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結局収まるところに収まる

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

「それでは最終選考結果を発表します」

報道陣や本人たちを前にして

(なんか、オーディン番組で結果発表するような感じだな)

秋山はそう感じていた。

普通はこういう形式で結果発表などしない。

書類を送る程度だ。

担当の人間が後は事務処理を行う。

なのに今回は、注目度が高い事もあり、こういう形式を要求されてしまった。

(いっそ関西弁で

『合格者、無し。

 惜しかったな、あとちょっとやで』

 とか言って、全員研修生に回せたら気が楽なのだが……)

とか心をよぎる。

だが、誰もが分かってはいて、あえて大っぴらには口にしない「出来レース」だからそんな遊びは許されない。

報道陣は、結果が出てから「これは出来レースだ」と騒ぎたいから、今までは言わなかっただけだが。


さて一同に会した面々を前に発表する。

合格は前総理と元財相。

野党の若手議員は

「希望するならもう一回挑戦して貰う。

 今回は特殊な状況だったから実力を発揮出来なかったかもしれない」

と伝えた。

玉虫色の発表だが、きちんと判断しての事だ。

本来選考については公開なんかしないし、もっと時間を掛けて心構えとかを叩き込んだり、何度もシミュレーション上で死亡させてから行うものだ。

これだけで決めてしまっては、可哀想というよりも「明らかに情報が足りない」のである。

暴走をしてしまった、それは極めて危険だ。

追試を行って、それでもなお暴走をするようならば資質無しとして落選させる。

しかし訓練段階であれば、むしろ一回派手に死んだ方が、以降は慎重になる傾向もある。

順調に行った人が、本番の極度の緊張でヒヤリハットレベルの事をしたりもする。

その旨も正確に伝えてみたが、

「いや、遠慮する。

 私は政治家をしていて、与党の監視が仕事だ。

 その一環で参加したのであり、宇宙飛行士になりたいのではない。

 まあ、少年時代に戻れるならそれもアリなんだけどね。

 もう一回チャンスをくれるのは有り難いけど、それは政治の場面に生かさせてもらうよ。

 こんなお客さん扱いの訓練じゃなく、次の飛行士になる為の訓練はもっと厳しいんでしょ?

 もうそんな時間は無い。

 国会に戻らないとね」

(野党は散々審議拒否で国会を……)

とは誰も口に出さなかった。

とりあえず神妙にしている為、それ以上は何も言わない事とする。


後にこの野党議員は語った。

「どう見ても酷いミスをやっちゃったからねえ。

 あそこでゴネたら、僕が大人げないってなっちゃうでしょ。

 結果は最初から見えていたけど、前総理が合格する事はともかく、僕が落とされる事には何も言えないと思う。

 本気で宇宙飛行士を目指したのなら食らいつくけどね。

 ただ、焦ってワーワー騒いだら失敗するって分かったばっかりなのに、同じような事をまたしたら本当に

『駄目だこいつ、早く何とかしないと』

 って呆れられるでしょ。

 物足りなかったかもしれないけど、あそこは退くのが正解だと思ったよ」

とりあえず、最終選考でミスをした経験は糧となったようだ。


「それで、どちらが最終的に宇宙に行くんですか?」

報道陣の質問に秋山が答える前に、元財相が口を挟んだ。

「そりゃあ前総理に決まってんだろ。

 歳を考えろよ。

 俺はバックアップに回る事は承知するが、若えこいつを差し置いて行こうとは思わねえよ」

元財相の好プレーである。

報道陣はJAXAの口から「行くのは前総理」と言わせたかったのだ。

理由は色々あるし、理解も出来るが、肝心なのは前総理を批判出来るか否かである。

それを元財相の方から辞退に近い発言されたら、JAXAを攻めて、そこ経由で前総理を叩く事が出来なくなる。

「野党の先生もさ、何だったら俺に代わってバックアップに回ってくれねえか?

 年寄りにはこたえるんだよ。

 無重力なら腰も痛くならねえかもしれねえが、訓練施設のベッドはちょっときつくてさあ」

「いや、再訓練は遠慮すると申し上げましたよ。

 次回から気をつけていても、どこかで私の出しゃばり癖が出てしまうかもしれない。

 その時に他人の命を脅かすのはごめんです。

 まあ私も死にたくないですし」

「なんだよ、若え癖に意気地ねえなあ。

 まあ良いか。

 俺なんかだと、いつ死んでもいいって思うくらい生きたしなあ」

元財相がべらんめえ口調でまくし立てる。

「いや、JAXAの名誉にかけても、絶対に生還させます」

そう言う秋山に対し、元財相は笑う。

「いいんだって。

 お宅は迷惑かもしれないけどよ、ここにいる報道陣からしたら、前総理と俺と、ジジイ2人には早々にリタイアして貰いたいと思ってるんだからさ。

 もし事故が起こって、ついでに俺も死んだら万々歳じゃねえのか。

 まあ俺と前総理が死んだら、現総理の天下になるから、それでいいだろ」

訓練から解放されたせいか、毒舌が好調過ぎて笑えないレベルである。


それはともかく、前総理の宇宙行きと元財相のバックアップメンバー入りが決まった。

予定調和?

予定通りに事を運ぶまでがお仕事です。

今後も無事の生還まで、予定通りにいって欲しいのものである。




「そうですか。

 日本の方の問題も全てクリアとなりましたか」

NASAとの定時連絡会で無事に前総理が宇宙に行けると報告した秋山に、アメリカ側担当者は羨ましそうに返して来た。

「アメリカでは問題が?」

「問題は無い。

 だが、私は疲れたよ。

 眠いんだ。

 ルーベンスの絵の前で大きな犬と一緒に眠りにつきたいくらいだ」


こちらは前大統領が

「飛行機を操縦するのは訓練が必要だが、飛行機に乗るだけなら訓練は不要だろ!」

と文句を言いまくっていた。

訓練が嫌なのではない。

ビジネスマンでもあるこの前大統領は、無駄な事をするのが嫌いなのだ。

する必要が無いなら、しない。

それを大っぴらに口にする。

その言を支持者が拡散する。

「飛行機に乗るだけでも、ライフジャケットの装着説明を受けたり、酸素マスクが下りて来る説明VTRがありますよね?」

「じゃあ、その程度で良いだろ?」

「今の旅客機くらい完成されていればそうです。

 しかし今はまだ、旅客機に例えるならWW2前のレベルなんです」

あーだこーだ説明し、宥め、時には

「そうですか。

 出来ないんですか。

 思ったよりもタフではないんですね」

と挑発し、やっと乗せても大丈夫なカリキュラムをクリアさせたのだと言う。


「素直っていうのは、結構有り難い資質だと思うぞ」

アメリカ側担当者はため息を吐きながら秋山にそう語っていた。

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