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両首脳の宇宙旅行出発

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

注目のアメリカ前大統領を乗せた宇宙船の出発は、延期された。

上空の気象が打ち上げに合っていないという理由である。

よって、日本の前総理を乗せた宇宙船の方が先に打ち上げられる。


なお、これは壮大な「茶番」である。


日本と違って物騒な兵器を持ってテロをする危険な連中がいるアメリカでは、敵も多い前大統領の身の安全を考えている。

そこで、わざと延期を発表し、ここだと狙いをつけている連中の意表を突いたのだ。

そんなテロリストが本当に居たかは分からない。

だが、念には念を入れるものである。

よってJAXA、秋山は既にこの事を承知している為、日本側はオンスケジュールで行動する。


前大統領の打ち上げ延期が「茶番」なのは、外交的・メンツ的な理由もあった。

要は「先に着いた側が出迎える」形式になる為、日本の前総理が「公式に」出迎えると「格下」のように見えてしまう。

逆もまた然り。

この辺に拘る人も居る為、公式発表では「ほぼ同時に到着」とされた。

実際の所は臨時公使に任命されたマツバラ料理長が出迎えた直後に、前総理が日本の宇宙ステーションに招待するという画を撮る事が決まっていた。

その為、前総理の方が先に到着しておく必要がある。

故に「前大統領はやむを得ない理由で遅れる」という形式が必要なのであった。


種子島上空は快晴、風もほとんど無い。

種子島上空の天候次第ではスケジュール再調整となるが、どうやらオンスケジュールで行ける。

「ジェミニ改」に乗り込み、予備座席に腰掛けると、シートベルトを締める前総理。

狭い、とてもVIP席とは思えないものだが、何か非常に嬉しそうにしている。

「いよいよ行けるんだね。

 なんだかワクワクが止まりません。

 後で操縦席にも座らせて下さいね」

「後で、ですよ!

 打ち上げの時は無理ですからね!」

前総理のテンションは少年時代に戻っている。

宇宙服のヘルメット内マイクを通じて話している為、会話の内容は管制室にも筒抜けであり、管制官一同笑いを堪えていた。

ジェミニ改はアメリカの宇宙船と違い、完全自動操縦は出来ない。

元々訓練用に開発された機体だ。

操縦桿を無効には出来ない。

打ち上げどころか、慣性航行中も操縦席には座らせられない。

まあ操縦席は船長席と航法士席がある為、片方がおかしな事をした場合、もう片方が訂正する事は可能だが。

とりあえず、「こうのす」にドッキングしてシステムを停止し、与圧室の制御を宇宙ステーション側に移してから、好きに座って貰おう。


そしてついに打ち上げ。

アメリカ大統領程敵が多くなく、テロの危険性は低いとされる日本だが、それでもセキュリティには万全を期す。

種子島宇宙センターには一般人立ち入り禁止、マスコミも遠方から撮影する。

島内には陸上自衛隊、近海には海上自衛隊、上空には航空自衛隊の部隊が展開していた。

そんな警戒態勢の中での打ち上げとなったが、島内の展望台や県道75号線沿いには多数の見物客が集まり、前総理の旅立ちを見送った。

なんだかんだで人気が高い政治家なのである。

そんな観客の前で失敗は出来ない。

万が一失敗があっても、無事に生還させねばならない。

ロケットの状態をモニターする管制官と、いざという時は非常脱出装置を作動させる船長は、手に汗を握っていた。

そして非常装置は発動される事無く、ジェミニ改は軌道に乗る。

最短コースで宇宙ステーションへ向かうのだが、それでも半日以上は単独航行となるジェミニ改は、同じロケットに積まれていた汎用輸送機「のすり」政府専用バージョンとまずはドッキングした。

「総理、どうぞこちらにお移り下さい」

狭いジェミニ改から、宇宙ステーション補給機「こうのとり」の与圧部と同じ広さの「のすり」への移動を促す。


「いやあ、ついに来たんだね。

 感無量だ。

 子供の頃に夢見た事が、まさか政治家となって叶うなんて。

 有人飛行を無理言ってやらせて本当に良かった!」

「総理、今何と言いました?」

「ナンデモアリマセンヨー。

 アナタノキキマチガイデスヨー」

「……誤魔化しても、我々の会話は地上管制室に聞こえているんですがね」

「そうでしたね。

 皆さん、他言無用で」

そう笑う前総理だが、秋山始め地上スタッフ全員

(もう今更って感じですな。

 大体勘付いてましたから)

と内心ツッコミを入れる。

当時の貿易黒字減らしが目的であれ、真の目的は六十歳児の夢を叶える為であれ、前総理の推進あっての日本の宇宙開発発展はあり得た。

如何に無茶ぶりが多かったとしても、アメリカ共々困惑させられた事が多かったにしても、「言うは易し」で前総理の発案を形にする現場が苦労させられたにしても、それだけは感謝すべき事かもしれない。


秋山は苦労を同じくするNASAの関係者に連絡する。

「無事に打ち上げられました。

 ジェミニは想定通りの軌道に乗りました」

『こちらも確認した』

「ではエスコートはお願いします」

『了解した。

 NORADとも連携し、宇宙においても合衆国の友邦の首脳を護り抜こう』


ジェミニ改からはただの輝く点にしか見えない。

相当遠方ではあるが、アメリカの特別任務の衛星たちが、ジェミニ改を護る陣形を組んで同行していた。

一国のトップ級の政治家が宇宙に出るとなると、やはりただの夢の実現では済まされない、現実的な対応は必要となるのであった。

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