国際協調の続き
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
日米首脳(ただし前職)の宇宙旅行は、一部の国際社会に影響を与えた。
VIPが宇宙に行き、帰って来られたのだ。
一番生命の安全に気を使われる者が行けるくらいには安全なのだ。
これは今すぐにとは言わないが、いつか行くに限る。
特にアラブの王族が食いついた。
また世界各国の大金持ちたちも宇宙旅行を計画し始める。
どこか「まだ危険」で冒険の香りがした宇宙旅行が、一気に可能なものへとなって来た。
それだけでも日米の両首脳が宇宙に行った事の、セールス面でのアピールは大成功と言えるだろう。
アメリカの民間宇宙企業には問い合わせが殺到している。
嬉しい悲鳴だ。
そしてアメリカではこれをビジネスチャンスと捉え、新たな起業をする者が出て来る。
宇宙旅行における宿泊設備の開発業、宇宙ホテルの経営業、宇宙旅行の代理業、宇宙旅行における保険業、宇宙旅行における生活用品の開発業、等等。
まあこの効果が現れるのはもっと後の事で、これによって近々に迫る中間選挙で、前大統領派の支持率を伸ばす事には繋がらなかったが。
前総理が有人宇宙船計画を考えたのは、当時の対米貿易黒字を減らす方策ではあったが、政治家として彼は一石何鳥もの効果を考えていた。
その一つに、宇宙開発上の発展途上国に声をかけ、日本の宇宙ステーションを使わせる事で親日国を増やすというものがあった。
数年前からの世界規模での流行病で、日本に人員を派遣出来なくなり、その方針一旦低調となっている。
しかしまだ完全終了した訳ではない。
アメリカにしても、自国の宇宙開発で巻き込む、具体的に言えば金を出す国が増えるのは良い事だと考えている。
そして素直にアメリカに頭を下げられず、アメリカの世話になりたくないと嘯かざるを得ない連中がいる事も承知している。
だから日本というワンクッション挟めば、ビジネスチャンスを取りこぼさずに済む。
どうせ日本の宇宙船は、アメリカからの輸入品なのだ。
日本を頼って宇宙に行ったとしても、アメリカの顧客じゃないとは言えない。
組織的に日米が密着したものに変わっても、日本の宇宙旅行外交は積極的に支援して行こう。
「それと、ハリウッドから宇宙ロケの申し込みがありました」
「インドからも映画撮影の為に宇宙ステーションを貸して欲しい、と」
「フランス、イギリス、それから香港からも撮影の申し込みが来てます」
「映画俳優も安心して宇宙に行けると思ったのだな」
この映画撮影は、資金確保という面で馬鹿にならない。
当たれば出費を大幅に上回る収益を世界中で挙げられるのだ。
可能なら巨費を投じる世界なだけに、大金を払ってでも宇宙ロケをしたいと思うのだろう。
「……で、このアサ〇ラムって、あのアサイ〇ムだよな」
「……一体宇宙で何の撮影をするんでしょうね?
スペースジョーズですかね?」
「日本からは?」
バラエティー番組がいくつか申し込んでいる。
だが、実写よりもアニメが強い日本においては
「別に行かなくても、宇宙のシーンは描く事出来るからなあ……」
という事であった。
この辺の娯楽利用については、NASAが上手く処理する事になる。
アメリカよりも日本主体の宇宙外交、それは食事である。
日仏伊共同開発の厨房モジュール「ビストロ・エール」。
ここの運用データはフランスとイタリアにも蓄積されていた。
今回の日米前首脳の宇宙会談、その2国が最も不満に思ったのが料理についてであった。
「あれだけの厨房がありながら、メインはハンバーガーだと?
これだから食生活の貧相な国は嫌なんだ」
「まあ、大豆ミートを多く使うような工夫は見られるが、それは地上でも出来る事だしな」
「料理人が悪いのではないだろう。
あのエレガントさの欠片も無い前大統領が悪いのだろう」
「前大統領だけの問題ではないな。
その前も、現職もエレガントさの欠片も無いだろうに」
「違いない」
「にしても、日本の前総理の食事の調理実績も大した収穫にはなっていないな。
あの人は割と美味い物が好きだったと思うのだが」
「ずっと宇宙酔いが酷かったようで、食欲は全く無かったそうだ。
だからほぼ病人食だ」
「だとしても、スープや粥、それにスポーツドリンクでは芸が無い」
「仕方ない。
病人からのリクエストだそうだ。
若く見えるが、あの人も結構な老人だ。
食欲が無い時は、辛うじて口に入れられる物も保守的になるのだろう」
等と他者を見下すような言動をしつつも、分析はしっかりしている。
「JAXAに問い合わせて、前総理のバイタルデータを送って貰おう。
それと食事の時間との付き合わせだ。
食べたものと同じ食材を用意。
ここまで酷い宇宙酔いをしたデータも少ない。
その状態で何を食べれば良いかを調べる、うむ、実に興味深い!」
「……まあ、こめかみが痛くなる程噛まないとならない、我がフランスのバゲットでない事は確かですな」
なお、会話の内容こそ違うが、アメリカでも日本でも「ここまで酷い宇宙酔い」と飲食が与える影響については研究が始まっている。
如何に「ただのお客さん」「訓練も正規の飛行士に比べ、やってないに等しい」「生きた荷物」扱いの政治家飛行士であれ、酷い宇宙酔いという事で貴重なデータが取られるという、妙な役立ち方をしたのであった。
そして医療の専門家とも言える看護師付き添いだった為、彼女に聞き取りをする事で、数値に現れない変化や状態も知る事が出来た。
情報共有という意味でも、有意義な国際協調が行われたのであった。
おまけ:
ロシア大統領「首相、君も宇宙に行きたまえ。
我がロシアの宇宙技術の高さを証明する為に」
中国主席「首相、君も宇宙に行きたまえ。
我が中国の宇宙技術の高さを証明する為に」
両国首相((行ったら最後、居ない間に失脚させられかねん!!
ここは全力で拒否をしないと!!))




