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あとは打ち上げるだけ

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

アメリカ大統領は上院あるいは下院の議員を兼任していない。

元議員や元州知事がなったりするが、就任及び退任の時点ではその職からは離れている。

故に前大統領の予定は彼の意思で決められた。


一方日本の総理大臣は衆議院議員または参議院議員である必要がある。

議院内閣制というやつだ。

故に、前職となった総理大臣は政界から引退したり選挙で落選でもしていない限りは、そのまま国会議員として残る。

その為、前総理も引き続き衆議院議員のままであり、自由に予定を組む事は出来ない。

不在となる時期に国会が開かれる場合、不在となる理由を説明しないとならない。


国会法第百二十四条

 議員が正当な理由がなくて召集日から七日以内に召集に応じないため、又は正当な理由がなくて会議又は委員会に欠席したため、若しくは請暇の期限を過ぎたため、議長が、特に招状を発し、その招状を受け取つた日から七日以内に、なお、故なく出席しない者は、議長が、これを懲罰委員会に付する。


懲罰委員会に掛けられた場合、

国会法百二十二条

 懲罰は、左の通りとする。

 一、公開議場における戒告

 二、公開議場における陳謝

 三、一定期間の登院停止

 四、除名


という処分が審議される。

最悪除名となった場合、


国会法第百二十三条

 両議院は、除名された議員で再び当選した者を拒むことができない。


となって、政界復帰は不可となる。

まあ議員とならずとも隠然たる影響力を持つ者や、どうして当選したのかよく分からず、除名されても元の生活に戻るだけで痛くも痒くもない者もいるが。

それでも前総理にはそれは該当しないし、懲罰委員会になんか掛けられたら、その時点で失脚となってほぼ再起不能となるだろう。

きちんと届け出を提出している。

それでも難癖はつくものだ。

「外交の一環」

であるという説明を、一部の野党は納得せず「外遊」や「遊学」の「遊」を「あそぶ」としか読んでいない論調で批判していた。

(じゃあ、野球の遊撃手(ショートストップ)は遊んでいる野手か?

 違うだろ!)

「よその土地に出かける」とか「位置を定めず自由に動き回る」という意味だってあるのだが、とかく「外遊」を「遊びの外交」と解釈して叩いていた。

だがそれは少数の者と、ルサンチマンを食い物にする週刊誌や日刊紙の言動で、多くは別の批判をしている。

「この宇宙旅行に意味はあるのか?

 単なる税金の無駄遣いだろう?

 前職同士の個人的な会合をしたって、何か決まる訳ではないだろうに」


日本の現総理もアメリカの現大統領も、ただの個人的な宇宙旅行ならGOを出さない。

そんなに甘い政治家たちではない。

日本は同じ与党同士だが、アメリカの場合前職と現職は異なる政党に属していて、協力する筋合い自体無いと言える。

だが宇宙行きを認めた事には訳があった。


一つはロケットのセールスである。

アメリカでは宇宙ステーションに誰それが行ったと、大きくニュースにはならない。

宇宙飛行士が宇宙に行ける事に興味は無いのだ。

エリートである宇宙飛行士よりも、SFテレビドラマの艦長が宇宙に行ったとか、大富豪の老人が行けた、という方が話題になる。

日本でも事情は似ている。

「ジェミニ改」や「こうのす」計画で宇宙飛行士が増えたのは良い。

しかし、次第に注目されなくなっていった。

最初の頃は頻繁に行われていた宇宙と地上の青少年を結ぶ通信も、流行病のせいで人を集めてはいけなかった事情もあって、ほとんどされなくなった。

注目されたのは、人気アイドルが宇宙に行った事や、北海道のローカルバラエティー番組で宇宙に行ってまで愚痴を零すのが放送された事だったりする。

メジャーリーグの二刀流選手同様、見過ぎた結果「凄い筈なんだけど、慣れてしまった」状態になった。

そもそも有人宇宙飛行計画には

「人間というデリケートな存在を乗せても、無事に行って帰って来られますよ」

という宣伝の意味も含まれている。

人間を運べるロケットならば、まず失敗しないだろう。

信頼を買える。

信頼を得れば、人工衛星等の打ち上げセールスに繋がるのだ。

安価な中国、インド、ロシアのロケットに負けない為には、信頼性で勝負するしかない。


そして中国、ロシアの名が挙がったが、この国に対する技術的優位性の誇示も戦略としてあった。

中国にも同じ戦略があり、それで自国の技術で有人宇宙飛行を行っているし、月探査なんかもしている。

外交や技術、それがもたらす軍事力といったプレゼンス誇示の為にも

「日米は前総理や前大統領も安心して宇宙飛行が出来る。

 それだけの技術的な習熟をしている」

と宣伝したいのだ。

そこには

「中国もロシアも、前職であっても主席や大統領あるいは首相を宇宙に行かせられないだろう」

という読みもあったりする。

自分が不在の間に失脚するかもしれない、また危険な場所に行くから裏で手を回されて失敗させられるかもしれない、そういう恐怖があるからだ。

日米だと「失敗して痛い目に遭えば良い」くらいには思っても、そこまで酷い陰謀を働いたりはしない。

バレた日にはとんでもない事になる訳だし……。


こうして有人宇宙飛行の、ロマン以外の政治的な部分を煮詰めたようなミッションは最終段階に入る。

あとは打ち上げて、宇宙ステーションで両者が出会い、戻って来れば良い。


「皆、現体制での最後にして最大のミッションだ。

 失敗しないよう万全を期していきましょう」

秋山が統括責任者としてスタッフに気合いを入れる。

成功すれば政治的な宣伝効果大、それは裏返せば「失敗した時はそれが大々的に世界中に広まる」事でもある。

失敗は常に許されない。

失敗しない為に、これまでずっと積み重ねて来た。

その集大成を見せる時が来たのである。

おまけ:

「外遊」の話は、以前K総理が外交していた時に

「外遊なんて、音楽祭観に行ったり、美味しいもの食べたり、そんな遊びだろ」

と一部メディアで言ってた記憶からのネタです。

そりゃ遊んでるように見えるけど、その部分を切り取ってそう見せているのはメディアの方だし、「外遊の遊は遊ぶじゃないだろ」と思ったものでして。

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