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風呂上がり反省会

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

JAXAからNASAに無重力と「のぼせ」について問い合わせた。

「我々は命をかけてまで湯に浸かろうとした事は無い」

と皮肉を言われつつも、データが送られて来た。

NASAでは、船外活動中に宇宙服で熱が篭ってしまった場合を考慮して、無重力と熱中症に関するデータを持っていたのだった。


「やはり、循環が良くなり過ぎていると、熱は危険だな」

入浴民族には皮肉な事に、冷や水を浴びせられたような結果だった。

しかし、それでやめましょうとならないのが、古代ローマ人と並ぶ湯浴大好き民族。

「いやあ、モニタリングしてたのに、予防出来なかったのは反省ですね」

「ですね」

「医官には常時待機して貰うよう頼みましょう」

「異議無し!」

「その上で、どう解決していくか、ですが……」

「まだ宇宙で湯浴を続けるんですか!?」

「止めるという選択肢は有りませんよ!」


・・・・・・・・


「頭にいく血は冷やしましょう」

「だとしたら首だな」

「首から頭にかけて冷やすバンドか何か用意しましょう」

「温度も問題だね」

「頭に血が上ると、実際よりも熱く感じますね」

「多少水温を下げた方が良いのでは」

そして色々考えた上で

「NASAが規定しているシャワーの温度は、実は合理的だったのでは?」

と思い当たった。

アメリカ人はあまり湯を張る事に拘らないし、大体宇宙で浴槽なんて発想自体しない。

それなのに、温いくらいの湯で、しかもシャワーオンリーなのが、先に正解に辿り着いていたなら悔しい。


「でも、実際はシャワーすら浴びないからなあ」

「蒸しタオルで擦るだけでしょ?」

「石鹸は使うけどね」

「だから、ISSは結構臭いらしい」

「人間臭いとか。

 『きぼう』は綺麗に無臭だから、たまり場になるって言ってた。

「西洋人は体臭強いからね。

 連中は自分自身の臭いは気にならないとも聞いてるが……」

「他人の臭いは嫌なんだろ」

「ロシアモジュールはニンニク臭いとか」

「ニンニク?

 何食ってんだ?」

「ただの体臭。

 機械臭と合わさって、そうなるとか」

「ストーップ!!

 白人の体臭disっても問題解決にはならない!」


そして

・低温でも熱く感じる入浴剤

・頭部にいく血の冷却器

・熱中症を検知するヘッドギア

が開発される事になった。

民間企業とのタイアップが企画される。


さらに、熱中症対策も兼ねた飲料水。

「尾方飛行士の、スポーツドリンクを作ったのは良かった。

 ただ水を飲ませるだけだと、血液中の塩分不足とかで危険になる場合もあるからね」

「NASAは船外活動時の熱こもり事故を想定していたんですよね。

 我々にもあり得ますね」

「もっと用意しておいて、咄嗟に使えるよう何パックか準備しておくとマニュアルに追加しよか」

「賛成」

そして話が逸れる。

「風呂上がりの牛乳は?」

「人によって腹がゴロゴロになるだろ。

 無重力で下痢させない為にも却下!」

「それに牛乳は悪くなるからな。

 廃棄の問題も起こる。

 やるとしても脱脂粉乳を持っていって湯で戻す、かな」

「それかぁー……」

「牛乳は、溢したのを拭いた雑巾の始末も重要だ。

 放置すると、エゲツない事になるぞ」

「湯上りフルーツ牛乳……」

「牛乳と同じだ!」

「コーヒー牛乳は譲れん!

 風呂上がりにはあの甘ったるいのを、だ!」

「生の牛乳メインはダメ!

 清涼飲料水メーカーに、コーヒー飲料で牛乳の代替使ってるのについて聞いとけ。

 いいの有ったら採用」

「よし、全国のメーカーに問い合わせだ」


そして話は明後日の方にすっ飛ぶ。

「宇宙だと、ベトナムコーヒーはどうなるんだろ?」

「ベトナムコーヒー?」

「下にコンデンスミルク入れて、その上にコーヒー煎れて、飲む時に掻き回す」

「甘ったるそうだな」

「コンデンスミルクだと、腹壊す事有ったかな?」

「要は、無重力で掻き回すのやったらどうなるか?だな」

「そうです」

「よし、実験テーマに追加しておこう」


今日も重要な事と、それと同じくらいのボリュームのどうでも良い事が決まった。




そして、ペンディングがかかっているが、「人工重力型浴場ユニット」設計チーム:

「聞いたか?

 低重力だとのぼせやすいようだ」

「となると、4分の1Gくらいじゃ足りないなあ。

 2分の1Gくらいにはしたいとこだね」

「となると、回転を速くするか、アームを長くするか……」

「回転はこの前却下になっただろ、飛行士が移動しづらくなる」

「となると、アームか……。

 計算しようか……」


これまで、0.25Gの人口重力を得る為、直径40メートル(両端の浴室モジュールの直径4.2メートルでアームは31.6メートル)を毎分3回転(20秒で一周)と計算していた。

これでも目が回る可能性と、本体から回転するモジュールへの移動が困難ではないか? と意見が出ていた。

0.5Gの人口重力を得るなら、同じアーム長ならば毎分4回転(15秒で一周)、同じ回転数ならアームの直径を60メートルにする必要がある。

アームが長くなれば、振り回される速度も速くなるから、同じ毎秒3回転でも負担は大きくなる。

回転数を毎分2回にするなら、アーム長は100メートルは必要になる。

「ISSに匹敵するサイズだな……」

「持って行く材料をどうするか、難しいとこですね」

贅沢を言うなら、2分くらいで一周するくらいで重力も1Gが良い。

そうなると直径10キロメートルが必要となる。

宇宙コロニーを作る事になる。

現在の予算では、薄っぺらなドーナツ型コロニーでも造れない。


「星空温泉郷」計画は、とりあえず直径100メートル以内を目指し、出来るだけ実現可能な形に落とし込むべく、他の業務の隙を見て議論を深めていく。

(浴室モジュールの為に専任スタッフを割く等、多忙なJAXAには許されない。

 彼等は他のプロジェクトをこなしながら、サークル的な立場で”世界初の宇宙浴場”を作ろうとしているのだった。

 片方のユニットを「天空之湯」、反対側のユニットを「月見浴場」、中央の「無重力サウナ」と合わせた「星空温泉郷」計画は実現までまだ程遠い……)

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― 新着の感想 ―
[一言] >>「星空温泉郷」計画 入浴関係企業の開発室どころかスーパー銭湯作ろうとしてるぞこいつらw そういや体臭って結構食べ物によるものの比率が多いらしい ヨーロッパ系はバター臭い、日本人は醤油臭…
[一言]  北海道にはドサンコのソウル・ドリンク、『カツゲン』と言うのが有りますっ。  長期航海から潜水艦乗りが陸に上がって帰宅の電車の中、どんなに混雑していても周りの人が近付かないと言うのを思い出…
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