジェミニ改改」となるが、それは語呂が悪い。
暫定的に「ジェミニ改ver.2」としている。
アメリカでは単純に「ジェミニ2.2」と呼ぶ。
そして2人乗りの通常版を「ジェミニ2.2-2」、3人乗り版を「ジェミニ2.2-3」、4人乗り版を「ジェミニ2.2-4」、更に無人機版を「ジェミニ2.2-n」と実に素っ気ない型番としている。
この改良型は、改めて審査に出して安全性を確認する。
その後、もしかしたら完成している27号機よりも先に打ち上げられ、軌道上でのテストに入るかもしれない。
この「ジェミニ改」なり「ジェミニ2」なりの改修計画とは別に、B社にプロジェクトが立ち上がる。
有翼機である。
「ジェミニ改」の時と違い、時間的余裕も有るし、仕様的な厳しさも無い。
無人機で良く、繰り返し使用は最大10回とし、打ち上げ貨物は2トン、持ち帰り貨物重量は1.6トン程度。
航空機製造メーカーのB社にとっては得意分野と言える。
「スペースシャトル型の背負式が良いかな?
現在はロケットの先端に載せる形式になりそうだが、デルタIV HeavyでもアレスVでもファルコンヘビーでも、大型のを選択すれば設計の自由度は増すぞ」
「いっそ、垂直発射型でなく、滑走離陸式も良いですね。
ジェットエンジンと併用で」
「おいおい、ジェットエンジンとはターボジェットの方かい?
それともスクラムジェットの方かい?
まさかパルスジェットとか言わないよね?」
「パルスジェットって、ドイツのV1じゃないですか。
あれって宇宙行けるんですか?」
「無理無理。
でも、無人機で滑走式ならね」
ジョークが飛び交っている。
小野は顔を出しながら
(国内のM重工とかI重工とかH自動車とかN自動車とか、「なんでそういう面白いのをうちにくれないんですか?」と言って来るだろうなぁ)
つくづく、経済上の事情で国内の宇宙産業に旨味が無い状態になってると思う。
B社以外にも、今回は発注がある。
宇宙ステーションのコアモジュールとドッキングベイモジュールである。
アメリカに任せた事で、直径4.2メートル、長さ8メートルという制限からは解放され、もっと大きなものを使う事が出来る。
しかし、それは「一から設計」を意味し、すぐには完成しないのだ。
逆に日本の方式だと、直径と奥行きが固定される一方、既に有るものを改造する為、半年有れば打ち上げまで持っていける。
居住空間だけで良いなら、2~3ヶ月で製作出来る。
「狭い」という根本欠陥は解決出来ないが、それが4つか5つドッキングで結合されたら、それなりのサイズになる。
また、狭いというのは、それだけ空気を少なく出来る事でもある。
ISSのように、サイズが大きい上に、最大12人が滞在とかだと、生命維持装置の機能も高くないとならない。
当初計画していた日本独自の方が既存の組み合わせで、手っ取り早い。
だが、宇宙ステーション作りたいのは日本人だけじゃなく、アメリカもあちこちメーカーが集まって、あーだこーだと楽しそうだ。
小野はこの場で初めてカナダ人と会う。
「カナダアームを担当します。
宜しくお願いします」
カナダアームとは、ISSにおいて宇宙輸送機「こうのとり」を把持し、ドッキングポートに運んだり、「こうのとり」の暴露部に積まれた荷物を必要箇所に運ぶ大型ロボットアームの事である。
小型のものは日本の実験棟「きぼう」にもあり、カナダはこのアーム提供により、「きぼう」の使用権の何割かを持っている。
ネット会議で良かったのだが、出張費貰って来たそうだ。
「はい、オーノさんに会う為です?」
(え? 俺?)
コミュ障気味の彼は、そう言われても億劫なのだが。
「ええ、今後も取引お願いしたい、と」
「いや、自分若造で、決定権無いです」
「知ってます、決定は首相がされるのでしょう?
貴方は首相に進言出来る立場ですよね」
(どういう風に伝わってるんだろ?)
なんか間違って偉い人にされてるようだが、またいずれお話ししましょう程度の挨拶だったので、この場は別れた。
コアモジュールの設計は、前方にドッキングポートを8個設置する。
最前に「ジェミニ改」のドッキング用を設置し、その横に十字型にモジュール増設用ポートを作る。
ここまでは日本で考えられていたものと一緒だ。
アメリカ機は、この5門の後ろにX型に3門のポートを用意する違いがある。
X型なら4門だが、1門に相当する部分にはカナダアームを最初から設置しておく為、予約済みだ。
スペースシャトルが退役している為、カナダアームだけを打ち上げるのも、それを軌道上で船外活動によって設置するのも「打ち上げ回数と任務の無駄」かつ「失敗の可能性がある」そうだ。
残る3門も、モジュール増設には利用しない。
1門は観望用出窓を取り付ける際に使用する。
1門は輸送機としての「こうのとり」や「シグナス」「ドラゴン」といった無人機ドッキング用に使い、残り1門は予備として空けておく。
後方にはロシア式ドッキングポートが有り、人間の移動、再加速、酸素・水・燃料の補充を行う。
故に後方には生命維持装置があり、ソユーズ、プログレス、ATVといったロシア式ドッキング装置を持った宇宙船から連結出来るようになっている。
(中々の企画だ。
だが……)
小野は一番の問題点を把握している。
「では、2年後の打ち上げを目標に、各自製作して下さい。
結合試験は1年後になりますから、個別チェックはそれ以前に最低3回は済ませておきましょう。
じゃあ、今日はこれからキックオフのパーティーをします」
……いずれ無駄になると分かってるが、今年と来年、予定が遅れたら再来年も日本独自の強化装置を当てなければならないだろう。




